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退院後の初仕事はCM出演。病気で体が動かない自分を待ってくれた
――重いギラン・バレー症候群にかかり、命の危険を感じつつ3カ月以上も入院し、ようやく退院されました。退院後初の仕事は何でしたか?
小堀さん WEB媒体CMの仕事でした。実は、このCMに出るために早く退院させてもらったんです。僕が病気になっていることもご理解いただいていて、オファーをしてくださった大切な仕事です。まだ左足はだらんと垂れてしまって力が入らない状態でしたが、装具と杖で現場に行きました。まわりの方々が気を遣って、数分で終わるようにしてくださったんです。役者としてはもう無理だろうと思っていたので、復帰できたのがとてもうれしかったですね。
リハビリは退院後もずっと続けていたので、徐々に歩けるようになり、東京での仕事に出ることもでき、冬にはNHK 夜ドラの「バニラな毎日」にも出演させてもらいました。
家庭教師の生徒さんも退院を心待ちに!
小堀さん 入院生活が長かったので、7月からは病室で家庭教師のオンラインの仕事もさせていただいていたのですが、退院後は家庭教師の仕事も本格的に再開しました。最初は1日2時間くらいでしたが、徐々に増やしていきました。突然倒れてしばらく教えられなくなったのに、半分以上の生徒さんが復帰を待っていてくれた。本当にありがたかったですね。
僕は中学受験を中心に全教科を見ていて、6年生の生徒さんもいます。6年生の夏休みは受験の正念場ですから、そういうお子さんの授業を素早く再開し、9月からは本格的に受験に向けて取り組みました。
もともと対面でも家庭教師をしていたのですが、秋頃はまだ歩行も完全ではなく、車の運転も電車移動もきついので、オンラインだけでお願いし、今もオンライン中心になっています。
家庭教師のほうは再開した頃は15~20人でしたが、2025年を経て、今は45人をみています。週1回授業のお子さんが25人、あとは月に1回とか2回が20人くらい。オンラインですから日本全国からの生徒さんをみることができ、割合としては東京の生徒さんが多いですね。
――小堀さんのInstagramには、集団授業のお知らせもアップしていますね。オンラインの集団授業は当日参加3500円、アーカイブだと2200円、とても授業料が安いです。

小堀さん 集団授業は安くしているんです。たくさんの人に見てもらいたいですから。僕はもともと公民の高校教職免許を持っていて、社会科が専門なのですが、社会科って覚えることがたくさんあるじゃないですか。歴史なども「覚えなきゃ」ってなるのだけれど、歴史はストーリーとして把握してもらえると印象に残ると思うんですよね。ドラマチックに話したり、歴史上の人物にキャラ付けをして「かわいそうな●●おじさん」とか「筋肉ジジイ」とか、そんなふうに言って記憶に残していく、というのもやります。その後復習をすると、キャラクターが鮮やかによみがえって一気に脳内で再現される。
教師は生徒がカッコよくゴールを決めるためにサッカーのボールをパスする
――俳優さんにドラマを語ってもらうなんて、楽しそうです。むしろ保護者の方がオンラインで小堀さんに会いたくて一生懸命になったりして(笑)?
小堀さん そういうのもあるかもしれませんけれど、きっかけはなんでもいいじゃないですか。それで僕に出会ってくださって、お子さんが授業を聴いておもしろいと思ってもらえて、お子さんの人生のプラスになれば。
「とにかくおもしろく、その子にとってわかりやすく」が集団授業でも1対1でも至上命題です。楽しく勉強して気づいたらできるようになっていた、というのを目指しています。お子さんはひとりひとり勉強のしかたや理解のしかたが違いますから、1対1の場合はお子さんによってアプローチも変えます。その子に合わせてカスタマイズできるのが家庭教師の醍醐味ですね。

受験は一見競争のようですが、その子ができることを1つ1つ増やしていくことが大事なんです。そこで「しんどいな」とか「おもしろくないな」「勉強きついな」って思ったらうまくいかない。
サッカーでゴールを決めるのに似ています。ゴールを決めるのは子ども自身で、僕は子どもたちの能力に応じて、カッコよくゴールを決めてもらえるように絶妙な位置にパスを出す役割。うまくゴールが決められたらうれしくて「またやりたい」「別の単元にもチャレンジしたい」って前向きになる。逆に苦手でできないことも堂々と僕に言えるようにもっていっています。できるだけ近い関係、家族や親戚みたいな感覚で接しています。何十人も自分の家族だとか親戚がいるって感じです。
――受験期になると、お子さんはピリピリしますね。
小堀さん そうですね。でも「闘う戦士の顔」というのかな、みんなめちゃ変わりますよ。そんな姿を見ていると「ああ、かっこいいなぁ、成長したなぁ」と感激します。そういうのに立ち会えるのが家庭教師としてのやりがいであり、一番うれしいことです。
第一志望に受かっても受からなくても「やってきたことを誇りに思って」
――中学受験は、第一志望校に受かる確率はとても低いと言われています。小堀さんの生徒さんの中にも第一志望が受からなかったお子さんがいると思いますが、受験後はどんなふうに接しますか?
小堀さん まず、中学受験をゴールとして設定しないこと。中学受験で学んだことを、その後の人生にどう生かすかのほうが大事です。行きたい学校に行けないのはつらいことだと思うけれど、「そのうち、今進んでいる道が正しかったと思う瞬間が来る」としっかりお話ししています。勉強は無駄にならないし、中学でも生かされるわけだし、これまでやってきたことが今後の土台になる。「やってきたことを誇りに思って胸を張ればいい。思い切り挑戦したという経験が生きるときがゼッタイ来るよ」って。子どもによって言い方も変えますが、そんなことを伝えています。

――熱いメッセージです。
小堀さん 僕自身も、病気になったことはつらかったけれど、この経験を今後の人生に生かしたいと思って生きています。この病気になってよかったと、心の底から思っていますから、説得力あるかな、と思いますよ(笑)。
病気をしてから、「ひとつひとつを大事にしたい」と、以前よりさらに思うようになりました。人間、いつ死ぬかわからない。だから、この子にとっての授業の1時間をより濃くできるように、精いっぱいがんばりたい。役者の仕事もいつも「これが最後になるかもしれない。この仕事を与えてくださったことを心からありがたいと思って全力投球しよう」と。一生そういう気持ちで生きていこうと思っています。
合格したという結果をほめるのではなくて、がんばった過程をほめて
――受験生の保護者に対して思うことはありますか。
小堀さん まず、なんのための中学受験だったか、もう一回立ち返って考えていただくといいかもしれませんね。
お子さんが生まれたときは、ただそこにいるだけで幸せだった。はじめて立って歩いたときはそれだけで「この子すごい!」ってなったのに、中学受験となると、求めすぎてしまいますよね。11歳、12歳の子どもなりにがんばっているのだから、保護者の方にはドーンと構えていてほしい。一番がんばっているのは子どもです。
でも、しんどいのもよくわかります。僕は保護者の方の伴走もしたいから、保護者向けのメンタルコントロールもさせていただいています。しんどくなったら、塾や家庭教師に相談してほしい。話を聞いてもらえたら、とりあえずラクになると思います。
また、志望する学校に受かった子に対しては、受かったことをほめるのではなくて、「ここまでよくがんばってきた」って言ってあげてほしいです。第一志望に受かっても受からなくてもやってきたことは変わらないし、その子は一生懸命やったはず。結果より過程をみてあげることが大事だと思います。
子どもが悩んでいてもうまくいっていても、「あなたなら大丈夫!」っていつでも言ってあげてほしい。そして、過去にとらわれないで、いかに前を向けるか。それを心がけて、家族でスクラムを組んでほしいですね。
――生死の境をさまよって、自力で戻ってきた小堀さんの言葉は本当に心に響き、そしてあたたかい。私たちも「今、この世界で生きている」ことに感謝しながら、精いっぱい子どもたちを応援していきたいですね。
ご自身の中学受験経験を語っていただいた前編はこちら
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お話を聞いたのは
1988年生まれ。関西学院中学部・高等部・大学出身。高校生の頃から俳優業を始め、NHK連続テレビ小説「マッサン」「べっぴんさん」「舞いあがれ!」など数々の作品に出演。大学時代から始めていた塾講師・家庭教師としても活動(塾講師は2023年に退職)し、現在俳優+家庭教師の二刀流。2024年4月、突然ギラン・バレー症候群で手足が動かなくなり息ができなくなる。7月に復帰、2025年には俳優として宮下玄覇監督「長篠」武田勝頼役、米本累人監督「Valsalva」辻本涼役を務める。家庭教師としてはオンラインを中心に45人を受け持つ。高校公民科教職免許、司書教諭、漢検2級、英検2級、珠算3級
取材・文/三輪泉