知的障がいがある私の息子が小学生だった頃、言葉が拙かったこともあり、友だちはひとりもいませんでした。ところが一緒に過ごしていると、息子がいかに「友だち」を欲しているのかが伝わってきます。彼が孤独な毎日を過ごさなくてはいけないことは、親である私にとってもつらいできごとでした。
最近は同僚からも「子どもがナイーブで、友だちを作ろうとしない」という声をよく聞きます。そんなとき、思い出されるのは、私が不登校だった頃のことです。
私は小学校から学校に行かなくなりました。その理由のひとつにクラスメイトとの人間関係が苦痛だったことがあります。
クラスメイトと話をしていると、自分が相手にどう思われているのかが気になりすぎて緊張してしまい、楽しさを感じることができませんでした。一緒に行動していると疲れてくるので、次第に自分の中に閉じこもることが楽だと感じるようになっていきました。
だからといって、他の子のことが気にならないわけではなく、友だち同士で楽しそうにしているのがうらやましくてしょうがありませんでした。その結果「人間関係は苦痛だけど、友だちはほしい」という矛盾に悩むことになりました。
このような経緯は、大人になった今だからこそ冷静に語ることができますが、当時は何がおこっているのか全く理解できていませんでした。近年、不登校の子どもの数が、年々増えていると報じられています。その中には、私のように同世代との人間関係につまずいた子どもも少なくないのではないかと思います。
目次
友だちを作ろうとしなくなった「子どものうち」に起こっていること
周囲の親から聞くエピソードと自身の経験を重ねたとき、子どもが積極的に友だちを作ろうとしないときには、子ども自身は感じているのに言葉にはできないことがあるような気がします。それは「友だち関係における認知負荷が強すぎる」という感覚です。
友だちに気に入られたい、嫌われたくないという不安が強いと、必要以上に多くのことを気にかけなくてはならなくなります。すると友だちとのコミュニケーションの中で、情報を処理したり考えたりする負荷が強くなりすぎてしまうのです。そんなとき、友だち関係につまずきが起こってしまうと、友だちを作ろうとする意欲は失われます。
このような傾向になりやすい子どもの特徴として、自己肯定感の低さがあげられます。自分を肯定する力が弱いと、自身の存在価値を他者からの承認に委ねてしまいやすくなるからです。すると、友だちとの関係においても、相手からどう見られているのか(評価されているのか)が気になりやすくなります。
そういう子どもにとっては、相手に気に入られないと、自分の存在も肯定できなくなってしまうため「どうすれば気に入られるのか」思考をフル回転させて、相手に配慮しようとします。ところが、子どもが考え、配慮できる容量は限られています。
やがて強すぎる負荷に疲れてくると、負荷が少ない、シンプルで偏った認識を持ちやすくなります。実際にはできることや良いところがあるにも関わらず、自身のことを極端に「何もできない、ダメな人間だ」と捉え、自信をなくすこともあるでしょう。
人間関係への負担に対して、人との関わりを避けて自分に閉じこもることで、心の安定をはかろうとすることもあります。その間も、友だちに必要とされない自分には価値がないのではないかという葛藤は、言葉にならない淡い気分として、子どもの脳裏に幾度も浮かび上がります。
そういったことを紛らわすために、私が子どもの頃は漫画やゲームに没頭していました。現代ではそれが、より依存性が高いYouTubeやソーシャルゲーム、SNSに置き換わり、沈んだ子どもの気分を、強い力で束縛するようになっているように感じます。
友だち関係を「負担に感じる子ども」に、親ができること

子どもが友だちを作ろうとしなくなったとき、親も不安になります。親には、生きていくために人間関係が避けては通れないことも、それが大きなストレスの原因になることも知っているからです。
幼少の頃に人間関係に悩んだ経験を持ち、障がい児と健常児の両方を育てることになった私にとっても、子どもたちが人と関わろうとするモチベーションは気がかりでした。障がいがある上の子はコミュニケーションスキルに問題を抱えているし、下の子についても遺伝的な理由で、私と同じ悩みを抱えてしまうかもしれないと感じていたからです。
一方で、悩んだ経験を持つ親だからこそできる、子どもの支え方があることに気づきました。それは「子どもの自己肯定感を支えること」「友だち関係への認知負荷を軽くしてあげること」です。
親が子どものことを語るときに選んだ言葉は、子どもの自身に対するイメージに影響します。つまり、親は無意識に、子どもの自己肯定感に関与しています。自己肯定感について大切なことは、むやみに子どもの言うことを否定せず、リスペクトすることです。
子どもが自分なりに考えて行動したときには、考えて行動できていることを指摘し、家族のためにとった行動にはささいなことでも感謝を伝える。何より、無条件に子どもの存在を認めているという態度を示すことが大切になります。
子どもの友だち関係への「認知負荷」を軽くする
人間関係への認知負荷を軽くしてあげるためには、子どもが複雑に捉えすぎている人間関係の認識を整理して、シンプルにする手助けが必要です。そのために、子どもに以下のような言葉を伝えることも大切になります。
・他人の心はどれだけ考えても分からない
・人間関係では、自分の行動しかコントロールできない
・友だちができるかどうかは確率論にすぎない
他人の心はどれだけ考えても分からない
自己肯定感の低い子どもは、自分が相手にどのように思われているのか想像を膨らませがちです。しかし実際には、それを知ることは不可能です。にも関わらず、そのことにとらわれ続けてしまうことに、認知負荷がかかる原因があります。その負荷を軽くしてあげるために、伝えられる言葉があります。
「他人がどんなことを思っているのかが気になることがあるけど、実際はどれだけ考えても分からない。だから考えすぎるのは良くないんだよ」
人間関係では、自分の行動しかコントロールできない
友だちの気持ちや言動を気にしすぎているときは、自分の言動で相手の反応が変わることを期待しすぎていることがあります。
人間関係において、相手を変えることはできません。変えられるのは自分の言動や心のあり方だけです。変えられない相手の態度を気にするのはほどほどにして、自分の気持ちや振る舞いに意識を向けることは、認知負荷を下げることになります。そのことを言葉にして子どもに伝えることができます。
「どれだけ努力しても、友だちは変わってくれない。でも自分の態度や話し方は変えることができる。友だちとの関係で変えられるのは、自分の行動だけなんだ。だから、自分がどう行動するのかが大切なんだよ」
友だちができるかどうかは「確率論」にすぎない
努力したのに友だちができない。その現実は、子どもに大きな喪失感をもたらします。自分を受け入れてくれる人はいないのではないかと感じるようになるかもしれません。しかし、それは偏った見方です。なぜなら、その孤独は、学校のクラスという極めて限定的な集団にハマらなかったことにすぎないからです。
人とのつながりは、その人と共有できることであったり、相性が良かったりという、偶発的な理由で生まれます。つまり確率にすぎません。にも関わらず、友だち関係が苦手な子どもは、なんとなくそれが「自分に原因がある」と考えがちです。そうではないことを、言葉にして伝えてあげる必要があります。
「友だちになれるかどうかは相性で、単なる確率なんだから、いちいち気にしすぎない方がいい。それよりも、いろいろな人と話をしてみたり、自分の好きなことをみつけたりすることの方が、案外、気が合う人と出会いやすくなるんだよ」
人間関係の悩みをきっかけに家族で取り組めること
ストレスの多くは人間関係から生まれます。そのことについて学ぶ機会は学校教育の中では限られているため。まずは家庭の中で話題に出すことが大切なように感じます。
一方で、親である私たちには人間関係の悩みがないのかというと、そう言いきれない人も多いのではないでしょうか。つまり現代では親も子も、人間関係に悩みがある状況です。人間関係の悩みは、親子で共有できて、一緒に学ぶことができるカテゴリーなのです。
親子で一緒に学ぶことのメリットは、大人ですら悩んでいるのだから、子どもがうまくいかないことがあるのは当然だと、説得力を持って伝えることができることです。子どもに情けないところをみられるのは気が引けるかもしれません。しかし、自信を喪失している子どもに、大人も不完全であることを伝える意味は大きいのではないかと思います。
人間関係にまつわる多くの本は、悩んでいる人が手に取ることを考慮して、読みやすい文体になっています。手に取った本の内容を、自分の悩みも添えて、内容を子どもと共有してみる。私は普段からそのようなことを意識しています。
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記事執筆
医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。
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