「中学受験に落ちた…」モヤモヤを抱えた今だからこそ、親がわが子に伝えたい言葉とは?【花まる学習会代表・高濱正伸先生に聞く】

中学受験の第一志望が不合格だったあと、家の空気が重たいままになっていないでしょうか。子どもは部屋に入って黙り込み、親はわが子を励ましたいのに、言葉が出ない。
そんな「結果が出たあと」の時間を、親はどう切り替え、どんな視点で受け止めればよいのか。長年、中学受験の現場で親子を見続けてきた花まる学習会代表の高濱正伸先生に伺いました。

親の切り替えは難しくて当然。でも、いちばん大切

―今年度の中学受験が終わりました。精いっぱいやったのに第一志望に届かず、残念な気持ちが続いているご家庭も多いと思います。

高濱先生:「Today is the first day of the rest of your life.」
アメリカの薬物中毒者救済機関「Synanon(シナノン)」を設立したチャールズ・ディードリッヒの言葉です。

この言葉は、第一志望に届かなかった中学受験の「いま」にこそ、親が立ち返りたい視点でもあります。「今日という日は、残りの人生の最初の日なのだから、過去にとらわれ続けるのではなく、ここから先をどう生きるかに目を向けよう」。そう考えれば、失敗や挫折があったとしても人生は何度でも仕切り直せる。昨日までの結果が、これからの人生を決めてしまうわけではありません。

もちろん、無理に明るく振る舞う必要はありません。中学受験は多くのご家庭にとって初めての真剣勝負。この厳しい戦いの中で、学力も心も強くなることを目標に、親子で本気で取り組んできた。だからこそ、第一志望に届かなかったとき、家族全体でガクッと来るのは当然です。親だって人間ですから、悔しいし、自分を責めてしまうこともあるでしょう。「平気でいなければ」と思い込む必要はありません。

ただ、逆に言うと、ここは親としての力量が試される場面でもあります。落ちたことを引きずってしまうのか、それとも通過点にして次へつなげるのか。どちらにでも持っていけるんです。

―不合格も「通過点」にすぎない、ということでしょうか。

高濱先生:そうです。これは慰めでも何でもありません。事実として、人生には次のチャンスが何度もあります。大学受験でも、社会人になってからでも、いくらでもある。どの学校を出たか、どの会社に入ったかで、その後の人生が決まるわけじゃない。実際、中卒でも大成功している経営者はたくさんいますし、本来はそこは関係ないんです。

一生懸命やった後の努力は間違いなく、これから先の人生でプラスになります。中学受験に本気で取り組んできた子は、公立中学に進んだとしても最上位にいられるだけの勉強をしていますから。学力だけじゃない。粘り強さも、やりきった経験も、すでに身に付いているんです。

―子どものほうは切り替えられるものなのでしょうか。

高濱先生:子どもは生命としてたくましいですよ。不合格になったときは悲しくても、過去は過去として、ちゃんと前に進んでくれる。「次は中間テストを頑張らなきゃ」と、自然に切り替わっていくんです。

子どもの心に刺さるのは、結果そのものよりも、合格して、お母さんを喜ばせたくて、笑顔にしたくて頑張ってきたのに、それができなかったことです。子どもは〝心の生き物〟。お母さんが「大丈夫よ、心配しなくても」と優しく言っても、表情や声色から、お母さんが落ち込んでいることはすぐに伝わります。子どもはみんな、お母さんを喜ばせたい。これは、長年、数えきれないほどの子どもたちを見てきたからこそ、断言できます。

第3志望に進学する息子に笑顔で「ここが、あなたの学校だよ」

―第一、第二志望に届かなかったT君と、その結果を受け止めたお母さんの姿が印象に残っていると伺いました。どんなご家庭だったのでしょうか。

高濱先生:T君のお母さんはいつも笑顔でした。T君が第一、第二志望に届かなかったときも変わらず笑顔で「その中学が、あなたの行く学校なのよ」と。この一言で、空気がガラッと変わった。「そっかあ!」と思ったT君はノーストレスで、第三志望の中学に進学しました。

T君は小6のときに「スーパー算数」*を受講していたので、進学先では学力に余裕がありました。先生からも「T君、すごいね」と言われる。そうするとね、自然とリーダーシップが芽生えてくる。部活動にも熱中して、外見もどんどんかっこよくなっていくんですよ(笑)。

そして6年後、東大に合格しました。結果として、その中学に行って本当によかったのです。

*「スーパー算数」は、花まるグループ受験部門・スクールFCが開講する、新小学6年生対象の最上位算数講座。受験算数の枠を超えた数理的思考力を育成する選抜クラス。

―「お母さんの笑顔」が大事だった、ということでしょうか。

高濱先生:大きいですね。T君のお母さんは中学の入り口で最高の対応をされました。もともと、「T君が生きてるだけでいい」と言う方だったんです。T君に心の底から「楽しみなさい」と言っていました。

そこでトップになれるのが「いい学校」

僕はいつも言っているんです。「行った学校でトップでいけ」と。

子どもは、毎日横で接する人と比べて、自分をつくっていきます。周りとの比較の中で、自分に自信を持つか、卑下するかが決まっていく。それが根強く心に残ると、6年後、誰が聞いても知っている有名な大学に行ったとしても、中高時代の自分への評価のまま「俺、開成に行けなかったんだ」と、自分を下に見てしまう子もいます。T君は、第三志望だったけれど上位にいたから自分に自信がついた。これが、いい学校の選び方だと思っています

「そんな切り替え、今の自分にはとてもできない」と思う方もいるかもしれません。でも、お子さんが次の場所でのびのびと力を伸ばしていける姿を見るチャンスはこれからいくらでもあります。

小学校受験の失敗を中2になっても…

―親が知らず知らずのうちに「第一志望に届かなかったのは、8月のあの講座取らなかったからかな」、「合格できなかったのは塾を間違えたのかな」など、過去の選択をずっと掘り返してしまうことがあります。親が過去を見ているから、子どももネガティブになるという実例はありますか。

高濱先生:当時、中2だったS君は、成績もいいし、イケメンだし、モテる感じなのに、いちいちネガティブに「どうせ俺なんか」とか言う。なぜだろうと思って三者面談をすると理由がわかりました。S君のお母さんが小学校受験の抽選で落ちたことをまだ引きずっていたんです。S君のお母さんに悪気はないのですが、言葉の端々に「あのとき、私の失敗でSを落としてしまった」とにじみ出てしまう。つまり、過去を見ているのです。家庭の空気を子どもは敏感に吸いますから、S君がネガティブになっても仕方なかったのでしょう。

―S君は、高濱先生と出会って、どのように変わったのでしょうか。

高濱先生:僕は彼らにとって、兄貴分みたいな立場ですから、はっきり言いました。「お母さんが引きずっていることを君もずっと気にしてきたはずだ。でも、お母さんにも悪気はない。もう乗り越える時期だぞ。これはS君自身の人生なんだから。今日から、この日を最高の日にしていこう」と。

僕はこれを「心の手術」って呼んでいます。ちゃんとした言葉を渡してあげれば、人は前に進めます。S君ですか?今は医者になって、大活躍していますよ。

日記で自分を客観視して

―親が切り替えるための特効薬のようなものはありますか。

高濱先生:特効薬はありませんが、僕がすすめているのは日記です。不合格直後の正直な気持ちをそのまま書く。10日ほどたって読み返すと、「これ、そんなに問題じゃなかったな」と思えたり、「私、昔のことばかり気にしてたな」と自分を客観視できたりします。ポジティブに使えば、日記を書くことで自分の価値観や生き方が見えてくる。今日、寝る前に一行書くだけでも十分です。

相談する相手との距離感も大事です。中学受験のママ友同士で話していると、知らないうちにその世界の価値基準にはまりこんでしまうことがあります。だからこそ、話を聞いてもらうのは、同時に受験している人ではなく、受験を終えて数年たった先輩のお母さんのように、中学受験と少し距離のある人がいいと思います。

ここで一つポイントがあって、時間や余裕があるお母さんほど、中学受験という世界に深くはまりやすいこともある。すると知らず知らずのうちに、「その子の評価が、私の評価」みたいになってしまうんです。もちろん、そんなことはありません。逆に、働いているお母さんは、切り替えが比較的早いことが多いんです。仕事という別の空間、自分が生きる場所を持っているからなのでしょうね。お母さん自身が社会の中で、「学歴が全てじゃない。最後に問われるのは、実力や人としての魅力だ」という現実を、日常的に見ているのだと思います。

親ができるのは「出会いのセッティング」のみ

―中学以降、親はどこまで関わるのがよいのでしょうか。

高濱先生:この時期は「外の師匠」と出会う年齢になります。部活だったり、先輩だったり、年上の人だったり。姉貴分、兄貴分の生き方に影響を受けて、「これがいいらしい」「この人、かっこいい」と子どもは走り始める。だから、親としてできるのはせいぜいセッティングなんですね。外の師匠の言葉は親の言葉よりずっと響くことが多いんです。

子どもは胸の中に「スター」を作りがちなんですよね。「あの人、すごいよね」って、大きな存在に憧れる。そういうのも、ちょうどお年頃なんです。だから、伝記的な話や、実際に活躍している人の話は、この時期すごく影響を受けます。

―実際に、出会いがきっかけで変わった子の例もありますか。

高濱先生:中学に入ってすぐ、テニスに熱中して、テストでは学年最下位だったO君の話です。ある時、O君のお母さんが、NASAの1週間留学プログラムに参加させたんです。O君はNASAで科学者たちのスピード感や、目の輝きを見て、「かっこいい!」と衝撃を受けた。さらに宇宙飛行士の毛利衛さんから「宇宙は君たちの時代だ」と言われた瞬間、それまでの意識がガラッと変わったそうです。帰国後、O君は猛烈に勉強し始めました。

「今日が、次のスタートの日」

―最後に、第一志望に届かなかった保護者の方へメッセージをお願いします。

高濱先生:中学受験という厳しい選択をして、親子でここまで頑張ってきた。その経験は必ず実ります。結果は、勝ったり負けたりするもの。そこで大事なのはただ一つで、親がいい切り替えをしてあげることです。

過去を引きずるのはもったいない。これからの人生のことを考えるしかないのです。「よし、次に行こう!」と、今日、ここからまた新しいスタートを切ってほしいと思います。応援しています。

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お話を聞いたのは

高濱正伸先生 花まる学習会代表

1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「本質を見抜く力」「やり切る力」「人を惹きつける力」の3つの力を育てることで、将来“メシが食える大人・魅力的な人”に育てることを目的とした、小学校低学年向けの学習塾「花まる学習会」を設立。『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)、『あんしんえほん はじめての「よのなかルールブック」』(日本図書センター)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など著書多数。

取材・文/黒澤真紀


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