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子どもが犯罪被害にあいやすい場所・タイミングとは?
――全国ニュースになるような深刻な被害から、日々スマホに届く地域の不審者情報まで、子どもを狙った犯罪は後を絶ちません。子どもには日頃の防犯についてどのように伝えたらよいのでしょうか。
清永さん 子どもを犯罪から守るには、まずはどういうシチュエーションで事件が起こるのか知っておくべきでしょう。
そこで、早速クイズを一問。次の4枚の写真の中の1枚は、実際に小学校1年生の女の子が声をかけられて連れ去られた現場のものです。何番だと思いますか?

清永さん 正解は4番。車の通行量が多く人影もあり、また写真には写っていませんが、実はすぐ近くに交番もあるんです。にもかかわらず、白昼堂々事件は起きてしまいました。それはなぜか?
この犯人はなんとターゲットを2時間半も付けまわし、たまたま人気がなくなったタイミングで、「今が好機」と女児に声をかけたというのです。ちなみに、2時間半のストーキング中、たまたまその日に限って交番にお巡りさんがいないのも確認済みだったといいます。
この事件から得られる教訓は2つ。まず、犯罪者は突発的に子どもを襲うのではなく、入念にターゲットを選び、じっくりタイミングを見計らってことに及ぶということ。そして、子どもにとって最も被害にあいやすいシチュエーションは“ひとりになった瞬間”ということです。
普段はにぎやかで一見すると治安がよさそうな場所であっても、ふとした拍子に人気がパタリとなくなることはあります。そのちょっとした隙間にいつでもどこでも犯罪は起きるという点は、真っ先に押さえておきたい点です。
なお、類型的に犯罪が起きやすい要注意の場所としては、以下の4つが挙げられます。
・ひとりだけになるところ
・まわりから見えないところ
・わかれ道・わき道・うら道
・りようされていない家・公園
清永さん 頭文字で“ひまわり”と覚えましょう。なかでも、絶対におさえてほしいのは“ひとりだけになるところ”ですね。例えば、下校時にお友達とバイバイした後など、ひとりになる瞬間は必ず訪れますので、そのときだけはまわりに怪しい人がいないか気を引き締めるようお子さんにぜひ教えてあげてください。
怪しい人を見分けるには、見た目よりも挙動をチェック!
――怪しい人の見分け方ってありますか?
清永さん 見た目だけで判断するのは難しいかもしれませんね。“不審者”で画像検索すると、帽子にサングラス、マスクのいかにも“怪しい”人のイラストが出てきますが、いまどきこんなに分かりやすいスタイルの犯罪者はめったにいません。
むしろ見た目で判断、というと、外国人など容姿が異なる人のことを指すのだと誤解してしまう子も時々いますので、外見ではなく挙動・行動で判断するのがよいでしょう。以下の特徴から、“はちみつじまん”と覚えてください。
・しつこくなにかとはなしかけてくる人
・理由もないのにちかづいてくる人
・あなたのことをじっとみつめてくる人
・いつまでもどこまでもついてくる人
・あなたがくるのをじっとまっている人
・こういう人に会ったら「ん!?」と注意する!
これらに当てはまる人物に遭遇したら、まずは目を合わせず、なるべく距離をとること。場合によっては、コンビニエンスストアなどに駆け込むことが被害の予防に役立ちます。
親子で取り組む防犯対策その1:「おさんぽ安全マップ」の作成
――子どもの防犯のために、小学校入学前に親子でどんなことに取り組むのがよいのでしょうか?

清永さん さきほど犯罪が起きやすい要注意な場所として“ひまわり”をご紹介しましたが、通学路などでどこに“ひまわり”があるのか、往路・復路それぞれを親子で歩いて確かめることをおすすめします。同じ場所でも日時や天候によって通行量などが大きく変わることもあるので、実際の登下校時間に日をかえて複数回歩いてみるのがいいでしょう。
その際、いざというときの駆け込み先となるコンビニエンスストア等の場所を確認するとともに、お店を訪れて簡単なあいさつをしておくとなおよしです。「トイレをお借りするかもしれないんですけど…」とかね。
緊急事態に知らないお店に飛び込むのは勇気がいりますが、事前にお母さんがお店の人と話す姿を見せることで、子どもに「ここは困ったときに頼って大丈夫なところなんだ」と安心感を与えることができます。
よく「こども110番」(子どもが不審者やトラブルにあった際に駆け込める、黄色い看板やステッカーを掲げている場所)の家に飛び込もう、とも言われますが、「どこだろう?」と探しているうちに手遅れになってしまうこともあります。とにかく近くで、いざというときに飛び込める場所を確認しておくことです。
親子で取り組む防犯対策その2:目をそらす練習
清永さん 子どもが危ない目にあった場合のシミュレーションも、親子でぜひ取り組んでおきたいこと。例えば、先ほど“はちみつじまん”の人物に遭遇したら、まず目を合わせず、距離をとることを推奨しましたが、頭では分かっていても、いざというときにこれができないと被害を深刻化させるおそれがあります。
実際に、被害にあわれたお子さんに話を聞いてみると、犯人と目が合った際、恐怖で身がすくんでその場から動けなかったという子が少なくないのです。犯罪者は自分より弱くて抵抗できなそうな子を物色していますので、目をそらすことができないでいると「この子ならいける」と、犯行に進む可能性が高まります。それを防ぐには、親子でじっと見つめ合ったあとに目をそらす練習をぜひやってみてください。
親子で取り組む防犯対策その3:声かけシミュレーション
清永さん 不審者に話しかけられたときの対応策についても具体的に親子で話し合っておくべきでしょう。
一口に声かけといっても、「~~まで案内してくれる?」という親切心要求型、「お母さんが入院しているから今すぐ一緒に来て!」という緊急事態発生型、「お菓子あげようか?」という魅惑誘導型、「かわいい子猫を見せてあげようか?」という好奇心触発型などバリエーションは様々。どんな声かけに対しても、「NO!」とはっきり断れるように練習しておきたいところです。
――今、挙げていただいたパターンのなかでは「お母さんが入院している!」というのは、前もって心の準備をしていても、いざとなると「ひょっとしたら…」と動揺してしまいそうです。

清永さん そうですよね。ですから、単に「こういう声かけがあるから気を付けようね」だけではなく、「もし本当にお母さんが入院することになったら、必ずお父さんかおばあちゃんがあなたを呼びに行くからね。絶対に知らない人に付いていっちゃダメだよ」など、具体的なルールを設定しておくとよいでしょう。
また、子どもが拒否しても、しつこく「知らない人じゃないよ。お母さんの知り合いの〇〇だよ」などと食い下がる輩もいます。その場合の、魔法の合言葉は「家に帰って確認します」です。
先ほどお伝えしたように、犯罪者は自分より弱くて抵抗できなそうな子をターゲットにしますので、ここまで毅然とした態度をとれば、さすがに「この子はちょっと手強いな。厄介なことになりそうだ」と諦めてくれることでしょう。
顔見知りの人から「いやだな」と思うことをされたら?
――子どもを狙った事件の中には、実は近所の人、顔を知っている人の犯行だった、ということもありますよね。あまり考えたくないですが、どのように備えたらいいのでしょうか。
清永さん 周りの人みんなを「実は悪い人かも」と疑いながら生きていくのは大変です。実際、ほとんどの大人はいい人なんです。
ただ、時々、急に体に触れてきたり、プライベートゾーンを見ようとしたり、触ろうとしたりする人がいるかもしれない。そんなときは、相手が知っている人でも、「断ったら悪いかな」と思わなくていいんだよ、と伝えてあげてください。あなたの心と体がいちばん大切だからね、と。
そして、「あなたは悪くない。必ず守るからね」と、力強く伝えてあげてほしいと思います。
いざというときに役立つ防犯ブザーの選び方
――子どもに防犯ブザーを持たせる際、たくさんの種類があってどれを選べばいいか迷ってしまいます。選び方のポイントはありますか?

清永さん 私は全国防犯協会連合会で、優良防犯ブザーの審査員をしていますが、そこでは、いくつかの基準を設けています。まず音量ですが、85デシベル以上の音が出ることが一つの目安です。最近のものは90デシベル以上のものが増えています。
また、子どもが使うものですから、落としても壊れにくいか、水に濡れても大丈夫かといった耐久性も重要です。製品を選ぶ際には、そうした基準を確認するとよいでしょう。さらに、引っ張ると音と同時に光が出るタイプのものもあります。音と光の両方で相手を威嚇できるので、より効果的です。
――防犯ブザーを実際に使うための練習や、子どもと約束しておくべきことはありますか?
清永さん はい、必ず練習をすることが大切です。ランドセルの肩ひもなどに取り付けることが多いと思いますが、お子さんが引っ張りやすい長さかを確認してください。
例えば、後ろから羽交い締めにされた状態でも手が届くように、ひもの先端がお子さんの腰の位置くらいに来るのが理想です。ひもが短い場合は、付け替えて調整してあげましょう。腕をつかまれた場合でも、右手でも左手でも確実に鳴らせるか、試してみてください。
そして、月に1回程度は、練習も兼ねて実際に音を鳴らし、電池が切れていないか確認する習慣をつけましょう。
また、子どもとのお約束も大切です。「ふざけて鳴らしてはいけない」としっかり伝えてください。ふざけて鳴らしていると、本当に助けが必要なときに大人が駆けつけてくれなくなるかもしれません。
ただし、「怖いと思ったら、ためらわずに鳴らしていいんだよ。もし間違えても『ごめんなさい』でいいんだからね」と伝えることも忘れないでください。お子さんが安心してブザーを使えるようにすることが何より重要です。ゆくゆくは、お友達が困っているときに代わりに鳴らしてあげることもできる、と教えてあげるといいですね。
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街行く大人のほとんどは善良な市民で、邪心を抱いているのはほんのひと握り。ただ、どんなに可能性が低くても、万が一のことがあれば取り返しのつかないのが犯罪被害です。親子でしっかりコミュニケーションをとって、4月からの新生活に備えましょう。
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お話を伺ったのは…
NPO法人体験型安全教育支援機構代表理事。日本女子大学学術研究員。博士(教育学)。2000年にステップ総合研究所を設立。犯罪、いじめ、災害などから命を守るための研究に取り組み、大学などの研究員や政府、自治体等の委員会委員なども務める。各地の自治体、幼稚園、保育園、小学校などで独自の体験型安全教育を行っている。著書に『10歳までに知っておきたい まんがでわかる! 子ども防犯性教育』(共著/監修 KADOKAWA)、『犯罪から園を守る・子どもを守る』(メイト)、『犯罪からの子どもの安全を科学する』(共著 ミネルヴァ書房)、『危険から身を守る 学校・通学路・遊び場・家』(監修/一部 岩崎書店)など。
これまで別々に教えられることの多かった性の知識と防犯の知識を産婦人科医と防犯教育専門家の監修のもと一冊にまとめ、子どもが性犯罪から自分を守る力を確実にわかりやすく身につけられるよう構成。危険を察知する方法や、声をかけられたり後をつけられたりした際の具体的な行動、自分の体の大切な部分=プライベートゾーンの意味と守る理由を、物語とギャグタッチのマンガでわかりやすく解説します。案内役はハリネズミの妖精ハリー。小学3年生の男女・りくとつばさに、これから訪れる体の変化や仕組み、防犯の基本、大声で助けを呼ぶ方法、「イヤ」とはっきり言う勇気の持ち方までを、ユーモアたっぷりのフルカラー漫画でレクチャーします。さらに保護者向けに、家庭で実践できる性教育と防犯のポイントも記事で掲載。親子で楽しく学びながら、今日から使える知識が自然と身につく一冊です。
取材・文/中田綾美

