保育園入園、初めての母子分離。泣き声に痛む胸。それでも「小さな社会」への第一歩を踏み、子どもはたくましく育っていく。《モンテッソーリ教師の子育てエッセイ》vol.4

子どもとの毎日は、カラフルで鮮やかな瞬間だけでなく、大変なことや葛藤も含めてさまざまな色(感情や体験)に満ちていますよね。時には、喜怒哀楽をうまく言葉にできない気持ちが、脳内をぐるぐるすることも。モンテッソーリ教師・杉浦あきえさんの連載「今日は何色?子どもと紡ぐ彩りデイズ」では、あきえさんご自身の子育て中の脳内をそのままエッセイとしてつづります。

連載4話目は、保育園への入園と、はじめての母子分離について。

・杉浦あきえ:モンテッソーリ教師


・夫:同じ年で多趣味
・長女:9歳(2016年生まれ)、何かを考えたり言葉にしたりすることが大好き
・次女:4歳(2021年生まれ)、天真爛漫でおしゃべりが止まらない

初めての「小さな社会」に向かう朝

まだピカピカの電動自転車。
当時1歳10か月の長女を前に乗せて、ちょこんと座る小さな背中を感じながら、春のやわらかな風の中を走る。

少しだけひんやりした空気と、どこか浮き足だつような朝。あの日の景色は、今も不思議とくっきりと思い出せる。

自転車を止めて、ヘルメットを外す。
保育園の荷物を持って、小さな小さな手をぎゅっと握る。春の風に触れたその手は、少しだけ冷たかった。
そのまま、保育園の中へ入っていく。
教室に送り届けて、ばいばいとして離れようとする。

最初の数日は、娘はほとんど気づいていなかった。
「いってきます」も「いってらっしゃい」も、まだどこか曖昧なまま。

でも、1日、2日、3日、4日と過ぎていく中で、「これは毎日続くものなんだ」と気づいたのだろう。別れ際に、泣くようになった。

たくさんぎゅっと抱きしめて、先生に託して、教室を出る。背中越しに聞こえてくる、鳴り響くような泣き声。親として初めての分離は、胸を引き裂かれるような感覚だった。

不思議なことに、離れても、わが子の泣き声は、ちゃんと分かる。

「ああ、まだ泣いてる」

そう思いながら、足を前に進めるしかないあの時間。日中も、何をしているかなと、どこかそわそわしていた。

初めての「小さな社会」への一歩

それは、子どもが「自分の世界」を少しずつ広げていく時間。大人の手の中から、ほんの少し外へ出て、自分の足で社会に触れ始める時間だったのだと思う。

お迎えの時間。

教室の扉に、ぴたーっと顔をくっつけて、今か今かと待っている娘の姿が見える。私を見つけた瞬間、本当にぴょんぴょんと跳び跳ねて喜ぶ。あの全身で表現する再会の喜びは、何度経験しても尊い。

帰り道、まだつたない言葉で、今日の出来事を一生懸命に話してくれる。私はケラケラ笑いながら、「そうだったんだ」「楽しかったね」と返す。

でも、こちらが返事をする頃には、本人はもう次の何かに夢中になっている。子どもは、こうして今この瞬間を生きながら、出合った世界を自分の中に取り込んでいくのだろう。

気づけば、「第二の家」に

そんな彩りのある日々を重ねる中で、気がつけば、保育園は娘にとって「第二の家」のような場所になっていた。あのときピカピカだった電動自転車も、雨の日も、風の日も、暑い日も走り続け、少しずつ時間をまとった風合いに変わっていった。

卒園して、小学生になった今では、どこか「実家」のような存在にすら感じているように見える。乳幼児期の子育てを伴走してくれた保育園に、親として、どれだけ助けられてきたのだろう。

初めて、「小さな社会」に入っていくということ。胸が引き裂かれて、後ろ髪をぐっと引かれるようだったあの時間は、渦中にいると、ずっと続くように感じていた。

けれど、過ぎてみて分かる。

「初めての分離」は、あの一度だけだった。

「初めて」は、いつも一度しかない。

だからきっと、あの胸の痛みごと、あの時間は、静かに大切な記憶として残り続けていくのだと思う。

前回の話はこちら

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最新著書『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』

HugKumで人気を博した連載「あきえの子育てROOM」をもとに、大幅に加筆修正を加えた1冊。「泣き」「ぐずぐず」/「やってほしくないこと」/「ワガママ」「イヤイヤ」/「食」/「しつけ」「将来」/「パートナー」と大きく6つのパートにわけて、“イラッ”“モヤッ”を解決するためのメッセージを届けています。

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子どもが泣きわめいていて手がつけられない…、パートナーに大変さを訴えても流される…、子育てをしていると、どうしても出てきてしまう、「イラッ」「モヤッ」な気持ち。でもそれは、自分のマインドセットと子どもへの見方を少し変えるだけで、手放すことができるんです。

子育て中のママパパから高い支持を得ている著者が、「イラッ」「モヤッ」を感じる具体的なシーンに対してどのようにしたらいいか、マンガ付きでわかりやすくお伝えします。

プロフィール

杉浦あきえ モンテッソーリ教師

国際モンテッソーリ教師(AMI)

幼稚園教諭、保育士、小学校教諭。二児の母。

 

幼い頃から夢見た保育職に期待が溢れる思いとは裏腹に、現実は「大人主導」の環境で、行事に追われる日々。そのような教育現場に「もっと一人ひとりを尊重し、『個』を大切にする教育が必要なのではないか」とショックと疑問を感じる。その後、自身の出産を機に「日本の教育は本当にこのままでよいのか」というさらなる強い疑問を感じ、退職してモンテッソーリ教育を学び、モンテッソーリ教師となる。「子育てのためにモンテッソーリ教育を学べるオンラインスクール Montessori Parents」創設、オンラインコミュニティ”Park”主宰。著書に『モンテッソーリ教育が教えてくれた「信じる」子育て』(すばる舎)、『モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック』(宝島社)、『子育ての「引き算」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』(小学館)。

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イラスト/カラシソエル

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