“集団に合わせること”に窮屈さを感じた10代
――七海さんにとって、「学校」とはどういう場所でしたか?
七海まちさん(以下、七海さん):楽しい思い出もたくさんありますが、ちょっと窮屈な場所だったかなと思います。
例えば図工や作文の授業で、どんなに作業が佳境に入っていても、筆がのっていても、チャイムが鳴ったらやめなければいけない。登下校の時間、時間割……全てが明確に決められています。
人間関係も同じです。たまたまその地域で同じ年に生まれただけの人たちと、ひとつの空間に押し込められてしまう。当然、気が合わない人もいるでしょう。
それでも、みんなに合わせなければいけないし、少しでも異質な部分があると、嘲笑や排除の対象になり得る。そんな場所だと感じていました。

――ご自身も、周囲とうまくいかないと思うことがあったのでしょうか?
七海さん:中学に入ってから、教室に行くのが辛い時期がありました。
クラスメイトに悪口を言われることが続き、「人からどう見られるか」をすごく気にするようになったんです。敵意があると誤解されないように、今から振り返ると過剰に気を遣っていました。
――ほっと息をつけるような場所はありましたか?
七海さん:「別室」のような、明確な場所はありませんでした。幸いなことに、心を許せる友人は何人かいたので、彼女たちと過ごす放課後や帰り道が、うまくいかない日々のなかで息をつける瞬間でした。また、小説や漫画などの創作物の世界に入り込むことも、現実を忘れて自分を解放させる大事な時間でした。
ありのままの自分を受け入れる
――辛い日常を乗り越えたきっかけを覚えていますか?
七海さん:小説『雨色のキャンバス』の主人公が、「どうしていつもへらへらしてるの?」と問われる場面がありますが、これは私が実際に言われた言葉です。この一言で、周囲に対して仮面を作っていたことに気づきました。
みんなに好かれるなんて無理だから、ありのままでいればいい。気の合う子とだけ仲よくすればいいやと開き直ったら、意外とうまくいったんです。

――対人関係のマインドが、大きく変わったのですね。
七海さん:私が相手のことを好きでも、相手が私の何かを気に入らないのであれば、どうしようもない。他人の思いは変えられないけれど、自分の気持ちや行動は変えられる。だったら、自分が生きやすいように、自分を変えるしかない、という感じでしょうか。
ここまではっきり気づけたのは、大人になってからかもしれません……。
今いる場所が全てではない
――『雨色のキャンバス』の主人公あざみは、対人関係のトラブルから別室登校を選択します。あざみや登場人物たちに込めた思いを聞かせてください。
七海さん:あざみは、「こうでなければならない」と思うあまり、自分を追い込んでしまった子です。枠から外れていないかを気にしていた、中学生時代の自分を投影しました。
あざみが教室に通えなくなる原因を作ったリリカも、偏った考えに苦しめられています。二人それぞれの視点から、まったく異なる「自分だけの正しさ」にとらわれている様子を描きたいと思いました。
一方、あざみが別室で出会うヤナギさんは、対照的な人物です。ヤナギさんもトラブルを抱えていますが、「西洋絵画」「別室」という2つの大きな心のよりどころがあるので、あざみたちに比べて「学校」という場所を客観的に見ています。ヤナギさんのように、複数の居場所(よりどころ)を持つことは、自分の心を守るために、とても大事なのではないかと考えながら書きました。

――今、ちょっと息苦しい、居心地の悪い場所があると思っている方たちに、メッセージをお願いいたします。
七海さん:今いる場所が世界の全てではないと伝えたいです。
息苦しいのは、悪いことでもおかしいことでもありません。それだけ周りをよく見て、よく考えているからだと思います。
息苦しさのなかに、「自分が本当はどうありたいのか」のヒントがあるかもしれません。どうして息苦しいのか、自分がどうしたいのかを、ぜひ考えてみてほしいです。
また、本でも音楽でもなんでもいいから、ワクワクするものを探してほしいです。あざみやヤナギさんにとっての「西洋絵画」のように、何か夢中になれるものを見つけられたら、自分の世界も変わっていくと思います。
今いる場所が窮屈だとしても、あなたが安心して呼吸できる場所は、必ずどこかにあります。あなたが自分らしくいられる場所が見つかるよう、心から願っています。
――ありがとうございました。
七海さんが西洋絵画に魅了されたきっかけ、小説『雨色のキャンバス』に込めた思いはこちらから
西洋絵画に出合い、“世界の見方”を変えていく少女たちの物語。ゴッホ『夜のカフェテラス』 、ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』、モネ『睡蓮』など、誰もが一度は目にしたことのある有名なものから、ちょっとニッチなものまで、様々な作品が登場します。
構成・文/小学館児童創作編集部