お母さんの「がん」を自由研究に【前編】子どもへの告知がもたらしたもの

親ががんになったとき、子どもへの告知、どうしますか?

いまや日本人の2人に1人が罹患するといわれているがん。子育て中の『Hugkum』読者世代にも他人事とはいえない身近な病気となっています。しかしながら、まだまだ世間のがんについての認識は“死”や“怖い”という連想をさせてしまっているよう・・・。とくに子どもを持つ親にとっては、正直に打ち明けて良いものか、苦渋の選択を迫られます。
今回は、小学校3年生の娘に自らのがんを伝えるまでのある母親の心の葛藤と決断、そして揺れ動く娘の心の変化をレポートします。

自由研究『がんについて』の背景にあった母と娘のドラマとは?

東海地区に暮らす主婦の由紀さん(44才)が体調に異変を感じたのは、4年前の冬。ひとり娘のさやかちゃんが小学校3年生の時でした。

そして、なによりもいちばん気がかりとなったのは、娘のさやかちゃんの事でした。

「さやかには本当の事を打ち明けることが出来ませんでした。まだ、小さいから意味がわからないんじゃないかとか、やっぱり、がんというと、あまり良いイメージを持たないんじゃないかなと思ったり・・・。ですから、最初の頃はずっと“咳の病気”だと伝えていたんです」(由紀さん)

ご主人はもちろん、近所で暮らすご両親も治療に専念する由紀さんを全面的にバックアップしてくれました。入院中、さやかちゃんは実家のおじいちゃん、おばあちゃんの元から学校へ。

ところが・・・。

「最初のうちはいつも通りに学校に通っていたんですが、途中から頭が痛いといって保健室に行く日が23日と続くようになったと実家の母から連絡があったんです。朝起きた時から体の不調を訴えて、結局、学校をお休みした日もあったと聞いて、悩みました」

娘に病名を話すかどうかの葛藤

本当の病名を正直に話したほうがいいのだろうか。でも、それで娘の心や体が不安定になってしまったら・・・。

電気の消えた病室のベッドの中。まんじりともできぬまま、朝を迎えた由紀さん。

――このままでいいのだろうか? その都度、瞼に浮かぶのは、毎朝、ランドセルを背負って元気いっぱいに手を振るさやかちゃんの笑顔でした。

退院後、体力が少しずつ回復するにつれ、由紀さんも少しずつ自分のこと、娘のこと、家族のことを考える余裕が持てるようになってきました。

そんななか、由紀さんのがんに対するイメージを一新させてくれたのが、がん治療中の患者らが集う会でした。そこで目にしたのは決して無理をせず、ありのままを受け入れた人々の笑顔でした。

「“あれっ? みんながんの人ばかりなんだよね!? こんなに元気で明るいのに?”という驚きがありました。やっぱり、それまで私自身のなかでも、がんって悪い病気だっていう思い込みがあったんですよね。皆さん塞ぎこんでるイメージしかなかったんです。同じ病気で頑張っている仲間と出会えたことで、安心したし、情報量も増えました」

緩和ケア医の支えもあり、病名の告知へ

孤独な治療が続く日々に一条の光を見た由紀さんは、そのほか「がん哲学外来メディカルカフェ」などにも積極的に参加し、自身のがんと改めて向き合えるようになったと話します。

さらに由紀さんを勇気づけたのは、緩和ケア医からのアドバイスでした。がん患者は痛みやだるさなど体の症状のほかに、不安や心の苦痛を抱えているケースもとても多いのです。そうした個別の相談にのり、支えてくれるのが緩和ケアです。

由紀さんが迷いに迷っていたさやかちゃんへの病名の告知。緩和ケア医と何度も話し合いの時間をもった結果、無理することなく、さやかちゃんが知りたいことに答える感じで話してみようということになりました。

「春休みだと進級やクラス替えなどもあって、きっと娘も気持ちが落ち着かない。ゆっくりと親子の時間をもてる夏休みの時期がいいと思ったんです」

告白の意思を固めた由紀さんはその時のタイミングを夏休みに決めました。

夏休み、いよいよ告白の日

「昼間、娘とふたりで家にいるとき、がんであることを伝えました。“今まで話さなくてごめんね。これからは何でも話すから、何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてね”って。そうしたら、“ふ~ん。ママ、がんだったんだ”って、こっちが拍子抜けするぐらい“あっ、そう”みたいな反応だったんです」(由紀さん)

それからしばらく無言だったさやかちゃんは、おもむろに机に向かうと、黙々と絵を描き始めました。そして、ペンを走らせながら、こう言ったのです。

「ママの応援団になる」

イラストやマンガを書き綴る事が大好きなさやかちゃんなりの応援宣言でした。

“・・・思いのほか、落ち着いている”

意外にも冷静だったさやかちゃんの反応に由紀さんはホッと胸をなで下ろしました。

ところが、その矢先、さやかちゃんがいきなり質問を投げかけてきました。

「ねぇ、この話ってママと私だけの秘密なの?」

「違うよ」

由紀さんは正直に答えました。

「パパは知ってる?」

「当たり前じゃん。パパは知ってるに決まってるでしょ」

「じゃあ、バァバやジィジは知ってる?」

「知ってるよ」

その途端、さやかちゃんの表情がにわかに変わりました。

「エ~ッ! 知らなかったの私だけ? なんで私だけ教えてくれなかったのー!」

突如、怒りの気持ちを露わにしたさやかちゃんに、由紀さんは戸惑いました。その場はなんとなくやり過ごしたものの、心の中に新たな不安が芽生えました。

「きっと、自分だけ仲間はずれにされた気がしてショックを受けたんだと思います」(由紀さん)

さやかちゃんの気持ちは穏やかではありません。水面に投じられた小石から波紋がだんだんと広がっていくかのごとく、どこか納得のいかない気持ちが不満や不服となって表れてきます。

夜。お風呂上がりに地団駄を踏みながら憤りを爆発させたり、寝付いたかと思ったらいきなり身を起こして怒りを訴えたり・・・。そのたびに由紀さんは「ごめんね。今度からちゃんと話すからね」といって、さやかちゃんを抱きしめました。

その時の気持ちをさやかちゃんはこう語ります。

「やっぱり、家族だからいちばん最初に教えてほしかったんです。私も一緒にママのがんを応援していきたいって思ったから」

大好きなママのことだから、包み隠さずに教えて欲しかった。そうすれば、どんな病気が相手だって一緒に助け合えるから――さやかちゃんはそう思っていたからこそ、悔しさを隠しきれなかったのです。

そのことに気がついた由紀さんは、思いを改めるとともに、感謝の念を抱きました。

がんと向き合う姿勢を娘にも見せる

がんの治療を受けながら、由紀さんはがん哲学カフェなどに参加する際、さやかちゃんにも声をかけ、可能な範囲で親子で参加することにしました。そうすることで、同じように親ががんを患っている子供同士のつながりも生まれました。ともすれば、親の健康不安を子供ひとりでえ抱え込んで不安定になることもありますが、さやかちゃんの場合はそのような様子は見られませんでした。

「抗がん剤で髪の毛が抜けた時も“見てみて、こんなに抜けた”って娘に見せると、“わー、すごい! 写真に撮っておこうか”と返してきたりして。娘のおかげで“いちばん辛いよ”と言われていた脱毛の副作用も笑いながら乗り切れました」と、由紀さんは言います。

「がんだと話した時、相手がリアクションに困っていることによく気づきます。どう接していいかわからないのでしょうね。でも、そういう時、やはり世の中にはがんという病気を悪い印象でとらえる人が多いのかなって考えちゃいます。早くがんじゃない人にも気軽にがんの話題ができるようになってほしいですね」(由紀さん)

冒頭でも記したように、いまや2人に1人が罹患する病。なのに、自分ががんだということを人に言えず、引け目をもって生きている人は少なくはないと由紀さんはいいます。

実際に、がんだと伝えてから連絡が途絶えてしまった友人も何人かいました。激励してくれていたのに、病状が変化したことで、ぷっつりと音信不通になってしまった人もいるそうです。

「普通に接してくれればいいのにって思うんです。でも、それって自分ががんになってみて初めて経験すること。私だってがんにならなかったら対応に戸惑うと思うんです。だからこそ、がんについて正しく知ってもらうっていうことが、ものすごく大事なんですよね」(由紀さん)

がんが教えてくれた親子の絆と「命」への思い

がんになったことを子どもに伝えるのは大きな決断が必要です。その是非も、子どもの年齢や病状などケースバイケースといってもいいでしょう。しかし、親の不安は子どもにも必ず伝わります。ある程度の理解ができる年齢であれば、きちんと病気の説明をすることで子どもの不安が解消されるのではないでしょうか。
ひとりではなく家族みんなでがんにつきあっていくということは、がん治療中の大きな支えにもなります。由紀さんのケースから、あらためて家族の意味についても考えさせられました。

明日は全30ページの力作自由研究の内容をお伝えします。

取材・文/加藤みのり

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