「歴史は『自分たちの現在地』を知る鍵」――大ヒット書籍『超!やばい日本史』監修・本郷和人先生が語る、歴史を学ぶ本当の意味とは

小学校6年生くらいから社会科で本格的に始まる歴史の勉強。大河ドラマやアニメなど、歴史好きになるきっかけは身近にあふれている一方、勉強としての歴史は「暗記ばかりでつまらない」と感じる子どもも少なくありません。

そんな中、シリーズ累計100万部を超える人気の歴史本が、偉人たちの「すごい」と「やばい」の両面を描いた『東大教授がおしえる 超!やばい日本史』(ダイヤモンド社)。いま多くの子どもたちに読まれ、大人までも引き込んでいます。

監修を務める歴史学者・本郷和人先生に、本書の魅力やご自身が歴史を好きになった子ども時代のこと、歴史を学ぶ意味について伺いました。

ふざけているようで、全て史料に基づいたエピソード! 大ヒット中の『超!やばい日本史』

―― 『超!やばい日本史』は、偉人たちの「すごい」業績と、教科書には載らない「やばい」一面をあわせて紹介する歴史本です。子ども向けでありながら大人にも読まれていますが、なぜここまで受け入れられていると思いますか?

本郷先生:実は、なぜこんなに売れているのか、監修した僕にもよくわからないんです(笑)。歴史に関する書籍は、詳しければいいわけでも、わかりやすければいいわけでもない。本当に難しいところです。

ただ、そもそも日本史は、みんなが興味を持っている分野なんですね。街を歩けば神社やお寺があり、テレビでは大河ドラマも放送されています。

学校では高学年になると地域の歴史から日本史の学びが始まりますが、気になるし、学ばなければいけない気もするけれど、どこかとっつきづらいところがある。そんなふうに感じている人たちに、「楽しい」「面白い」を入り口にした入門書として手に取りやすかったことが大きいのではないでしょうか。

――「すごい」エピソードは広く知られたものが多い一方、「豊臣秀吉が愛する妻に『うんこ』連発の手紙を送る」など、「やばい」エピソードは本当に「やばい」ですよね。

『東大教授がおしえる 超!やばい日本史』(ダイヤモンド社刊)より

本郷先生:子どもがいちばん食いつくのは、やはり「うんこ」ですから(笑)。「うんこ」とタイトルがついた本も以前、人気になっていましたしね。

ただ、この本はふざけているように見えて、書き残された史料があるからこそ、それを参照して書いています。秀吉の手紙はもちろん、徳川家康の「武田信玄が怖すぎてうんこをもらす」エピソードも肖像画が残っていたり。昔の人もきちんと記録を残していて、実際に書かれたものがあるんです。そこが面白いところですね。

――本郷先生がとくにお気に入りの歴史上の人物はいますか?

本郷先生:この本の漫画でいえば、卑弥呼です。卑弥呼は『魏志倭人伝』によると「かなりのおばあちゃん」だったと書かれているので、若い美人に描かれていたりすると「嘘でしょう」となるのですが、この本のイラストレーター(和田ラヂヲ)さんはしっかりとおばあちゃんに、それでいて魅力的に描いている。これはもう、天才の仕事だと思いましたね。

そもそも歴史上の人物の顔は、確かなことがわからないものが多いんですよ。例えば、武田信玄の肖像として知られてきた画像は、今では「実は信玄ではないのではないか」と言われています。足利尊氏とされてきた騎馬武者像も、源頼朝の肖像も、実際は違うのではないかという話は多くあります。

聖徳太子も、教科書などで有名だった「聖徳太子二王子像」が、描かれた服装から「聖徳太子ではないだろう。100年ほど後ろの時代の人物なのではないか」という話になりました。着ているものは、それほど大事なんです。

『東大教授がおしえる やばい日本史』(ダイヤモンド社刊)より

――これから書籍を手に取るご家庭も多いと思います。何歳くらいから読める本でしょうか?

本郷先生:この本は漫画がとても面白いんです。トラウマになるような内容でもありませんから、漫画から入っていただければと思います。漢字にルビもふってありますし、親御さんと一緒なら、小さいお子さんでも楽しめるかもしれませんね。

「勉強」じゃなかったから覚えられた。本郷少年の歴史との出合い

――先生ご自身は、どんなきっかけで歴史を好きになったのですか?

本郷先生:今では信じられないかもしれませんが、子どもの頃は小児ぜんそくで体が弱かったんです。だから、僕のヒーローは野口英世だったんですね。彼のようになりたいという思いから、野口英世やシュバイツァー博士といった医学者たちの伝記を読み、歴史を好きになりました。

――そのあと、どのように歴史の勉強を?

本郷先生:勉強しようとした記憶はないですね。ただ楽しんでいただけです。

よく覚えているのは、小学5、6年の頃のこと。中学受験の塾に通っていたのですが、ちょうどその頃、近くにマクドナルドができたんです。母親に「ハンバーガーを買う」と言ってお金をもらい、そのお金で歴史の本を買っていました(笑)。勉強のためではなく、面白いから買っていたんです。柴田錬三郎の本とか、いろいろ読んでいましたね。テレビの時代劇も観ていたと思います。

――それだけ好きだと、知識も相当なものだったのではないでしょうか。

本郷先生:小学5、6年の担任の先生が「本郷は、たまには授業をやらないと欲求不満になるから」と言って、僕が先生の代わりに授業をしたことが何度かあります。

――小学生が、先生の代わりに授業を!

本郷先生:中学、高校のときもありました。「本郷くん、教員室に来てください」と呼ばれて行くと、社会の先生から電話がかかってきていて、「昨日飲みすぎたから、今日の授業をやっておいてくれ」と(笑)。「どこまで進んでいますか」と聞くと「アヘン戦争と変法運動」ということだったので、そこから授業をしました。

――すごいエピソードです…。

本郷先生:本当に好きだったら、どんなことでも覚えられるんです。でも、当時あったのは知識だけで、歴史をどう捉えるかとか、そういう深い話はできていないですよ。

歴史を知ると「どこへ行けばいいか」が見えてくる

――「歴史は暗記科目でつまらない」と感じている子も多いと思います。本郷先生は歴史を学ぶ面白さや価値は、どこにあるとお考えですか?

本郷先生:学問というのは、江戸時代なら寺子屋で学ぶ「読み書きそろばん」から始まります。その次にみんなが学びたいと思うのが「我々はどこから来たのか、そしてどこへ行くのか」という問題で、この「どこから来たのか」にあたるのが歴史です。どこから来たのかを自分なりにイメージできれば、おのずとどこへ行けばいいのかも見えてきます。

よく使う比喩なのですが、目隠しをされてぐるぐる回された後、ぱっと目隠しを外されて「今、自分がどこにいるかわかりますか」と言われたら、座標軸がわからなくなりますよね。歴史を知らないのは、まさにこの座標軸を見失った状態。歴史を学べば、「昔、こういうことがあった」とわかる。過去がわかるから現在地を知ることができ、その先も見えてくるのです。

歴史から過去を学ぶことで、現在地がわかり、未来への見通しが立つ

――過去を知ることが、未来を考えることにつながるんですね。

本郷先生:東大で授業をしていた頃、理系の大学院生に「先生、科学は宗教になりますか?」と聞かれて、驚いたことがあります。科学は右肩上がりに発展していくものだと、なんとなく思い込んでいますよね。しかし考えてみると、原子爆弾の分野は、あえて前に進んでいません。クローンの問題もそうです。神の領域に踏み込みそうになると、人間は知恵を働かせて、あえて立ち止まる。そう考えると、科学は右肩上がりではないのです。

『やばい日本史』でも、原子爆弾の話題だけは「ここは笑ってはいけない」と、ギャグなしで慎重に扱いました。過去を知っていれば、「ただ前進すればいいというものではないかもしれない」ということもわかるようになる。笑ってはいけないところも知ることができる。そこにも、歴史を学ぶ意味があるのかなと思います。

――最後に、ご家庭でお子様と一緒に歴史に触れるなら、何がおすすめですか?

本郷先生:もちろん、『やばい日本史』を読んでほしいです(笑)。ぜひ親御さんもご一緒に。勉強するんじゃなくて、楽しんでほしいですね。

身近なところでは、お城やお寺、神社に行ってみるのもいいんじゃないですか。御城印や御朱印を集めるのも楽しいと思いますよ。10人のお子さんにそうした機会を設けたら、3人くらいは歴史を好きになる子がいるかもしれない。そうすると、その子たちが将来、僕のお得意様になってくれる可能性がありますから、ぜひよろしくお願いします(笑)。

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本郷和人 歴史学者/藤田医科大学リベラルアーツセンター長

東京都出身。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。東京大学史料編纂所教授を務め、2026年退官。同年4月、藤田医科大学リベラルアーツセンター長に就任。主な著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文芸春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)など。

本郷和人 監修/滝乃みわこ 著/和田ラヂヲ 作画/横山了一 作画 ダイヤモンド社 1,320円

どんな偉人にも「やばい」ところはある。妻に「うんこ」連発の手紙を送る豊臣秀吉、作家に大迷惑をかける編集者・蔦屋重三郎、地震が起きたら妻子を放ったらかして逃げる芥川龍之介…。そんな偉人の「すごい」と「やばい」を比べてみれば、ぐんと日本史が面白くなる! 歴史がきっと好きになれる超入門書。

取材・文/ミノシマタカコ

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