目次
ことばの役割は多様
ことばの役割は、人に何かを伝えることだけではありません。でき事を名づけ、感情をとらえ、考え、想像し、人とつながるための道具でもあるのです。
例えば「悲しい」ということばがわかることで、子どもは自分の中の「感情」に気づき、この気持ちが「悲しい」なんだと理解します。すると子どもは自分の感情を人に伝えられるようになります。
そして「悲しい」がわかるからこそ、「悲しい」と言う友だちに共感でき、泣いている友だちを見て「悲しいのかな」と気持ちを想像できるようになります。他者の気持ちを想像し、共感できることは大切な力です。2~12歳の子ども6万2,120人を対象とした研究でも、言語能力と社会的な力には関連があることが示されています。
子どもの働きかけに大人が反応することで、ことばが身についていく
ことばの獲得の始まりは「子どもの働きかけに相手が返すこと(赤ちゃんが手を伸ばしたら『ほしいの?』と応じるなど)」です。
次いで、大人と子どもが同じものを見て共有し、そこにことばを添えるやり取り(「共同注意」と言います)が育ちます。例えば子どもが犬を指さしたら、大人が子どもの指さす先を見て「ワンワンいたね」と返すなどです。

共同注意を重ねる中で、体験にことばが何度も何度も結びつき、赤ちゃんの中で音に意味が生まれます。指さしや身振りも大切です。幼児期の身振りはその後の言語能力を予測する情報になると言われています。
語彙数だけでは、ことばの遅れはわからない
ことばの遅れの目安として「2歳でことばがほとんど出ない」「3歳で二語文が出ない」というものがあります。
私がことばの発達相談を担当してことばの発達状態を見るときは、語彙数だけでなく次のような点を確認します。
①聞こえや呼びかけへの反応
②ことばの理解
③人と同じものを見て共有するか
④指さしや身振り
⑤まねや遊び
⑥声、単語、二語文へと表現がどう変化しているか
⑦ことばを人に伝えたり、人とのやり取りの中で使えたりしているか
ことばが遅れる原因はさまざまです。難聴、知的障害、ASD(自閉スペクトラム症)、脳・神経疾患、遺伝性疾患など、言語発達の遅れを伴う医学的な状態はいくつもあります。
また、こうした既知の医学的原因はないのに、ことばの理解や文を作って話すことが難しい状態が長く続く「発達性言語症(DLD)」もあります。

「親がもっと話しかければよかった?」 最新研究が教えてくれること
子どものことばの遅れについて、自分を責める保護者は少なくありません。では親の関わりは、本当に子どものことばの発達に影響するのでしょうか。
ハーバード大学心理学部で言語発達の研究を行うCoffeyらは2025年、71本の研究、4,760人の子どものデータをまとめて分析しました。その結果、親がどのくらい話すか、どのくらい多様なことばを使うか、どのくらい長く話すかと、子どもの言語能力には、たしかに関連がありました。
ただし、その関連の大きさは子どもの言語能力の個人差の約4〜7%に相当するものでしかありませんでした。つまり、親の話しかけは子どものことばと関係する一つの要素ですが、ことばの発達の違いをそれだけで説明できるわけではありません。
ことばが遅れていても、家庭でできることはある
ここで皆さんに知っていただきたい大切なことがあります。それは、ことばの遅れの要因が何であれ、今、ことばが遅れている状態であってもそれに対して親にできることがある、ということです。
そのことは近年の研究でも確かめられてきました。子どもの興味や発信に合わせて、「待つ」「応じる」「ことばを少し広げて返す」関わり方を取り入れた代表的な支援法の一つにEMT(Enhanced Milieu Teaching)があります。
2025年の研究レビューでは、EMTを扱った46本の研究、計1,590人の子どもの結果がまとめられ、EMTの子どものことばやコミュニケーションへの肯定的な効果が報告されました。
また、2026年には発達性言語症(DLD)リスク児108人を対象に、専門家が親に関わり方を教え、親子のやり取りをコーチする研究が行われ、その結果、親を指導したグループの子どもでは、単語理解や文法の一部で良好な結果が出ました。
家庭でできる5つのコツ
ことばの遅れが見られる子どもには、先ほどのEMTのようなことばがけをしてあげたいものです。今回は、家でできることばがけのコツ5つをお伝えします。
それは じっと見る/待つ/合わせる/少し足す/楽しむです。
じっと見る:大人が教えたいものではなく、子どもが見ているものを見る。
待つ :すぐに先回りせず、少し待つ
合わせる :子どもの気持ちのことばを合わせる
少し足す :視線でも、指さしでも、声でも、伝えてきたら受け取り、「一つだけ」情報を足して返す
楽しむ :一緒の時間を楽しむ
注意したいのは、家庭を「訓練室」にしないこと
「これ何?」「何色?」「言ってごらん」と質問を続けると会話がテストのようになります。まるでことばの訓練室です。少しも楽しくありません。
それより、お風呂で子どもが「あっ!」と声を出したら「あったかいね」と声をかけましょう。子どもの体験に、子どもが今感じていることに、ことばを添えるのです。
食事、着替え、お風呂、散歩、遊び。ことばが育つ瞬間は毎日あります。家庭を「ことばの訓練室」にするのはやめましょう。
あなたならどう声をかける? 2つの声かけパターン実践
拙著『子どものことばが育つコツ120』を参考に、声かけの練習をしてみましょう。
① まだ話すことができない赤ちゃんが、スプーンを見ています。どう対応しますか?

子どもが何を見ているかをじっと観察し、赤ちゃんが何か言うかを少し待ち、何も言わないようならそこで初めて「スプーン、スプーンね」とそっとことばをかけましょう。
② 子どもがアイスを落としてしまいました。子どもにどんな声かけをしますか。

とっさに「何やっているの!」と言いがちですが、5つのコツを意識して子どもの気持ちに合わせた声かけ、表情をしてみてください。
子どもの顔を見れば「悲しい」「悔しい」気持ちでいることがわかるはずです。その気持ちを感じたらそれをなぞって悲しい表情をしてみてください。そして「あらまあ」とか「残念~~」「楽しみにしてたのにね」などのことばをかけてあげましょう。
医療機関などへの相談が必要な場合もある
音や呼びかけへの反応が気になる、ことばの理解が増えない、指さしや人とのやり取りが少ない、ことばが長い期間にわたって増えない、以前使っていたことばやコミュニケーションが減った、といった場合には、「家でできることをする」と抱え込まず、保健センターやかかりつけの小児科医などに相談しましょう。
成長や発達を確認し、適切な対応をすることが必要な場合もあります。
最後に
ことばはコミュニケーションの手段のひとつです。ことばが遅れていると「ことばを育てよう」と躍起になりがちです。でもことばで言えなくても、両手を差し出してだっこをせがむ、あれ見てとうれしそうに指さす、のも立派な感情や意思の伝達です。
大人はそれを精いっぱい汲み取りましょう。子どもが今何を見て、何を感じ、何を伝えようとしているのかに気づき、そこにちょうどよいことばを添える。
そういった小さなやり取りの積み重ねが、人とつながり、感じ、考え、想像するためのことばを育てていきます。
こちらの記事もおすすめ
原先生の最新書籍
日常の会話、お出かけ、遊び、読み聞かせといった
ふだんの生活の中における
典型的な「子どもとのやりとり」を120の場面で紹介。
◎例(ことばが育ちやすい関わり方)と
×例(ことばが育ちにくい関わり方)を挙げ、
専門家の視点から、わかりやすく解説します。
お子さんのことばの発達に困りごとがある方、
今は大きな悩みはないけれど、
ことばや親の関わり方について知りたい方、
コミュニケーション上手な子に育てたいと思う方……
そんな親御さんをはじめ、
子どもの「周囲の大人」のみなさんのための本です。
この記事を書いたのは

一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。
参考文献
Wieczorek K, DeGroot M, Ganshorn H, Graham SA. Connecting Language Abilities and Social Competence in Children: A Meta-Analytic Review. Child Development. 2025;96(3):930–946. doi:10.1111/cdev.14218.
Turner MS, Boyce LK, Briggs AA, Juhasz AC. Early contributions of observed and parent-reported gesture to language development in children enrolled in early intervention. Infant Behavior and Development. 2025;81:102152. doi:10.1016/j.infbeh.2025.102152.
Coffey JR, Snedeker J. How strong is the relationship between caregiver speech and language development? A meta-analysis. Journal of Child Language. 2026;53(2):435–470. Published online January 10, 2025. doi:10.1017/S0305000924000692.
Kang VY, Kim S, Gregori EV, Maggin DM, Chow JC, Zhao H. Systematic Review and Meta-Analysis of Enhanced Milieu Teaching. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2025;68(1):259–281. doi:10.1044/2024_JSLHR-24-00260.
Hadley PA, Roberts MY, Harrington EK, Jones M, Preza T, Zanzinger KE, Kaat AJ, Grauzer J, Kaiser A. Short-Term Effects of a Caregiver-Mediated Intervention for Preschoolers at Risk for Developmental Language Disorder: A Randomized Controlled Trial. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2026;69(7):3290–3313. doi:10.1044/2026_JSLHR-25-00387.
Bishop DVM, Snowling MJ, Thompson PA, Greenhalgh T; CATALISE-2 consortium. Phase 2 of CATALISE: a multinational and multidisciplinary Delphi consensus study of problems with language development: Terminology. Journal of Child Psychology and Psychiatry. 2017;58(10):1068–1080. doi:10.1111/jcpp.12721.
Nudel R, Christensen RV, Kalnak N, et al. Developmental language disorder – heritability and genetic correlations with other disorders affecting language. Psychiatry Research. 2024;342:116212. doi:10.1016/j.psychres.2024.116212.