「産む・産まない」どちらの選択も責められない社会へ。わが子が妊娠したときの選択肢と親の対応、男の子に日頃から伝えておきたいこと【元養護教諭・性教育講師・にじいろさんに聞く/後編】

わが子が妊娠したとき、親はどのように子どもの心と体を守っていけばよいのでしょうか。元養護教諭で性教育講師のにじいろさんへのインタビュー後編では、わが子が妊娠したときの選択肢と親ができるサポート、そして男の子に日頃から伝えておきたいことを伺いました。

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産むかどうかは親が一方的に決めるのではなく、情報を提供する姿勢が大切

――ご著書の『10代の妊娠 友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル』によると、妊娠したあとの選択肢は「産んで育てる」「産まない」「産んで託す」の3つがあるそうですが、それぞれどんなサポートが必要でしょうか。

にじいろさん:まず「産んで育てる」という場合、環境はご家庭によってさまざまですし、未成年の場合は、産んでも成人するまでは親権者が赤ちゃんから見ると母方の祖父・祖母になります。

一番大事なのは妊娠した本人の意思ですが、現実として祖父・祖母にあたる親御さんの負担も大きくなるので、そこは話し合っていく必要があります。とはいえ最初から「高校生だから産むのは無理だよね」と言うのではなく、「産んで育てるという選択肢はあるよ」ということは伝えてあげてほしいです。そのうえで親御さんが「私たちはどこまでできて、これ以上はできない」ということを示すとよいでしょう。

――「産まない」を選ぶ場合は、どんなことを伝えるべきでしょうか。

にじいろさん:中絶をする場合は、時期がとても大事です。中絶には期限があるので、妊娠がわかった時点の週数によって選択肢も異なります。だからこそ、早く受診することが何より大切です。

日本で人工妊娠中絶ができるのは、法律(母体保護法)で妊娠22週未満(21週6日まで)と定められています。これを過ぎると中絶できないことは、伝えなければならないと思います。とはいえ、22週までなら待てるというわけでもありません。人工妊娠中絶といっても、初期中絶(12週未満)と中期中絶では、体のことも、心のことも、経済的なことも大きく異なります。初期は日帰りの手術が多いのですが、中期になると入院が必要になり、短くて3日、お産と同じように1週間近く入院するケースもあります。死産届が必要になるなど、実際の出産に近い扱いになるんです。

焦らせるのはよくないですが、「時期によって処置の内容が異なる」ことは伝えてあげたほうがよいと思います。

そして、ひとつお願いしたいのは、中絶を怖がらせないでほしいということ。「赤ちゃんを殺すことになるんだよ」というような言い方は、絶対にしないでください。「あなたが今後の人生を生きていくために必要な選択肢として、こういう方法もあるよ」という伝え方をしてあげてください。

――「産んで託す」については、どのようなことを知っておくとよいでしょうか。

にじいろさん:中絶できる時期を過ぎたときや、本人が産みたいけれど現実的に育てるのが難しいときは「大切に育ててくれる人に託す方法もある」ことを伝えてあげてください。戸籍上も実の子として育ててもらう方法(特別養子縁組)もあれば、いったん預けてまた迎えに行く方法もあります。

細かいところは選んだ後に詳しく説明していけばよいので、まずは大きく3つの選択肢がある、ということが伝わるとよいと思います。

――「こうしなさい」というのはなく、まずは選択肢を提示するところからですね。

にじいろさん:その通りです。「こうするしかない」「こうしなければならない」と親が一方的に決めるのではなく、選択肢があることを伝えてください。どうしても大人の価値観が出てしまうところなので、そこは意識していただきたいです。

――親子で意見がすれ違ったときは、どうすればいいでしょうか。時間も限られている中で難しそうです。

にじいろさん:まずはお子さんの気持ちを丁寧に聞きます。そのうえで「これはうちでは難しい」「私たちはこれ以上のサポートはできない」ということは伝えてよいでしょう。そのときに心がけていただきたいのは、あくまで「情報提供する」というイメージを持つこと。

親の言動から、子どもは親が本当はどうしてほしいのかを察することができます。仮に親の希望を察する形で中絶を選んだ場合、「親が望むから、本当は産みたかったのに」という思いを引きずってしまいます。お子さんが後悔しないためにも、親は淡々と「こういう選択肢がある」と示すほうがよいと思います。

一方で、若いときは「産みたい、大丈夫」という気持ちが先行することもあるでしょう。そんなときは、「そんなの無理」と否定するのではなく、「そっか、産みたいんだね」と受け止めたうえで、「産んだら夜中に何回も起きてミルクをあげたり、おむつを替えたり、自由に遊びに行けなかったり、そういう生活とセットだよ」と現実的なことを伝えます。「親に言われたからこうした」ではなく、お子さん自身が「最後は自分で決めた」と思えるようにすると、多少ぶつかることがあっても、納得がいきやすいと思います。

――決めた後の、お子さんの心のケアはどうすればよいでしょうか。

にじいろさん:親御さんからお子さんに、「どれを選んでも間違いじゃないよ」「あなたの人生にとって必要な選択だったんだよ」と伝えてほしいです。中絶の場合は罪悪感が残ってしまうことがあります。地域は限られますが、そうした気持ちを話す会を設けているところもあるので、利用するのもおすすめです。

漫画の活用も有効。男の子の家庭で、子どもに伝えておきたいこととは

――一方、男の子の家庭では、どんなことを伝えておけばよいでしょうか。

にじいろさん:男女ともに避妊の知識はもちろん大事なのですが、「妊娠した場合にどうするか」という話が、日本ではすっぽり抜けていると感じます。本来なら「避妊していても妊娠する可能性はある」という前提で性教育をしていかなければなりません。そうすれば子どもたちも自然と「もし自分だったら」と自分ごととして考えやすくなるはずです。その部分がまったくないと、いざ妊娠したときに、ただただパニックになってしまいます。

特に男の子は、どうしても自分ごとになりにくいんです。だから息子さんに話す機会があれば、「たとえ避妊していても、性行為をする以上、相手は妊娠する可能性がある」「二人の同意でしたことであっても、妊娠という結果は女性にしか来ない。だからこそ、ちゃんと考えないといけない」「女性は生理が来るまで不安な時間を過ごすことになる」と日頃から伝えられるとよいですね。

――とはいえ、親から改まって話すのはなかなか難しそうです。

にじいろさん:漫画など、きっかけになるものを渡すのもいいと思います。それだけでも妊娠が「起こりうるもの」だと気づきやすくなります。たとえば蒼井まもるさんの『あの子の子ども』という漫画は高校生の女の子が妊娠するというストーリーです。両方の親の態度や揉め事もリアルに描かれていて、これまでお話ししたようなことが網羅されているので、ぜひ読んでもらいたいです。

『あの子の子ども』(蒼井まもる著・講談社)

にじいろさん:ほかには、『コウノドリ』や『透明なゆりかご』にも10代の妊娠に関するエピソードが出てきます。こういった作品に触れておくと、妊娠や出産がぐっと身近に感じられると思います。

『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ・講談社)

『透明なゆりかご』(沖田×華著・講談社)

10代の妊娠は「失敗」ではない。必要なサポートを受けられる社会に

――最後に、読者の親御さんに伝えたいことをお願いします。

にじいろさん:日本では「10代の妊娠は失敗」「あってはならないこと」「中絶は悪いこと」という意識が強いですよね。このイメージがあることで、本人も親御さんも必要以上に傷ついています。妊娠した本人もつらいし、保護者は「育て方が悪かった」と見られたり、生まれてくる子どもは「かわいそう」と言われたりしてしまいます。

学校の先生や外部講師にも、「10代の妊娠はあってはならない」というスタンスで話す方がいます。でも、目の前には、母親が10代のときに産んだ子がいるかもしれません。もしいるとしたら、その子たちが先生や講師の話をどんな気持ちで聞いているのかと、私はいつも想像してしまいます。もちろん、10代の妊娠には経済的なことなど大きな課題があるのはわかっています。でも、「妊娠=悪いこと」だと感じさせるような言い方はやめてほしいです。

ユネスコが発行した包括的性教育の手引き「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」には、「意図しない妊娠は起こるもの」であり、「意図しない妊娠をした女性は、必要なサービスを受ける権利がある」という趣旨のことが書かれています。日本には、その視点があまりに欠けていると感じています。その視点があれば妊娠してもすぐに相談できますし、産んでも産まなくても責められません。課題だらけであっても、生まれてきた子も祝福されるでしょうし、中絶も「必要なことだった」と思ってもらえるはずです。

若いからこそ周りのサポートが必要です。社会全体が、「人生の中ではそういうこともあるよね」「それも必要な選択だったよね」「10代で妊娠・出産して、たくさん愛情をかけて育てている人もたくさんいるよね」という流れに変わっていかなければいけないと感じています。

――ありがとうございました。どんなことであってもすぐに相談できるような親子の関係づくり、そして意図しない妊娠であってもすべての女性は必要なサービスを受けられる、という視点を持つことが大切なのだとわかりました。

にじいろさんの書籍『10代の妊娠 友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル』もぜひ読んでみてください。

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お話を聞いたのは

にじいろ 性教育講師・思春期保健相談士

元保健室の先生であるにじいろさんが性教育を行う対象は子どもだけではなく、保護者や教員など様々。現場の声と知識を活かして、多岐にわたる活動をしている。昨年出版した著書「10代の妊娠」(合同出版)では、10代の子どもの妊娠や出産、中絶など、リアルな性の悩みを紹介し話題となっている。

この記事を書いたのは

平丸真梨子 ライター

音楽大学卒業後、出版社勤務を経て、現在はフリーライター・編集者として活動中。小学生2人の母。主に教育系、不登校への取り組み、著名人インタビューなどを執筆しています。子育ての中で感じた疑問や発見を活かしながら記事を作成することを心がけています。

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