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性教育をしっかり学べるかどうかは、地域差が大きい

――まずはじめに、性教育について教えてください。
にじいろさん 日本で生まれ育った多くの方が、性教育といえば生理などの二次性徴や生殖に関することを教えるイメージを持っていると思いますが、それはほんの一部に過ぎません。
実際の性教育は、体のことだけでなく心やジェンダー、そして人権をベースに周りの人とどう関係を築くかを幅広く網羅しています。そして、自分や周りの人を大切にする方法、さらには幸せに生きる方法を考えるなど、生きることそのものを学ぶのが、包括的性教育です。特別なことではなく、日常の中にあるものだと思ってもらえるといいでしょう。
――「日常の中にあるもの」だけど、包括的性教育として学ぶ必要があるということですね。
にじいろさん その通りです。例えば日本では、周りの人に合わせることや人に迷惑をかけないことを重視する価値観が強く、自分が嫌だと思っても口にできなかったり、困ったことがあってもひとりで抱え込んでしまったりするケースが見られます。包括的性教育では、「自分がされて嫌なことには『嫌』と言っていい権利がある」「困ったときには支援を受けられる権利がある」ということも学ぶことができます。
――現在の日本の性教育の状況について、どのように感じていますか?
にじいろさん 学校や地域、先生の差を感じます。日本は性教育の後進国と言われていますが、どこもなにもやっていないかと言われればそういうわけではありません。
例えば、行政の保健師さん、教育委員会が性教育に力を入れている地域では、「小学6年生と中学3年生は、外部講師による性教育の授業を受ける」と決めて、そこに予算を充てています。性教育に関しては、「どの自治体に在籍しているか」という運に左右されている印象を受けます。
また、学校単位で取り組んでいる場合、性教育に熱心な先生が異動などで学校を離れてしまうと、授業も終わってしまうことがあります。そういう意味では、行政が事業として性教育に取り組むことが継続につながると感じます。
「はどめ規定」の存在が性教育にブレーキをかけている
――日本の性に関する学びには「はどめ規定」があるそうですが、これはどんなものでしょうか。
にじいろさん 1998年の学習指導要領改訂の際に入れられた文言で、小学5年生の理科と中学1年生の保健体育に関わってきます。理科の“人の誕生”という授業では、学習指導要領に「受精に至る過程は取り扱わないものとする」、保健体育の“体の変化、妊娠の仕組み”には「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という釘を刺すような注意書きがあります。これがいわゆる「はどめ規定」と呼ばれています。
――この注意書きは、性教育の壁になりそうですね。
にじいろさん おかしな話ですが、文科省は「教えてはいけないとは言っていない」と言っているんです。でも、この注意書きはある。そして、取り扱わないとあるわけですから、受精や妊娠に至る過程は学習指導要領に載っていません。先生たちにとって学習指導要領に載っていないことを教えるのはハードルが高いことですし、「はどめ規定があるのになぜ教えるのか」など、周囲からの攻撃の対象になることもある。
当然現場は萎縮しますし、教えると面倒なことになるというのが共通認識だと思います。はどめ規定が足かせになっているのは間違いないですね。
――にじいろさんから見て、受精や妊娠に至る過程もしっかり教えたほうがいいと思われますか?
にじいろさん はい、絶対に教えた方がいいです。また、はどめ規定があることで、性交以外のテーマについても先生がどこまで教えていいのかがわからず、性教育全体のブレーキになっていると感じます。何も禁止事項がなかったら、もっと伸びやかに、先生が大事だと思うことを教えられるわけですから。はどめ規定はデメリットだらけだと思っています。
「トラウマを抱えている子がいるかもしれない」を前提とした性教育を大切に

――にじいろさんは普段どのような場所で、年にどのぐらい、性教育を行っていますか?
にじいろさん 学校が多く、年間250回くらい行っています。小学校、中学校、高校、特別支援学校、そして学校の先生や児童養護施設の職員、保健師など子どもと関わる職業の大人向けにも行っています。保護者向けの講座もここ数年は多くなりました。
――話す内容で気をつけてることはありますか。
にじいろさん たくさんありますが、何よりも大切にしていることは「トラウマがあるかもしれないこと」を前提とする「トラウマインフォームドな性教育」です。
例えば命の大切さを伝える際、大人は良かれと思って「あなたは望まれて生まれてきたのよ」「生まれてきた人のことをお家の人に帰ったら聞いてみましょう」と言うことがあります。ただ、さまざまな家庭環境で暮らしている子がいると考えたら、そんな呼びかけはできないと思います。
また近頃は性暴力を防ぐ観点から、予防教育が大事だと言われています。そのときに、「被害者にならないように」という表現を使うケースが見受けられますが、「性暴力被害にあった子がいるかもしれない」という意識があれば、そんな言い方はできないですよね。
――確かにそういう配慮がないなと思った途端に、その子にとっては聞きたくない話になってしまいそうです。
にじいろさん そうなんですよね。目の前にいる子どもたちにはいろいろな過去や背景があるはずなので、「私がこれから伝えるテーマと関係する傷を抱えているかもしれない」と念頭に置いた上で授業をしています。例えば、性暴力被害を受けた子、最近中絶した生徒、家庭で激しいDVを見ている子、トランスジェンダーの子がいるかもしれないという前提でやることは意識していますね。
――そういった事案も伝える場合、どう工夫していますか?
にじいろさん “かもしれない”っていう意識があると、同じことを話すにしても出てくる言葉が自然と変わると思います。性教育はほかの授業以上にデリケートな部分に触れる授業なので、それが大事だと思っています。
「性教育」は生活のなかでも伝えて! 親子で考えるだけでも子どもにはプラスに

――学校での性教育について伺ってきましたが、家庭での性教育の必要性についても教えてください。
にじいろさん 先ほどもお伝えしたように、学校任せだと教育の差が本当に激しいです。チャンスがあれば保健の教科書を見ていただきたいんですが、教科書通りにやったとしても内容も足りないと思います。
例えば、生理痛、ナプキンの使い方も書かれていないので、一緒に生活をする大人が生活のなかで伝えていくのは大事なことだと思っています。家は学校と違って一斉授業ではないので、その子の性格や理解度を見ながら、いいタイミングで教えてあげられます。さらに何度でも教えてあげられるのも家庭で性教育をするメリットだと思います。
――なるほど。伝えるときのポイントはありますか?
にじいろさん 親御さんも「性教育」と聞くと、「正しいことを説明してあげなければいけない」と意気込んでしまうかもしれませんが、わざわざその機会を作らなくても、関連した本を置いておいたり、「このサイトよかったよ」などと情報をシェアしたりしてもいいと思います。
あとは子どもとの日常の会話で気になったことがあれば「それってどういうこと?」と拾ってみる。動画やテレビを見ているなかで気になる描写があった場合、「これってリアルでされたら嫌なことだよね」など、感想を言うのもいいでしょう。
子どもが小さいうちは、トイレトレーニングや一緒にお風呂に入ったときに、「男の子はおしっこの出口が隠れているから、こうすると真っすぐ飛ぶよね」「女の子は立ったままだとうまく洗えないんじゃない?」など、性教育脳を持ちながら、日常の場面でおまけのひと言を添えるのもいいですね。
――そのためには親も性教育の知識があったほうがいいですか?
にじいろさん あるに越したことはないですが、知識がなくても大丈夫です。例えば、お母さんから息子さんに話をする場合なら「女の子はこういうときに困るんだけど、男の子は困ることある?」など、子どもと一緒に考えるだけでもプラスになると思います。
――親から子どもに何かを伝える際、気をつけることはありますか?
にじいろさん 家庭では特に、禁止のメッセージをあまり送ってほしくないと思っています。例えば高校生のお子さんに恋人ができたとして、「学生で絶対妊娠したらいけないよ」などの言葉。
あとはニュースで「SNSで出会った人とトラブルになった」と聞いた際も「SNSはろくなことがない」という批判的な言葉。そうではなく、「この子も悩んだろうな」などの言葉選びがいいですね。
禁止したい気持ちや批判的な思いもよくわかりますが、そういってしまうと子どもが実際にそうなった場合、親に言えなくなったり、隠れてやるようになるかなぁと。先回りの注意、制限や批判ばかりでなくて、「なにかあったら力になるよ」「味方でいるよ」というスタンスで伝えられたらいいと思います。
日本中どこに住んでいても包括的性教育が受けられるようになってほしい
――最後に、性教育に関しての今後の課題はどんなことでしょう。
にじいろさん 日本中どこに住んでいても包括的性教育が受けられるように、地域、学校、先生の差が大きい現状を解消する必要があります。理想を言えば、はどめ規定がなくなり、学習指導要領に包括的性教育のカリキュラムが正式に盛り込まれるようになってほしいです。
国や行政が変わるには時間がかかるかもしれませんが、現場では以前より包括的性教育の広がりを感じるんですよね。できるところ、できる人から動いていけば変わっていけると信じています。
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お話を聞いたのは
元保健室の先生であるにじいろさんが性教育を行う対象は子どもだけではなく、保護者や教員など様々。現場の声と知識を活かして、多岐にわたる活動をしている。昨年出版した著書「10代の妊娠」(合同出版)では、10代の子どもの妊娠や出産、中絶など、リアルな性の悩みを紹介し話題となっている。
この記事を書いたのは
子育てや教育、エンタメにまつわる方々への人物インタビューを多く取材・執筆。大人はもちろん、子どもたちから話を聞くのも好きです。3兄弟を育てる母でもあり、同じように子育てに向き合っている方たちが共感できたり、悩みや困りごとに寄り添えるような記事を発信しています。
取材・文/長南真理恵
