雨の日だって森に行く【富山森のこども園】に密着取材。自然の中で子どもたちが学ぶものは~前編~

「四角部屋では活躍できない子どもも、森の中では主役になれる」とは、富山森のこども園を運営する代表の藤井徳子さんの言葉です。ご主人の仕事でカナダ、ドイツと移住を繰り返す中で、森の遊びを取り入れた子育ての大切さに気付いた藤井さん。帰国した富山で同じような教育活動を14年前にスタートし、今では多くの親子が参加する集まりに育てました。

聞けば5児の母でもあるという藤井さんの言葉は、現役の子育て世代にも参考になる話がいっぱい。そこで今回は、富山福祉短期大学の幼児教育学科で講師も務める藤井さんの立ち上げた「富山森のこども園」に出かけ、森での子育てについて聞いてきました。

天候に関係なく、雨でも風でも、親子で森の中に飛び出していく

毎週木曜日に開かれる「富山森のこども園」。筆者が取材で出かけた時期は11月半ばで、当日は雨でした。11月の北陸は冬に向けて徐々に冷え込みが深まり、悪天が増え始める時期です。

取材の日程を調整する段階で、幾つかの候補日から「基本は××日で、悪天の場合は○○日で」と伝えると、「雨でも子どもたちは元気に活動しています!」という返事が藤井さんからありました。

森の中で活動するのですから、雨が降れば中止になると、筆者は「四角い」頭で勝手に思い込んでいました。しかし、台風など身の危険が及ぶくらいの悪天でない限り、基本的には天候に関係なく、雨でも風でも、親子は森の中に飛び出していくのですね。

当日の遊び場である富山県立自然博物園ねいの里に待ち合わせの時間に足を運ぶと、本格的な雨具に膝まである長靴を身に着けた親子が何組か集まっていました。

筆者の装備は行きのコンビニエンスストアで慌てて買った雨がっぱ。袋から取り出したばかりといった折れ目も生地に残っていました。一方で皆さんのレインウエアはどれも使い込んだ印象があり、ファッションや見た目以上に、ぬれないで遊べるといった機能をシンプルに追求した雰囲気があります。

程なく、次々と親子が集まってきます。代表の藤井さんは仕事の関係で遅れるとの話だったため、開始の時刻と共に筆者は親子たちについて、森の中に踏み出していきました。

転んだってへっちゃら!親に抱っこを求めることなく、力強く歩く子どもたち

当日のミッションは、奇麗な葉っぱ集めでした。子どもたちはぬかるんだ森の散歩道を、葉っぱを探しながら歩き続けます。何よりも驚いた光景は、筆者の見る限り抱っこを求めず、転んでも起き上がって、力強く歩き続ける3歳前後の子どもたちの姿でした。

水たまりで勢いよく転んで、手や顔が泥まみれになると、さすがに大泣きした子どもも居ました。しかし、そばにいた母親に抱っこを求めず、自分で気分を切り替えると、森の中を再び歩き始めていきます。

高低差もあり、凹凸もあり、雨でぬかるんで、決して子どもの足には楽な道ではないはずです。普段歩きなれていない大人であれば「まだ歩くの?」と、きっと思うくらいの距離もありました。しかし、子どもたちは枝を手に持ち振り回しながら、楽しそうに森の奥へと進んでいきました。

木の枝のブランコ、火を囲みながらの食事や読みきかせ~豊かに流れる森の時間

山の斜面を下り、沼地の広がる谷中を抜けると、いろり教室が行われる炭焼き小屋が見えてきます。森の中で隊列がかなり伸びてしまったため、最後尾を歩いていた筆者が近づくころには、すでに白い煙が森の中に漂い始めていました。小屋に入ると、お母さんたちが手早く火をおこした後で、沐浴(もくよく)にも使えそうな大きな鍋で、自家製みそを使ってみそ汁を作り始めていました。

炭焼き小屋

途中から合流した藤井さんによると、

「一般的な親子イベントでは、子ども向けに用意されたプログラムに、親が我慢して付き合うという姿が普通です。しかし、森のこども園のプログラムでは、親自身が活動を楽しみ、その親の姿を見て子どもがまねを始めます」

との話。保護者の数人に聞くと、普段は通常の保育所や幼稚園、認定こども園に子どもを預けていると言います。しかし、森のこども園が開催される木曜日だけは普段の園を休み、親子で参加しているのです。

食事が終われば、今度は大きな木の枝に作られたブランコに乗って遊んだり、鬼ごっこが始まったり、拾った葉っぱに装飾をしたり、火を囲みながら大人に絵本を読んでもらったりといった時間が続きます。

何か予定がある親子は途中で帰っていきますし、逆に会場である自然博物園ねいの里の職員がふらりと輪の中に入ってくるなど、とても自由な雰囲気がありました。

プログラムは朝10時ごろからスタートし、昼ご飯を挟んで午後2時ごろまで続くと言います。その間に子どもたちはめいっぱい、森の中で火や水や木や土や生き物に触れられるのです。

 

文・写真/坂本正敬

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