発達障害の症状を語る時によく出てくる「二次障害」とは、どういう状態を指すのでしょうか? 発達障害がある子の全てに起こるものなのか、いつごろから起こりやすいのか、防ぐ方法などを、児童精神科医の星野仁彦先生に伺いました。
目次
そもそも発達障害とは
発達障害とは、注意力に欠け、落ち着きがなく、ときに衝動的な行動をとる注意欠陥・多動性障害(ADHD)、対人スキルや社会性に問題のある自閉症やアルペルガー症候群(AS)などを含む広汎性発達障害(PDD)、読む・書く・計算など特定の能力の習得に困難がある学習障害(LD)などの総称です。
これらは生まれつき、あるいは周産期のなんらかの要因(遺伝、妊娠中・出産時の異常、新生児期の病気など)で脳の発達が損なわれ、本来であれば成長とともに身につくはずの言葉や社会性、感情のコントロールなどが、未成熟、アンバランスになるために起こると考えられています。
発達障害はなぜわかりにくいの?
一口に発達障害と言っても、ADHD、LD、ASなど、さまざまな種類があり、その特性も異なります。また、障害の程度は個々でかなりの差があります。そして、発達障害のある子や大人がみせる症状が、障害による症状なのか、個人の性格なのかがわかりにくいという面もあります。さらに、年齢や発達段階によって状態像が大きく変化することもあります。例えば、幼年期にとても落ち着きがなかったタイプの子が、学童期にはすっかり落ち着いてしまうこともあります。
発達障害における二次障害ってどんなものですか?
発達障害そのものの障害特性とは別に、周囲の無理解などから起こる二次的な障害のこと
そして、もうひとつの原因が、思春期以降にさまざまな二次障害や合併症を持ってしまい、元来の発達障害が隠れて見えにくくなるという問題があります。
「二次障害」が起こりやすい時期は?
「発達障害かも?」と疑いをもつのが小学校入学直後
発達障害を心配して病院を受診する子の年齢のピークは2つあります。1つ目が学童期前半の小学校に入ってすぐのころです。その主訴は多動、不注意、衝動的行動、学業不振など。保育園や幼稚園などの集団生活の中で、特性が目立ちはじめ、小学校に入学していよいよ周囲と馴染めなくなり、診断を受けるというケースです。
二次障害が起こるのは思春期以降が多い
2つ目のピークが小学校高学年から中学にかけての思春期です。ここでの主訴は不登校、家庭内暴力、ひきこもり、非行、過食、自傷行為などです。つまり思春期になると、本来の発達障害による特性ではなく、それを理解してもらえなかったり環境が悪かったりしたために、強い劣等感や反抗心などが生まれてしまい、二次的な障害へ結びついてしまったケースが増えるのです。これを「二次障害」と言います。
思春期・青年期までに起こりやすい発達障害の二次障害は複数ある
不注意で困る子に多い「不登校」、衝動性が強い子に多い「非行」
発達障害の「2次障害」は下記のように分類されます。同じADHDの中でも、ぼんやりとして集中力に欠ける不注意優勢型の子は2、3、4を起こすことが多く、じっとするのが苦手で、衝動的な行動が目立つ多動・衝動性優勢型の子は5、6、7を起こすことが多いです。
1.習癖の問題
チック(男児に多い)、脱毛癖(女児に多い)、爪噛み、貧乏ゆすり、トゥレット症候群(多発性運動チック+音声チック)
2.不登校・登校拒否
- 些細な契機で学校を休み始める
- 比較的短期間で遷延化、重度化しやすい
- 昼夜逆転、退行、無気力、家庭内暴力、ゲーム・インターネット依存などを合併しやすい
3.種々の心身症、自律神経症状(言語化できず身体化)
機能性頭痛、過敏性腸症候群、神経性嘔吐症、起立性調節障害、過呼吸症候群、心因性発熱、場面かん黙症、頻尿症、夜尿症、昼間遺尿症、遺糞症
4.うつ病、うつ症状
意欲減退、無気力、学習能力・集中力の低下、不機嫌・攻撃的行動、朝方の身体症状
5.反抗挑戦性障害(ODD)
怒りに基づく不服従、反抗、挑戦的行動の持続
6.非行(行為障害)、性非行、パラフィリア(性的倒錯)
7.攻撃的・破壊的行動、校内暴力、いじめ、家庭内暴力など
「二次障害」を起こしやすくなる7つの原因とは?
「二次障害」として生まれる障害は、いわゆる精神障害に分類されるものがほとんどで、これらは定型発達の人であっても起こりうることです。また、発達障害がある人の誰もが「二次障害」を起こすわけではありません。ただ、定型発達の人よりも「二次障害」を起こしやすい素因を生まれ持っているといえます。
発達障害のある人が「二次障害」を起こしやすくなるリスクファクターはいろいろあります。そのほとんどは、周囲の無理解による間違った関わり方、支援の不足などです。
1.親・家族が障害を認めない(否認)
子供に批判的・ネガティブな行動、ネグレクト・虐待
2.機能不全家族、特に両親(夫婦)間・嫁姑間不和、離婚、兄弟間葛藤など
3.親(特に父親)の発達障害(ADHD、アスペルガー症候群)。親(特に母親)のうつ病、うつ状態
4.ライフスタイルの乱れ、特に睡眠覚醒リズムの乱れ
5.ゲーム・携帯・インターネットへの依存
6.学校でのいじめ・仲間はずれ、サポート体制の不備
7.近隣社会からの孤立、閉鎖的な地域社会
発達障害がある子は、小児の頃から周りの評価が低く、親や教師からの叱責・注意が多く、他児からいじめられやすいため、自己評価、自尊心が低くなります。また、遺伝因子があるため親にも発達障害がある場合が多く、機能不全家族が多くなります。つまり、家庭内不和、DV、虐待、ネグレクト、貧困などの問題が生まれ、幼児期から親との基本的信頼関係、安心感が得られにくいのも問題です。
発達障害の二次障害は治る?対処法は?
発達障害は防ぎようがない。でも、二次障害は防げる!
発達障害の特性は生まれ持ってのものですので、その特性を目立たせなくすることやコントロールすることはできても、根本的に治すことはできません。その特性といかにうまくつきあっていくかということが大切になります。
一方で、「二次障害」は周囲の関わり方によって、防ぐことができる障害です。「二次障害を起こさないようにしよう」と言われるのはそのためです。
まずは生活リズムを守ることから
早期発見、早期療育がうたわれるようになり、親、家族が障害を認めないというケースはずいぶん減ったと思いますが、学校の対応や、友達からのいじめの問題など、解決できていないことはまだまだたくさんあります。周囲の理解を求めることは、今後も続けていきたいことです。
その前に各ご家庭でできることは、生活リズムを守ることです。発達障害のある子は睡眠障害を持ちやすいので、昼夜が逆転したり、ネット依存になりやすいことに注意し、早寝早起きの習慣を大切にしてください。夜に眠れないようなら、医師に相談して睡眠導入剤などの薬を飲むのもいいでしょう。薬とも上手に付き合うことが大切です。
二次障害がなければ生きやすい
発達障害は心配な面ばかりが強調されますが、実は人よりすぐれた素晴らしい才能を持つことも多々あります。苦手もあるけど得意なこともあって、その差が大きいのです。そのため、私は発達障害ではなく「発達凸凹症候群」と呼びたいと常に訴えています。
素晴らしいひらめきがあったり、すぐれた記憶力があったり、疲れを知らぬ行動力があったり、芸術的な才能があったり、それらの優れた力を生かして社会で活躍する人はたくさんいます。つまり、発達障害があっても「2次障害」を起こさなければ、社会の中で生きることは存分にできるということです。
思春期を迎える前からの関わりを大切に
いよいよ思春期になり、「二次障害」を起こしてしまってからのケアはかなり大変です。「二次障害」を起こさないように、幼児期、学童期の関わりを大切に。親や教師が発達障害のことをしっかり理解し、正しくサポートをすることが何より大切です。
お話:星野仁彦先生
児童精神科医。福島学院大学副学長。医学博士。1947年、福島県会津若松市に生まれる。福島県立医科大学医学部卒業後、米イェール大学留学、福島県立医科大学助教授を経て、現在に至る。これまで一貫して発達障害や不登校などの研究・臨床に従事する。おもな著書に『発達障害に気づかない大人たち』(祥伝社新書)、『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』(幻冬舎新書)『発達障害に気づかない母親たち』(PHP研究所)などがある。