性教育に詳しい医師夫婦のユニット「アクロストン」が、ママ&パパのお悩みに答える連載6回目。今回のテーマは「夫の性教育」。どちらかというと性教育に消極的な夫にどうすればその必要性をわかってもらえるのでしょうか。12歳の娘と10歳の息子を持つアクロストンさん。パパ代表としてたかおさん、ママ代表としてみさとさん、二人の対談でお届けします。
目次
夫に性教育の必要性を知ってもらうには、どうしたらいいですか?
子どもが性犯罪に巻き込まれないために、子どもが小さいうちから家でも性教育をしておきたいのですが、夫に言うと「自然にわかるのに、なんでわざわざやるんだ」「自分は教わっていないけれど問題なく過ごしてきた」と非協力的。夫にも性教育の必要性を知ってもらうにはどうしたらよいでしょうか。(9歳娘、6歳息子の母)
「自分もされていないんだから、必要なし」というパパ多し。でも、今は絶対に必要です
みさとさん 「パパが性教育をしてくれない」というママたちの悩みは、本当によく聞きます。特に息子を持つママは、もっとパパに関わってほしいと思っているみたい。でもパパに言うと、やってくれないどころか、教えなくてもいいんじゃないか、むしろ教えないほうがいいんじゃないかと言われるという話もけっこう多いです。
たかおさん 自分もされてないから、なんで必要なんだってね。
みさとさん でも昔はしなくてよくても、今は絶対に必要。なぜかっていうと、昔はエロコンテンツを手に入れるには、頑張ってエロ本を買うとか、エロ本を回し読みするとか、けっこうハードルが高いものだったけれど、今はインターネットで簡単に手に入るから。しかも写真よりも、もっと刺激の強い動画で見られるので、これがセックスのお手本と考えると危険です。昔もそうですが、今はよりAVはウソであること、この通りにやると相手を傷つけてしまう恐れがあることを大人が伝える必要があります。
あと「自分は問題なかった」と言うパパが、本当に問題なかったかどうか微妙ですよね。相手を本当に傷つけていなかったとは言い切れないし、しっかりと避妊ができていたかということについても、多分アウトな人が多いと思う。
たかお 最近、僕も性教育のことをいろいろ勉強していると、振り返って反省することがすごく多い。セックスの中での行為のひとつひとつに、ちゃんと同意をとっていたかどうか。僕は自然の流れだと思い込んでいたけれど、果たして相手が心の底からOKだったかどうか ……。
男は間違った性の情報に晒されてきたことが多い
みさと つき合っていたら、セックスしなきゃいけないっていう思い込みもあるしね。
たかお 男がリードしないといけないとか、そういうことをたくさん植えつけられていたから、それに則って行動してきた。
みさと そういう目で見ると、全く問題なかった人なんて多分いないと思う。
たかお コンドームなしのセックスも性暴力のひとつだしね。
みさと コンドームは挿入の最初からしないとダメ。途中からする人がいますが、これは妊娠や性感染症のリスクを女性に与えている。
たかお 女性が性暴力にあって被害を訴えると、男性は「同意があった」と、もめることがあります。そういうケースを見るにつけ、男性は、間違った性の情報を根拠にしているんだなぁと思います。
「ひどくない?」とテレビへのツッコミで夫に同意を求める。やりとりを子どもに聞かせるも良し
みさと だから、まずパパに「性教育はいらない」という思い込みを捨ててもらうところから始めないといけない。
そういう夫婦の会話を子どもに聞かせるのもいいですよ。親がつぶやいた言葉は、子どもの耳に残りますから。テレビではこう言っているけれど、うちの親は快く思っていないんだなぁと。ママがそうやって頑張っているうちに、パパも言ってくれるようになるかもしれない。
たかお 毒の入っているテレビ番組ってツッコミ放題ですよね。
親も勉強して知識のアップデートをしていく時代です
みさと そもそも性教育って、誰がしてもいいと思うんです。父親が協力的でない場合に、父親をその気にさせようと頑張りすぎなくて大丈夫。親だけでなく、他の大人がすると性教育はもっと豊かになるので、父親が協力的でない場合や、シングルの家庭なら、なおさら親せきや友だちなど、他の大人に助けてもらうといいと思います。
たかお 性教育というと、大人が子どもに教えるというイメージがありますが、実際問題、大人も学んできていませんから、大人もいっしょに学ぶということが大切だなと思います。
たとえば、今もお父さんを中心に構成される家族ってありますよね。それは力を持っている一人の人間が、他の人間をコントロールする図式になりかねない。その中で育つ子どもは、力を持ったら、弱い人たちをコントロールしていいんだと学んでしまう。これはすごく危なっかしくて、子どもに女性蔑視の考えがつく恐れもありますし、それこそ性暴力の根底にある相手を支配する、支配欲につながります。そういうこともジェンダーの勉強をしているとわかるようになります。
みさと 親が家で性教育に関する本を読むだけでもいいですよね。そういう姿を子どもが見ると、大人もこうやって知識をアップデートしていくんだって思う。
たかお そもそも、さっきのテレビに突っ込む話も、親に知識がないとできない。たとえ突っ込んでも、子どもに「なんで?」って聞かれると答えられない。だから親もアップデートしていかないと子どもに伝わるものがすごく少なくなりますよね。
東京オリ・パラでも使われている「SOGI」。一人ひとりちがう性。子どもに正しい理解を促していくのは大人の役目
たかお アップデートといえば、今はLGBTQに関する知識は絶対ですね。僕自身、LGBTQの理解が乏しかったので、学ぶうちに、これはまずかったなと思うことがすごくある……。
たとえば高校時代、女の子に興味のない友だちに「ゲイじゃないの、お前?」という、いじりに僕も加担したんです。振り返ってみると、普通は異性愛者だと決めつけているし、同性愛を差別する発言をしてしまっていて最低だな、と。何より深く傷つけてしまったのではないかと申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
みさと LGBTQという言葉は、それに当てはまる人を指す言葉でありますが、トランスジェンダーかつゲイである人がいたり、そもそもLGBTQのどこにもあてはまらなかったりします。そこで、SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity=性的指向と性自認)という言葉がよく使われるようになってきました。LGBTQは人を、SOGIはひとりひとりの内面の多様性についてを指しています。
東京オリンピック・パラリンピックでも、SOGIに配慮しましょうと言われています。さらに最近はE(Gender Expression=ジェンダー表現)をつけて、SOGIEと言われていますね。
性教育が進んでいるのはオランダと北欧諸国。日本は、めちゃくちゃ遅れている。
たかお それにしても日本は、LGBTQやSOGIの理解も含めて、性教育が遅れていますよね。
みさと 普通に遅れているんじゃなくて、めちゃくちゃ遅れている。特にすすんでいるのがオランダと北欧諸国。学校の性教育とは別に、ユースクリニックという若者が気軽に利用できるクリニックがあって、そこに行けばコンドームもピルももらえます。アフターピルもほぼ自己負担なくもらえて、しかも相談ができる。「困ったらユースクリニックに行け」と学校でも言われるし、子どものほうにもそれがしみついています。
たかお アジア圏でも広がっている。
みさと また、これまでないがしろにされてきた女性の権利や健康に目を向けられるようになってきたという世界的な流れがある。
でも世界的な流れだからというより、自認であったり性表現であったり、性のことは一人一人違うわけで、私たちは自らそういうことをきちんと知って、他人を傷つけないようにしていく。それを子どもにも、しっかりと伝えることが大人の役目であろうと思います。
教えてくれたのは
妻のみさとは産業医、夫のたかおは病理医をしながら、2018年に「アクロストン」としての活動をスタート。公立の小学校の授業や企業主催のイベントなど、日本各地で性にまつわるワークショップを行う。『3~9歳ではじめるアクロストン式「赤ちゃんってどうやってできるの?」いま、子どもに伝えたい性のQ&A』(主婦の友社)、『思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになっているなんて!』(主婦の友社)、『10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック(ほるぷ出版)』が発売中。
構成/池田純子