春ドラマもそろそろ終わり。ラブコメディの多かった今期の中でも北川景子と永山瑛太が結婚してすぐ離婚する夫婦を演じた『リコカツ』(TBS系)が、ママ世代から好評です。失恋したヒロインが雪山で航空自衛隊航空救難団員に助けられ、彼と電撃結婚するものの、価値観の違いから離婚。しかし、お互いに未練があり、再び結ばれるかどうかというラブストーリーが展開中。最終回に向けて、このドラマの描いてきたことを振り返ります。
ラブコメの中に離婚のリアルが差し込まれる。新しい視点の恋愛ストーリー
「離婚を考えない夫婦はいない。ただ、それを実行に移しただけ」
『リコカツ』の第7話で紘一(永山瑛太)と離婚したことを報告したヒロインの咲(北川景子)に、上司の小松原部長(濱田マリ)がこう言いました。部長自身も離婚経験があり、後輩から嘲笑された咲をかばっての言葉。文芸編集者らしく「離婚はきわめて自然なもので、多くの家では毎晩、それが夫婦の間に寝ている」というフランスの警句家セバスチャン・シャンフォールの言葉も引用し、傷心の咲を力づけます。
全国の離婚件数はいまや年間約25万件。実際に多くの人が離婚の危機を経験しています。交際ゼロ日で結婚し、新婚生活を始めるやいなや「離婚しよう」ということになった咲と紘一の場合は、家庭環境が違いすぎました。咲は父が広告代理店勤務、母は美魔女インフルエンサーという家庭に育ち、みずからもファッション雑誌の編集者でした。自衛官の父親に厳しく育てられ、新居に家訓を掲げるような紘一とは合うはずはありません、咲は33歳ということで、ちょうど社会人10年目ぐらい。紘一も自衛官になって10年以上経っているでしょうし、2人とも今さら仕事や生活スタイルを変えるわけにはいかず、それゆえにすれ違っていく様子が描かれていました。
一方、紘一と咲の母親はこれで子育てが終わったとばかりに、それぞれ離婚を決意していました。さらには子持ちの咲の姉まで。親子四組の離婚活動=リコカツが同時進行するという、現実ではありえないことが起こっていますが、50代~60代の母親たちが離婚に踏み切った心情はなかなかリアル。咲の母親(三石琴乃)は若い女性との浮気を繰り返す夫(佐野史郎から平田満に交代)に愛想を尽かして三行半を突きつけ、紘一の母(宮崎美子)は亭主関白で「おい」としか言わない夫のもとを出ていきました。どちらの母親も自分を尊重してくれないパートナーに絶望したわけですが、既婚女性なら誰しもそういう思いを味わったことがあるのではないでしょうか。
第6話、ついに正式に離婚
紘一も古風で、当然のように食事は妻が作るものと思っていたぐらいですが、父親世代に比べれば、その認識を改めるぐらいの柔軟性はあります。生真面目な性格ゆえ浮気なんてしそうにないですし、何かと言えば咲に「まだ君の夫だから」と、ちょっと大げさですが咲を守ろうとする姿が誠実であることは間違いありません。だからこそ、価値観の相違というだけでは、離婚の動機としては弱い。咲もいったん離婚を言い出したものの、なかなか踏み切れない状態が続いていました。しかし、第6話のラスト、紘一が離婚届を提出し、ついに正式に離婚してしまいました。
TBSの金曜ドラマは、「金妻」こと『金曜日の妻たちへ』(1983年)の昔からよく離婚がテーマになり、本作にも出た佐野史郎さんが離婚してくれない“冬彦さん”を演じた『ずっとあなたが好きだった』などもありましたが、20年間ほど題材にならなくなり、ここ数年、『あなたには帰る家がある』『恋する母たち』で久々に離婚を描くドラマが復活しました。この『リコカツ』は「離婚を決めてから夫婦間の本当の恋が始まる」というところが新しく、若い世代が恋愛をしなくなっている現在、ひとひねりある物語になっています。たしかに、離婚する前後ほど、相手のことを真剣に見つめ自分の気持ちを確かめる瞬間というのは、他にないかもしれません。
「武士野郎」を演じる永山瑛太さんの怪演ぶり! ツッコミ役の北川景子も好演
このドラマのお笑い担当は、紘一役の永山瑛太さん。航空自衛隊航空救難団員であり「最後の侍」「武士野郎」と言われる紘一をコミカルに熱演しています。みごとに増強した筋肉、いつもより低く太い声、眉毛をピクピクと動かす顔などで、古風なカタブツ人間を巧みに体現。朝食の焼き魚が「生焼けだ」と驚いたり、飲んでいたお茶を口からマーライオンのようにこぼしたりするなど、コントのような場面もこなし、ときに『古畑任三郎』などのパロディも(かなりの完成度!)。瑛太さんは20代の頃から『男湯』『のだめカンタービレ』などに出演し、コミカルなキャラも上手い俳優さん。しかし、この紘一役が “笑わせ役”としては最も振り切ったものになるのではないでしょうか。
体を鍛えているので自衛隊の訓練で腕立て伏せをしたり物を担いで走ったりする場面でもリアリティがありますし、コント的な演技から瞬時にシリアスなモードに切り換えられるのもさすが。第8話のラスト、歩道橋のパネルに映る自分の顔を見て「お前、嘘ついたな!」と叫ぶシーンは迫力があり、紘一の咲への思いの強さを感じさせました。
また、北川景子さんは、瑛太さんの怪演を目の前で受けるときに笑いをこらえるのはたいへんでしょうが、きっちりツッコミの役目を果たしています。さらに、シリアスな場面では、紘一と離婚するかしないか、彼にやっぱり離婚したくないと言うべきかどうかで揺れ動く心を繊細に表現。第8話では、紘一への未練を断ち切ろうと元彼の貴也(高橋光臣)とよりを戻す決意をしますが、「もう一度、私と…」から先が言い出せなくなってしまう演技は、せつなくて共感を呼びました。
北川景子、永山瑛太の共演ありきで企画されたドラマ
このドラマの企画は北川景子さんと永山瑛太さんの共演ありきで立ち上がり、2人のスケジュールが合うのを待って3年越しで実現したのだとか。それだけに2人のやり取りは新鮮かつ真に迫っていて、実は意地を張り合っているだけだという不器用な男女の恋を成立させています。
さらに、ナイスガイを絵に描いたような “元彼貴也”や、紘一の上司であり突然、彼の実家に作りすぎた煮物を持ってきた“筑前煮女”こと一ノ瀬(田辺桃子)、前髪が見えなくて紘一いわく「お目々が見えない」人気作家・水無月(白洲迅)など、キャラ立ちした脇役が登場します。Twitterでも放送時は毎回トレンド入りするほど。
咲と紘一がいまだに強く惹かれあっているのは明白で、第8話で咲は高也とやり直せないと告げ、紘一も一之瀬の告白を正式に断りました。王道のラブストーリーゆえ、ハッピーエンドで終わると予想しますが、残り2話はどんな展開になるのか。6/11放送の第9話では、咲にフランスでの研修の話が舞い込むということで、恋愛ドラマの王道中の王道、空港での涙の別れというのもありえそうです。
金曜ドラマ「リコカツ」TBS系列 金曜夜10時から放送
文/小田慶子