他人の子を救って命を落とした母を、我が子はどう受け止めたか?『竜とそばかすの姫』

細田守監督の新作映画『竜とそばかすの姫』が公開!

©2021スタジオ地図

細田守監督が『サマーウォーズ』(09)に続いて、インターネットを題材にした話題のアニメーション映画『竜とそばかすの姫』が7月16日より公開されました。少女の成長物語を大きな軸として、観れば没入せずにはいられない疾走感あふれる仮想世界の映像美や、「美女と野獣」をベースにした物語などに心躍る本作ですが、ママ的に注目したい点は、細田監督が『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)、『未来のミライ』(18)に続き、本作でも家族の絆や命の連鎖を描いている点です。

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まずは、あらすじから。ヒロインは自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)。彼女は幼い頃、目の前で母を仁淀川での事故で亡くしたようです。そのことで心の傷を負ったすずは、大好きな歌を歌えなくなってしまい、父親に対しても心を閉ざしてしまいます。

高校生になったすずは、親友に誘われて、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に、参加します。そこでは<As(アズ)>と呼ばれる分身として、別人生を送ることができます。すずは自分のAsを「ベル」と名づけますが、なぜかベルとしてなら歌を歌えるようになりました。やがてベルは歌姫として脚光を浴びていき、コンサートを開きますが、突然、乱暴で傲慢な「竜」が現れ、そのコンサートをぶち壊してしまいます。

勇気ある母の行為は正しかったのか?現代のSNSの闇が描かれる

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当時すずの母は、豪雨で増水した仁淀川で、1人川の中州に取り残されてしまった他人の子どもを助け出そうと、自らライフジャケットを身に着けて川に入りました。結果としてその子どもだけが助かり、すずの母は帰らぬ人となってしまったのです。まだ小さかったすずは、なぜ母が自分を置いて、赤の他人の子どもを助けに行ったのかがまったく理解できませんでした。

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この件についてはネット上で「雨で増水した川に飛び込むなんて自殺行為だ」「人助けなんて善人ぶったからこうなった」「他人の子どもを助けて自分の子どもに無責任だ」といった心無い声があがったようです。それはいわば昨今のSNSにおける誹謗中傷問題に切り込んだものですが、細田監督はそこをわかりやすくとがめたり制裁を与えたりはせず、すずの心の成長を通してその答えを導こうとしていきます。

でも、もしも自分が同じような立場に置かれたらどうするでしょうか?川で泣いていたのは、自分の子どもと同じく小さな女の子で、おそらく助けが間に合わなければ、溺れ死んでしまったと思います。きっとすずの母は居ても立っても居られず、足が動いてしまったのではないかと。

ネタバレは避けますが、もちろん最後に、そのことに対するメッセージのようなものも用意されています。ひとつだけ言えるのは、これまでの細田作品同様に、様々な人生を肯定する着地点を見せてくれることでしょうか。きっとママやパパたちが観ると、別な意味でいろいろと考えさせられ、味わい深い感動に包まれそうです。

歌姫・中村佳穂と竜役の佐藤健とが織りなす「美女と野獣」

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細田監督史上、おそらく一番規模の大きな作品となった『竜とそばかすの姫』。なかでも一番圧倒されるのは、仮想世界<U(ユー)>の世界観でしょうか。観れば、吸い込まれてしまいそうな吸引力があります。

細田監督はいつもどおり、映像や音楽、キャストの演技面まですべてにおいて目を光らせていたと思いますが、今回のチームはかなり大所帯で、様々なクリエイティビティが融合しています。そういう意味では、かなりチャレンジングで観たこともないアニメーション映画に仕上がったのではないかと。

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また、細田監督が「歌に愛されている人」というディーバとして最上級の言葉で称えられたすずことベル役の中村佳穂は、心にダイレクトに届く歌はもちろん、すずとして血を通わせた演技もすばらしいです。『時をかける少女』以来となる10代の女子高校生がヒロインとなった本作で、中村さんの声優としての才能も開花されました。

また、ベルと心を通わせていく竜役の佐藤健も孤独や怒りをにじませる深みのある声で、観る者の心を鷲づかみにしていきます。名作「美女と野獣」をモチーフにしているだけはあり、2人が織りなす名シーンには、同作へのオマージュもたっぷり入っています。

これぞ映画館に行って、五感をフル活用して体感したい一大のエンターテインメント作品です。きっと親子で観れば、夏の良い思い出となりそうな作品なので、ぜひ劇場でご覧ください。

『竜とそばかすの姫』は7月16日(金)より全国公開中
監督:細田守
声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、佐藤健…ほか
公式HP:ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/

文/山崎伸子

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