好きなことを極めれば、きっと算数も得意になる!【中島さち子さん×松丸亮吾さん教育対談】

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テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さん。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるため、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。

第6回のゲストは、数学者でありプロのジャズピアニストでもある、中島さち子さん。高校時代に「国際数学オリンピック」で日本人女性初の金メダリストに輝いた中島さんは、現在は、数学と芸術・遊びの融合をテーマに、STEAM教育の推進に取り組む株式会社steAmの代表でもあります。松丸さんと「数学好き」トークが広がる対談。今回は【寄り道の大切さ】そして【算数が苦手な子を持つ親御さんへのアドバイス】です。

▶︎前編はこちら「テストや受験のためだけに勉強するのはもったいない!」

▶︎中編はこちら「『揺らぎのある遊び』が学びを深めます」

好きなものが同じ「仲間」がいることの嬉しさ

子どもが、学校や塾のテストなどといった従来の勉強の評価軸とは別の形で学びを得ようとするとき、周囲の共感や応援も必要だと思います。その点、おふたりはどう考えていますか?

中島 私は数学を学ぶ上でも、音楽を続ける上でも、仲間の存在は大きかったですね。高校2年生と3年生の時に数学オリンピックに出て、2年の時に金メダル、3年の時に銀メダルを獲得しましたが、その喜びよりも「数学オリンピックがあってくれて私は救われた」という感覚です。

松丸 え!? 救われたって、どういうことですか?

中島 高校は楽しかったけど、数学に関しては、簡単には解けないユニークな問題や見えない世界について、深掘りして夢中になって考え続けるのが好き、というような仲間にはあまり出会えなかったんですね。

松丸 なかなかいなそう(笑)

中島 それでも当時、数学を通して知り合ったピーター・フランクルさんや秋山仁さん(ともに数学者)といった方たちのおかげで、数学好きが集まる場が作られていて。そこに集まってくる人たちは学校にはあまりいないタイプの人たちでした。同じような感覚で数学を楽しむことができる仲間に出会えたことは、自分にとってすごく大きなことです。ひとりきりだと孤独だったり、迷っちゃったりするので、喜びを分かち合えるのは嬉しい。

松丸 そうだったんですね。僕が中学受験したのも、仲間を作りたかったからなんです。東大に入ったのも同じ理由ですが、感覚が近しい人、趣味を理解してくれる人が多いということです。例えば、たまたま道端ですれ違った人に「僕は数学の問題を作るのが好きなんです」と言っても、ほとんど理解されないじゃないですか。でも、東大のキャンパスで同じように声をかけたとしたら、ほとんどの人が「わかる、問題を作るっておもしろいよね」と共感してくれるんですよ。そこではじめて、すんなりと自然な状態で話ができる。それはすごく有意義なコミュニケーションだと思ったので、受験しました。

数学を仕事にしていて、女性の少なさが気になる

中島 「同じ感覚で話ができる仲間」はすごく大切ですよね。反面、その視点だと、最近はジェンダーの問題も感じています。理数系って本当に女性が少ないんですよ。男性ばかりの環境で同質の男の子ばかり集まると、強い文化ができてしまって、女の子は引いてしまいがちです。最近は、ユルい感じ日常会話をしながら研究の話も一緒にできるような場があるといいねということで、女性の研究者同士みんなでワイワイつながり始めていますが、やっぱり圧倒的に女性の数が少ないのは寂しいですね。

松丸 僕が在籍している東大の工学部も女性は少ないですね。

中島 日本では数学の分野では女性が増えているとは決していえないと思いますが、十分大きな課題意識をもった対策がとられている、というわけでもないかもしれませんね。でもやっぱり男性50人のなかに女性ひとりだと目立っちゃうし、授業や会合にも行きづらくなりますよね。学校や塾はひとつのコミュニティだけど、もっともっと多様な場が作れたらいいし、場の在り方が多様になることで救われる人たちがいるといいなと思います。

関係ないと思っていたことが、後から生きてくる

中島さんは東大在学中からジャズピアニストとして活動を始め、卒業後はプロの道を選びました。数学からジャズに「場」を変えた理由は?

中島 大学に入って周りに男の子が多くなって、数学自体はおもしろいけどちょっと違和感があったというのはありますね。ただ、それよりも、ジャズの「その場で作る」という楽しさにはまったんです。ジャズはこうして何人かで会話をすることと似ているんです。違うのは、話をする時はひとりずつ順番に喋りますけど、ジャズの場合は音を重ね合わせる。瞬時に判断するのですが、そこに正解はありません。私はもともと小説や哲学といった答えがあるのかないのかわからないようなものがずっと好きだったので、ジャズがすごく合いました。数学はほんとにおもしろい世界だけど、その輪から少し離れることで見えたこともありますね。松丸さんもそういう経験ありますか?

松丸 僕は飽き性で、いろいろなことに触れて、ある程度理解したら別のことに進みたくなるタイプなんです。でもその経験を通じて役に立ったことはいっぱいありますね。例えばテレビに出る時って、台本を読むだけで大変だし、アドリブでコメントを返すのも難しいけど、僕はそれなりにできていると思います。なぜかと考えたら、高校の時、演劇部だったからだと気づきました。

中島 確かに共通点がありそうですね。そのときはわからなくても、寄り道だと思っていた経験が後から生きるということはありますね。

「型」にはまることが、新しい世界を開く

中島 大学生の時、アーマッド・ジャマルというジャズピアニストの楽曲を、完コピしたんです。私は性格的に自由にやることが好きで、余白が大事と言われても音を入れちゃうタイプなんですが、アーマッド・ジャマルの曲はクラシックに近くて、空間を作るような感じで音楽を作るので、余白が多い。普段は完コピなんて絶対しないんですけど、でもきっちりその余白を守って弾かないようにしてみたんです。そうしたら、全体の音が立体的に聞こえるようになったんです。

松丸 へえ!

中島 もちろん普段も聞こえているつもりだったんだけど、間を埋めるように弾いていると、聞こえていないところもたくさんある。そのことにその時初めて気づきました。アーマッド・ジャマルの譜面を忠実に守り、あえて「型」にはまることで余白や間の大切さを知って、世界が開いたように感じたんです。

松丸 「型」って制約ですよね。制約があるから広がるってわかります。僕も同じような経験があって、バラエティ番組でナゾトキを作るって、すごく制限が多いんですよ。番組の製作側は絵として強いものを求めるので無茶振りに近いような注文がくることがあります。でも、僕らは仕事として発注いただいてるから、なんとかその注文を受け入れて、おもしろい番組にしなければいけない。

中島 大変そう(笑)

松丸 はい。でも、自由に作ってくれと言われたら、今までの経験のなかからいいと思ったものしか出てきませんよね。制約を受け入れて自分の領域の外に踏み込むことで、新しい経験になる。今後、自由に作ってと言われたら、もともとの自分の経験に加えてその時にチャレンジして得た学びも選択肢になりますから。

中島 それはこれからの学びのヒントにもなりますね。これからの時代はビジネスも研究も、様々な専門知が掛け合わさったプロジェクトが当たり前になると思うんです。専門家じゃなくても、いろいろ知ろうと学び、その知識を使って俯瞰して見ることが大切です。

松丸 人生、無駄なことはない! ということですね!

「算数が苦手」な子は、好きなことを極めればいい

最後に、算数が苦手という子どもを持つ保護者の方にアドバイスをお願いします。

松丸 まず、なんで苦手なのかを分析してほしいですね。「苦手」の原因が「嫌い」だったりすることはよくあって、嫌いなものを得意にさせるのは難しい。だから、嫌いの原因を取り除いてあげることが大事だと思います。

僕は子どものころ、水泳の先生が怖くてスイミングに通うのがイヤだったんですが、親が「じゃあ先生を変えようか」と違う先生に変えてくれました。そしたら水泳が楽しくなった。嫌いの原因が人間関係の場合もあるので、よく話を聞いてあげてほしいです。

それから、勉強ではないものがきっかけになることもあります。僕が算数を好きになったきっかけは、カードゲームをやったこと。例えばポケモンカードは計算が必要なんですが、子どもは勝ちたいから計算が速くなる。以前、小学生のチャンピオンと対戦したら、僕より計算が速くて驚きました。同じように、好きなことを突き詰めていくうちに、どこかで算数、数学に通じることがあると思います。

中島 学校のテストはあくまでひとつの評価にすぎません。松丸さんが言うように、パズルやポケモンなどお子さんが夢中になれるものを見つけて、それをどんどん深掘りしていけば、最後にきっとどこかで数学につながります。

理数教育研究所が開催している「算数・数学の自由研究」というコンクールがあって、そこで入賞している作品は歴史やスポーツ、文学、美術や音楽などに絡む数学研究がたくさんあり、とってもおもしろいです。例えば、2014年に入賞した「メロスの全力を検証」という作品などはわかりやすいですね。太宰治の小説『走れメロス』の記述を頼りにメロスの平均移動速度を算出してみたら、実は「メロスはまったく全力で走っていない」とわかったというもので()。中学2年生の子の作品なんですが、当時はネットでも話題になりました。

こんなふうに自分の好きなことや、興味関心からプロジェクトを企画して進めていくなかで、数学的な思考を学び、算数や数学も楽しくなるでしょう。その子なりの数学の世界、視点は絶対にあるので、ゆっくり自分なりに数学と出会えばいいと思います。

プロフィール

中島さち子|ジャズピアニスト、数学研究者、メディアアーティスト
東京大学理学部数学科卒業。NY大学芸術学部ITP修士。幼少時からピアノや作曲に親しむ。高校2年生のとき国際数学オリンピックで日本人女性初の金メダルを獲得。大学時代にジャズに出合い本格的に音楽活動を開始、バンド「渋さ知らズ」やソロとして活動。2017年、株式会社steAmを設立し、代表取締役として STEAM 教育の普及に努めている。著書に『人生を変える「数学」そして「音楽」』、『音楽から聴こえる数学』(講談社)、絵本『タイショウ星人のふしぎな絵』(文研出版、絵:くすはら順子)ほか、音楽CDは『REJOICE』、『希望の花』、ほか。内閣府STEM Girls Ambassador(理工系女子応援大使)。2025年大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー。

プロフィール

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

 

著/松丸亮吾| 著・編/カラビナ

ナゾトキの問題を提供するのは、テレビで大人気のナゾトキクリエイター松丸亮吾さんとリドラ。ナゾトキは全部で30問あり、問題には小学一年生で習う漢字がすべて使われています。ナゾトキをした後には問題で使われた漢字を学習することで、より深い学習効果が期待できます。

撮影協力/フォルテ・オクターヴハウスhttps://forte-octave.jp

取材・文/川内イオ 写真/平林直己 ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨

▶︎前編はこちら「テストや受験のためだけに勉強するのはもったいない!」

▶︎中編はこちら「『揺らぎのある遊び』が学びを深めます」

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