パソコンは鉛筆と同じ!デジタル教育の3つのメリット【松丸くんの教育ナゾトキ対談】Vol.4 NPO法人CANVAS代表・石戸奈々子さん~前編~

現役東大生でナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さんによる連載「松丸くんの教育ナゾトキ対談」。松丸くんが、日本の子どもたちに「考えることは楽しい」と伝えるミッションのもと、日本の教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げてくれます。

第4回のゲストは、子ども向けのワークショップを数多く提供するNPO法人CANVAS代表の石戸奈々子さん。石戸さんは文部科学省「小学校プログラミング教育の手引き」作成にも関わった、プログラミング教育の第一人者です。プログラミング教育って何? デジタルを教育にどう使うの? 気になる親御さん必見の対談、前編です。

「ワークショップって何のお店ですか?」

−石戸さんは、子どもたちの多様な「つくる」体験を提供するNPO法人・CANVASの代表です。CANVASの活動について教えていただけますか?

石戸 CANVASのキャッチフレーズは「遊びと学びのヒミツ基地」です。子どものクリエイティビティやコミュニケーション能力を育む活動を産官学連携で推進するために2002年に立ち上げました。これからの時代、子どもたちに必要なのは、世界中の多様な価値観の人と協働して新しい価値を創る力だと考えています。それはコンピュータに代替されない力ですから。

松丸 子ども向けに、プログラミングや工作・芸術などのワークショップをたくさん開催してますよね。

石戸 はい。たくさんのワークショップを集めた「ワークショップコレクション」を企画しています。教育っていうと固いイメージがあるので、ファッションショーみたいにポップな印象にしたいと思って「ワークショプコレクション」と名乗ったんです。今では2日間で10万人も参加する規模になりました。でも、この活動を始めた頃は、「クリエイティビティ」というと、「アーティストを育てたいんですか?」と聞かれたり、「ワークショップ」というと「なんのお店ですか?」と言われたりしていましたね(笑)。

松丸 そうなんですか()。今では当たり前のようにワークショップって言葉は聞きますよね。

石戸 まだちょうどiモードが出た頃で、デジタルを使ったワークショップに対しても「子どもとデジタルなんて滅相もない」と拒否反応が強かった時代です。でも、そんな時から、一人一台、情報端末を持って学ぶ環境を整えよう、知識を暗記するこれまでの学びから、思考創造型の学びに変革しよう、テクノロジーで学びを変えられるんだと訴えてきました。

教育にテクノロジーを活用する3つのメリット

松丸 日本の勉強って、昔から苦行であることが前提という感じがあるじゃないですか。忍耐力を鍛えるためにはそういうつらさも大事なんだっていう。でも、タブレット端末やデジタルコンテンツを使っての学習はもっと自由で、楽しそうですよね。

石戸 ですよね。でも教育業界の拒否反応は本当に強くて、テクノロジーを導入することのメリットってなんですか? と何度も聞かれました。教育の先進国として知られる北欧で、視察に訪れた日本人だけが聞く質問として言われているのが「パソコンを導入したら成績が上がるんですか?」というもの()。これは「鉛筆を持ったら成績あがりますか?」という質問と同じですよね。鉛筆もパソコンも道具にすぎないから、それを使ってどういう学びを作っていくかが重要だと思います。

松丸 教育もアナログからデジタルに変わっていくなかで、拒否反応があるんですね。

石戸 はい。そこで私は「教育にテクノロジーを活用することで3つのメリットがあります」と言ってきました。それは「創造」「共有」「効率」です。言葉を変えると、「楽しく繋がって便利」ということです。

松丸 どういうことですか?

石戸 「創造」は、教科書の文字だけだとわかりにくかったものも動画やゲームを使ってわかりやすく、楽しく学ぶことができるということです。「共有」は、先生と生徒がタブレットで常に繋がってたら、授業中に手を挙げられなくても素敵な考えを持っているね、素敵な作業をしてるねって触れてあげることができますよね。それに、海外の学校と繋げて、オンラインで英語の勉強をすることもできる。「効率」という点では、個人に合わせた学びを提供できるのがいちばん。さらに例えばドリルの丸付けのような機械ができるものは機械に任せてしまえば、先生は子どもに向き合うことだけに集中できるようになります。

松丸 勉強の仕方が大きく変わりますね。

石戸 はい。ただ、テクノロジーはあくまでツールです。学校だけじゃなく、CANVASの活動にも共通するのは、テクノロジーを使ってなにか特定のスキルを育もうとするのではなくて、世の中がどう変化しても対応できる学び力、考え方を伝えたいということなんです。

公式を暗記する教育では自分で考える力は育たない

石戸 松丸さんはどうやって学んできました?

松丸 僕の場合は、ドリルで問題を解くよりも自分で問題を作ってたんです。それが成績を上げるきっかけになったと思います。

石戸 ええ? 自分で問題を作ってたんですか?

松丸 公式を覚えるのは好きじゃなかったんです。ドリルは同じ公式で解ける問題が続くじゃないですか。公式を覚えればそこから何ページかはやれるけど、それに飽きちゃって()。それよりも自分で問題を作って、どうやったら解けるのかなとあれこれ考えたことがいちばん有機的な学びになったかなと思います。公式というツールを使って遊んでいる感覚があったので、特に苦もなく勉強が進みました。

石戸 私も公式を覚えるのが嫌いでした()。与えられた公式で解くことに慣れてしまうと、それに捉われて、柔軟に思考することが難しくなりますよね。大学時代に家庭教師をしていた時、何を求められているのかを理解しないまま公式に当てはめたがる子がいました。

松丸 僕も小学生の家庭教師をしていたので、わかります。例えばたいていの図形の面積って掛け算すれば答えが出ますよね。でも、台形は「(上底+下底)×高さ÷2」って特殊じゃないですか。それなのに、ほかの図形だと問題文に出てきた数字を掛け算すれば答えが出るからと、台形でも上の辺と下の辺と高さを掛け算してしまう子が一定数いました。

石戸 憶えなきゃいけない公式がたくさんあるからって勉強が嫌いになる子も多いですよね。でも、問題を分解してみると、ベースになっている考え方ってそんなに多くない。そこを理解していると、公式を丸暗記せず、どんな問題が来ても対応できるようになりますよね。

松丸 そうですよね。公式を覚えてくださいという教育では、子どもが自分で考える力は一切育ってない。台形の図形を2つに分けたら三角形になるとか、ひっくり返してくっつけたら平行四辺形になるとか、見たときに自分でそこに気付く瞬間がいちばん楽しいし、その過程で考える力が育つんだと思います。

プログラミングとナゾトキは似ている

石戸 問題から得た情報を分解して、論理的に組み立てていけば、いずれ答えに繋がる。その考え方はプログラミングにも通じているんですが、ナゾトキも共通していますね。

松丸 はい。どうやって解くんだろうと試行錯誤して、答えにたどり着く。その成功体験をたくさん重ねれば、先生に教えてもらわなくても、自分の頭一つで答えに辿りつけると自信を持てるようになる。ナゾトキで気をつけているのは、同じ解法で解ける問題は出さないことなんです。ひとつひとつの問題で子どもが必ず未知の体験をしてほしいので。

石戸 ワークショップやモノづくりも、試行錯誤しながらああでもないこうでもないと考え続けることが必要じゃないですか。その結果として、成功体験がある。ナゾトキもまさに試行錯誤する楽しさが自然と身につくという点で、CANVASでやってきたこととすごく似ていると思います。

プロフィール

石戸奈々子(いしど ななこ)

NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。著書に「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」「子どもの創造力スイッチ!」「デジタル教育宣言」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。
これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。
デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。
http://creativekids.jp/

プロフィール

松丸亮吾(まつまる りょうご)

東京大学に入学後、謎解き制作集団AnotherVisionの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。監修書籍『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)は、累計125万部(2020年3月現在)を突破。ほかに『東大松丸式 数字ナゾトキ』(ワニブックス)、『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)など多数の謎解き本を手がける。
現在は「考えることの楽しさを全ての人に伝える」を目標に東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。

Twitter @ryogomatsumaru
Instagram @ryogomatsumaru

取材・文/川内イオ

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