子どもがやりたいことを否定しない親
中島さんはジャズピアニスト、数学研究者として活躍されています。どのような「学びの過程」を経て成長されたのでしょうか?
中島 まず、母親の影響が大きいと思いますね。母によると、私はとにかくずっと同じことをしているのが好きな子だったらしく、砂場で何時間も同じものを作っていたり、何時間もひたすら川を眺めているような子どもだったんです。かなり心配されていたと思うけど、母はいつも私を急かすことなく付き合ってくれて、それは今、すごく感謝しています。私が親だったら待てないなって(笑)
松丸 僕も、両親からやりたいことを否定されたことはありません。「子どもを応援する立場でいよう」という心情だったそうで、小学生の時、パズルが好きでいつもパズルをしていたら、数独などいろいろなタイプのパズルを買い与えてくれました。それが嬉しくて、夢中になってパズルを解いていたことが、今のナゾトキに通じています。親の立場からすると、「教育にいい」と聞いたものを子どもに押し付けたくなると思うんです。でも、後々なににつながるかを考えず、子どもがやりたいことをそのまま信じてあげることが大事ですよね。実際に自分に子どもができたら、いろいろ思うんでしょうけど(笑)
中島 誰かから言われてやらされることって、おもしろくないですよね。それは、子どもも大人も同じでしょう。自分が発見したモノとか、自分が好きだと思っているものじゃないと、やる気の火がつかない。火さえついてしまえば、まわりまわっていろいろなものになる可能性がある。
松丸 子どもって、自分が好きなことに没頭している時間がいちばん伸びると思うんです。逆に、親に強制されたことってやる気が出ないから、その効果は僕の感覚では没頭している時の半分以下になります。それって効率悪いですよね。
テストや受験のために勉強するのはもったいない!
中島 私は、学校のテストで順位をつけられたり、〇×の数を競ったりするのも好きじゃなかったんです。小学生の頃から塾にも通っていたんですけど、そこは毎週毎週テストがあって、テスト結果でクラスを分けるんです。それがイヤで(笑)ほぼ行かなくなって、テストだけ受けていました。私の席がずっと空いてるので、あの席は誰? って話題になっていたみたいです。
松丸 塾も欠席!? ご両親はそれも許してくれたんですか?
中島 はい。母は事あるごとに「テストや受験のために勉強するのはもったいない。学びって答えがあるわけじゃなくて、だからこそ深いしおもしろいんだよ」と言葉で伝えたり、態度で示してくれていました。その影響で、学校や塾のテストに対しても「学びってそんな単純なものじゃない!」という感覚がありましたね。
松丸 素敵なお母さんですね。これまでの教育って「画一性」がキーワードだと思うんですよ。先生が一方的に教えました→できて当然です→テスト受けてください→なんで間違えてるんですか? という繰り返し。評価の基準が、教えられたことをただこなせるかどうかだとやる気も起きないし、嫌になって当然です。
中島 受験勉強もそういう傾向があると思うんですが、マニュアル的にできることは、もうある程度AIに任せてもいいと思うんです。それよりも、ストレートには見通せない世界で、マニュアルにないものをどう生み出すのかという創造性の部分がこれからの時代は大切で。マニュアルから外れた学びにこそ、喜びや楽しさがあると思います。
松丸 それは例えばどのような学びですか?
中島 教科書ひとつとっても、「勉強しなきゃいけないもの」と捉えるとつまらないですよね。でも視点を変えれば、教科書って知の宝庫で、よくこんなことを思いついたなって驚きの連続なんです。世界中の知恵を一冊にまとめたものなんだと考えると、すごいですよね。そうやって、与えられた情報をただ受け取るんじゃなくて、自分が作り手目線で考えたりするだけで、おもしろくなります。
子どもが評価される場面を、勉強以外でも作っていく
松丸 マニュアルから外れた学びは、僕らがナゾトキで問題を作る時も意識していることです。この問題はこう解きます、さあ類題を説いてくださいという出題は絶対にしません。解けなくてもいいんです。だって、全員が解けるように作っていないから。解けなかった時に答えを聞いてなるほどなって思うことが大事で、それを繰り返しているうちに、誰にも教わってないのに解けるようになる。その瞬間、俺って天才かも! という自己肯定感が生まれるんですよね。
中島 テストの点や成績はあくまでひとつの指標で、学校や塾のテスト以外でも評価される場面がもっとたくさんあればいいなと思っています。ありとあらゆるテーマでたくさんのコンテストが行われたりすると、誰でもなにかしら好きなものはあるだろうから、これはちょっと自分の出番かも、ということがあると思うんです。多軸評価で、子どもたちが山ほど認められる場面を作っていくといいんじゃないかな。
松丸 いろいろな個性を持つ子どもが活躍できる場があったら、素敵ですね。そうやって自己肯定感を育むという意味では、子どものチャレンジを応援してくれる褒め上手な親の存在も大きいと思います。
中島 そうですね。
松丸 今の教育システムだと学校のテストも欠かせないけど、テストにしても、いい点だから褒める、悪い点だから責めるではなくて、子どもの成績表を見た時に、褒められるところを見つけてくれたら嬉しいですよね。僕、数学のテストの成績がすごく悪かった時に親に褒められたことがあって。全体の出来は良くなかったんですけど、正答率2%の問題が解けていたんです。そしたら親が「この問題が解けたのはすごいから、気にしなくていいんじゃない」と言ってくれて、それがすごく嬉しくていまだに憶えています。
中島 テストの点数とか順位は、それで気持ちが上がったり、自信になることもあるから否定するつもりはないんです。ただ、それで一喜一憂して疲れちゃうのはもったいない。学校や塾の勉強にあまりなじめなかった私にとって、「テストや受験のために勉強するのはもったいない。学びって答えがあるわけじゃなくて、だからこそ深いしおもしろいんだよ」という言葉は本当に支えになりました。
松丸 最近は学校や進学塾以外の学びの場も増えていますよね。
中島 はい。自分が何をどう学んで、その学びから得たものはなにか、テスト以外にも表現できる時代だと思います。プログラミングでなにかを作ってもいいし、自分なりに考えた社会課題を解決するようなプロジェクトを立ち上げてもいい。そうやってなにか作ったとか、これを考えたとか、こんなことを試行錯誤しましたとか、そういうチャレンジがもっと見える化されて、評価されるといいなと思います。そのうえで、社会がいろいろな形で大丈夫だよ、間違ってないよと評価してあげたら、親御さんも楽になりますよね。
松丸 うーん、深いですね。この教育対談、自分が親になった時に全部見返すんだろうな(笑)
プロフィール
プロフィール
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
撮影協力/フォルテ・オクターヴハウスhttps://forte-octave.jp
取材・文/川内イオ 写真/平林直己 ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨
▼第1回 高濱正伸先生(花まる学習会)との対談はこちら
▼第2回 宝槻泰伸先生(探究学舎)との対談はこちら
▼第3回 藤本徹先生(東大 ゲーミフィケーション研究者)との対談はこちら
▼第4回 石戸奈々子さん(NPO法人CANVAS理事長)との対談はこちら
▼第5回 齋藤孝先生(明治大学教授 教育学・コミュニケーション論)との対談はこちら