手を焼かせる子こそ、親に大切なことを気付かせてくれる子です【今も心に響く佐々木正美さんの教え】

子育ての基本は、子どもを無条件に愛し、手をかけてあげることです

だから、手を焼かせる子は、困った子ではありません。
親に大切なことを気付かせてくれる、素晴らしい子なのです。

私は30年以上、保育士さんたちと勉強会をしています。保育園で子どもたちの様子を見ていると、登園時に親から離れないで泣く子が必ずいますね。一見お母さんのそばにいたくて、ぐずっているようですが、実は手のかけられ方に不足を感じているのです。親の愛情に満足しないと、子どもは親から離れることができません。

そういう子は、日中、保育士さんを独り占めしたくて、べったり甘えます。しかし、保育士さんも他の子の面倒を見なくてはなりませんから、その子から離れます。すると、攻撃的になるのです。そして、夕方のお迎えのとき、今度はなかなか家へ帰ろうとしません。朝、あんなに離れたくなかったのだから、さっさとお母さんのもとに行けばいいのに、そうはしないのですね。一方、一目散にお母さんのところへ駆け込んで行くのは愛情に満ち足りて安定した子です。

保育士さんたちの実感では、家の外で手を焼かせる子が、年を追って増えているそうです。そういう子は、小学生になっても、学校で問題を起こしがちです。しかし、園や学校での様子を親に伝えても、家では手のかからない子なので、信じようとはしません。それどころか、「私は上手に子育てをしているのに、あなたたちが下手なのだ」と、責任を押し付けることもあります。親の前では自分が出せず、いい子を演じていることに気付いていないのですね。親に手を焼かせるのが、本来の自然な子どもの姿です。

子育ては過保護ぐらいがちょうどいい

私は、子育ては過保護ぐらいがちょうどいいと考えています。その子がしてほしいと望むことを、やりすぎるくらいしてあげるのです。「過保護に育てると、わがままになるのではないか?」という意見もありますが、そんなことはありません。親が自分のことを受け入れてくれたとわかったら、満足をして、あまり無理な要求をしてこないものです。

現実は、過保護より過干渉の子育てが多いように思います。過干渉というのは、子どもが望まないことをやらせすぎてしまうことです。そうなると子どもは、自分が何をしていいのかわからず、親の評価ばかり気にするようになります。自主性や自立心も育ちません。

私は昭和10年生まれですが、私たちが子どものころの親は、「できの悪い子ほどかわいい」とよく言っていたものです。今の日本の親は、「できのよい子でなければ、かわいくない」「自分の期待を担ってくれる子がかわいい」と自己愛的になってきました。自分の望むような子にしたいという気持ちが強すぎると、過干渉になりかねません。

子どもは「大事にされているんだ」と実感することで、自分のことも信じられるようになります。それが、「自分でやってみよう」という原動力につながるのですね。

子どもには、お母さんから無条件に愛されている実感が必要です

精神分析家のエリクソンは、「人間の社会的成長には飛び級がない」と言っています。依存する経験を通して、初めて自立ができるのです。子どもは他人と関わりながら、少しずつ社会性を身に付けていきます。しかし、人間関係がうまくいかず、いじめや不登校などの問題に出合うケースが増えています。

大阪市立大学の森田洋司先生が、平成9年に小・中学校のいじめの調査をしました。いじめの現場は、当事者以外に、いじめをやめさせようとする子、いじめをはやし立てる子、無関心な子がいるといわれています。森田先生は、子どもたちにアンケートをとったのですが、いじめを止めようと努力する子は、親との関係が良いと答えていました。その一方で、はやし立てる子を含め、いじめに参加する子は、親子関係が悪い、「親にむかつくことがある」と答えています。対照的な結果もそうですが、親との関係を子ども自身が認識していることが興味深いですね。

不登校やひきこもりの原因はいろいろありますが、私は親子関係の希薄さが大きいと思っています。

マイケル・ジーレンジガーというアメリカのジャーナリストが、日本のひきこもりの実態を調べ、その要因の一つに「親子の愛着(アタッチメント)形成が極めて不十分」であることを指摘しています。愛着は、一部の例外を除けば、すべての子どもがお母さんに抱く感情です。それは特定個人に抱かれるもので、複数の人に抱くことができません。お母さんから無条件に愛されている実感、この先も永遠に愛される喜びが混ざり合って、愛着が生まれるのです。それが、不足しているというのですね。

お母さんとの愛着形成が、いかに重要であるか、岐阜聖徳学園大学短期大学部の鍵小野美和先生の研究グループが、日本と中国の大学生にそれぞれアンケートを取って証明しました。アンケートは、「お母さんの匂いを覚えているか」「お母さんに添い寝をしてもらった記憶があるか」など、乳幼児期の思い出の質問から始まり、最後に「現在、自尊心や自己肯定感があるか」「将来の夢を持っているか」といった内容を聞いています。

その結果、お母さんの記憶がはっきり残っている学生ほど、自尊心や自己肯定感があり、自分の夢や将来への希望がはっきり描けることがわかりました。これは、日本の学生も中国の学生も同じです。ただ、残念ながら、日本の学生は圧倒的に、お母さんの記憶が乏しいのですね。このように、お母さんの役割は、とてつもなく大きいのです。もっと自分の力に誇りを持って、子育てをするべきですよ。

まず、日々の食事から子どもの願いを叶えてあげましょう

まずは、「お母さんにどうしてほしいの?」と、子どもの欲求を聞いてあげましょう。子どもの努力を求めるのではなく、親が働きかけるのです。そうして、子どもが働きかけるのを待ってあげることですね。

それでも、子どもの本音を引き出せていないなぁと感じたときは、食事の献立を工夫するといいですよ。「今日のごはんは何が食べたい?」と聞いて、子どもが好きな料理を作ってあげるのです。「お母さんは私の希望を聞き入れてくれた」ということが、子どもにとって大事なのです。

我が家も妻が、「朝ごはんは何がいい?」と、3人の息子によく聞いていましたよ。それなりに母親が作れそうな料理をリクエストするのですが、その日の宿題ができていなかったりすると「目玉焼きは両面を焼いてよね!」などと注文を付けていました。何らかのストレスや不満を抱えているときは、要求が多くなるものです。

嘘や盗みなど、問題行動を起こす場合も、欲求不満が原因です。強く叱る前に、不満の要因を探ってみなくてはなりません。

また、性への興味を持つ小学生の行動を目の当たりにして、戸惑うお母さんの声を聞くことがあります。そのときは、「決して悪いことではないんだよ」と語りかけ、強い欲求不満を残さないように対処してあげましょう。親子の関係が安定すると、低年齢のうちに強い性衝動は起こらなくなります。

「忘れ物が多い」「朝の支度が遅い」と、子どもの不器用さに手を焼いているケースもありますね。私は子どもができないことは、手伝ってあげればいいと思います。一緒に準備をして、教えてあげるのです。「手伝うと自分で何もできない子になるのでは?」という心配はいりません。

「やらなくてはいけない」と子どもが自覚をすれば、自分からやるようになりますよ。本人がそのことを嫌だと感じたら、必ず努力します。子どもを信頼してあげましょう。

また、近所や学校で、子どもが失敗や不始末をしでかし、周囲の人に迷惑をかけることがあります。そのときは親の出番です。プライドなどは捨てて、親が謝りに行けばいいのです。我が家は男の子が3人もいましたから、私も何度か謝罪に出向きました。頭を下げる父親の姿を、息子はしょんぼりと見てましたよ。相手が許してくれたら、その件は終了です。「なんであんなことをしたんだ?」「もう二度とするんじゃないよ」なんて、くどくど言うのはやめようと夫婦で決めていました。そのほうが、子どもは同じ失敗を繰り返さないものです。自分のせいで親にみじめな思いをさせてしまったことを、本人は十分わかっていますからね。

子どもに手を焼いているお母さんは、子どもとのコミュニケーションを見直す機会が与えられていると考えましょう。「お母さんにどうしてもらいたい?」「お母さんができることは、やってあげるよ」という気持ちで接して、子どもの本音を聞いてあげるのです。そして、ありのままのわが子をしっかり受け止めてあげてください。

たくさんの愛情と手をかけてもらったら、子どもは自然に手を焼かせなくなります。「この子をいい子にしよう」というよりも、「この子のためにいい親でいよう」と心がけてほしいと思います。

 

記事監修

佐々木正美|児童精神科医

1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。


 

2011年『edu』所収 構成/北野知美 写真/繁延あづさ

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