司法試験とは?
司法試験と聞くと、ただ漠然と「難しそう」「合格率が低そう」という印象を持つ人が少なくありません。実際のところ、司法試験とはどのような試験なのでしょうか? 司法試験の概要について紹介します。
法曹三者になるための試験
司法試験とは、法務省の管轄で行われる「法曹三者」になるための国家試験です。
法曹とは法律を扱う業務についていう言葉で、「法曹三者」というときは以下の三つの職業を指します。司法試験に合格すれば、これらの職に就く資格が与えられます。
・裁判官:裁判において有罪・無罪を判断したり刑罰の内容を決めたりする
・弁護士:被疑者・被告人を弁護する
・検察官:被疑者を起訴するか否かを決定し適切な刑罰を求める
司法試験を受ける人は、試験の段階で職業を選択する必要はありません。どの職業に進むかについては、適性を踏まえてじっくり考えることが可能です。
受験資格を得る二つの道
司法試験の受験資格を得るルートとしては、以下の二つがあります。
・法科大学院課程を修了する
・司法試験予備試験(予備試験)に合格する
法科大学院とは、法曹教育に特化した専門職大学院です。「法学未修者コース(3年)」「法学既修者コース(2年)」があり、法曹を目指す上で必要となる基礎的な法律知識や能力などを習得します。
一方で予備試験は、司法試験前に十分な法律知識・能力があるかをチェックするための試験です。受験に必要な資格等は特にありませんが、合格には法科大学院修了者と同レベルであることが求められます。どちらのルートも、以下の通り受験期間の上限・回数が定められています。こちらを過ぎてしまった場合は、再度司法試験受験資格を得なければなりません。
・法科大学院課程の修了者:修了の日後の最初の4月1日から5年間の期間(受験期間)において3回の範囲内
・司法試験予備試験の合格者:同試験合格発表の日後の最初の4月1日から5年間の期間(受験期間)において3回の範囲内
参考:
法務省:新司法試験Q&A
法科大学院について:文部科学省
法務省:司法試験予備試験
司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律|首相官邸
試験の難易度と勉強時間
司法試験が難しいのは周知のこととはいえ、実際にはどの程度の難易度なのでしょうか? 司法試験の合格率や合格に必要といわれる勉強時間について見ていきましょう。
予備試験と司法試験の合格率
予備試験は年に1回行われ、「短答式試験」「論文式試験」「口述式試験」をすべてクリアした人が合格となります。2017~2020年までの傾向を見ると、受験者数は毎年約1万人・合格率は4%前後です。合格者数は増加傾向にあるといわれるものの、難易度は決して低くありません。
一方、同じ期間の司法試験の受験者数・合格率は、受験者数約4000~8000人・合格率約23~39%といわれ、受験者数は年々減少し、合格率は上昇する傾向です。2021年には合格率41.5%と、初めて合格率が4割を超えました。
必要な勉強時間は約1万時間
個々の能力・知識にもよりますが、司法試験合格までに必要な勉強時間は約1万時間といわれています。このうちの大部分は、予備試験に合格するための勉強時間です。
法律と無関係の人が予備試験を受ける場合、法律の基礎知識を一から学ばなければなりません。試験範囲を一通り学ぶだけでも相当な時間がかかり、勉強時間が自然に多くなるのです。予備試験に合格するレベルになれば、法律に関する基礎知識は身に付いたということです。2000時間程度の勉強で司法試験に合格できる人も少なくありません。
合格まで10年近くかかる人も
知識ゼロから司法試験の勉強を始めた人なら、合格までに10年近くかかることも珍しくありません。
現行の制度では、予備試験・司法試験それぞれを1年でパスするコースが最短です。ただし、2年で合格する人は極めてまれです。通常「短期合格」といわれる人でも、合格までに3~5年かけています。普通の人なら、合格までに6~8年かかるのが一般的です。少しでも早く司法試験に合格するためには、効率的に勉強し、最後までモチベーション高く取り組む必要があるでしょう。
予備試験対策の時間配分と勉強法
司法試験合格の最短ルートを目指すなら、予備試験をクリアしなければなりません。予備試験の勉強はどのようにこなせばよいのでしょうか?「短答式試験」「論文式試験」「口述式試験」の勉強をするポイントについて見ていきましょう。
短答式は2割 アウトプットがメイン
短答式は、マークシート方式の問題です。選択式ではありますが、基本的な知識や「短答プロパー知識」とよばれる細かい知識も得ておく必要があります。
まずは知識をしっかりと定着させるため、たくさんの過去問や問題集を解くようにします。知識が定着すれば、短答式の勉強は2割程度に落として構いません。ただし、試験の2~3カ月前からは、ほとんどの時間を短絡式試験の勉強に充てます。予備試験受験者の多くは、短答式試験で脱落してしまいます。合格するためには、常に正解率8割をキープできるようにしておくのが理想とのことです。
論文式は7割 三段論法で論点を整理
論文式の試験は、長文の問題を読み1500字程度で自身の回答を記述する試験です。短答式と異なり、自分の意見を論理的にまとめる必要があります。法律の知識に加えて文章スキルも必要となるため、法律論文的な書き方に慣れておく必要があります。論文を書くときは、「三段論法」を意識すると論点がずれにくくなります。具体的には、以下の流れです。
・問題提起→問題の大前提となる規範を伝える→事実を当てはめる→結論
論文試験の勉強は、短答式のアウトプットも兼ねられます。短答式試験が近づくまでは、論文式の勉強時間を7~8割と多めに取ることが奨励されているようです。
口述式は1割 模擬試験で感覚をつかむ
口述式の試験は、口頭で質問に答える試験です。出題範囲は論文式試験と共通するため、短答式・論文式の試験に合格した人にはさほど難しくはありません。勉強よりも「緊張しないようメンタルを整える」「どのように返答すべきか感覚をつかむ」ことが合否を分けるポイントとなります。
口述式の試験対策として最もよいのは、誰かに試験官役をしてもらう模擬試験スタイルです。司法試験予備校などでは模擬試験を実施しているようです。
口述式の試験勉強は、論文式試験が終わってからでも間に合います。合格率は毎年90%以上と高いため、勉強時間は全体の1割程度で十分ともいわれています。
学習を効率的に進める方法
司法試験は、勉強時間を増やせば受かるというものではありません。合格するためには、効率を重視した勉強が必要です。学習を効率的に進める方法について見ていきましょう。
正しいステップで無駄をなくす
司法試験の勉強を始めるときは、まず「法律の基礎知識」を身に付け、その後「法律の基礎知識を踏まえた論文の書き方」を覚える、のように段階を踏んでいきます。焦っていきなり難しい問題に取り組んでも、間違った知識が身に付いたりやる気がなくなったりするだけです。司法試験では質の高い勉強が求められるため、理解の段階に合わせた学習方法があります。
また司法試験では、狭い範囲を深く理解していることよりも、幅広い範囲を理解していることが求められます。苦手な分野にも根気強く取り組み、穴をなくしていくことも重要です。
アウトプットで知識を定着
司法試験のテキストは膨大な量となりますが、ただ読むだけでは自分の知識として定着しません。過去問を解いたり法律答案を書いたりしてアウトプットし、覚えた知識を確実に自分のものにする必要があります。
ただし、司法の勉強はインプットの量が多く、のんびりしているとインプットだけで時間が過ぎてしまいます。インプットはなるべく早い段階で終わらせて、より多くの時間をアウトプットに費やすことも大事です。
例えば3年で司法試験に合格したいのであれば、1年目でインプットを終了、2年目はアウトプットに集中し、3年目に合格という勉強プランが考えられます。効率的に勉強できるよう、どの教科をどのくらいの期間で終わらせるか、しっかり計画を立てることが大切です。
時間を効率的に使って合格を目指そう
司法試験を受験するためには、法科大学院に行くか、予備試験に合格しなければなりません。最短ルートを選ぶなら、予備試験から司法試験を受けるのがベターです。しかしながら、予備試験は合格率約4%の狭き門です。短期間でスムーズに合格を目指すなら、効率的な学習計画を立ててコツコツと勉強する必要があります。
将来、法曹界で働くことをめざしているなら、子どもの頃から自律的に学習に取り組み、目標と効率を自己管理する姿勢を育てることが大事です。目的意識と集中力を鍛えることに重点をおく必要がありそうです。
文・構成/HugKum編集部