変化の激しい世の中ですが、あるいは変化の激しい世の中だからこそ、医学部を志望する学生の倍率が高い状態を維持しています。医療従事者の仕事はなくならないと考えられていますし、卒業すれば高額年収が期待できる学部でもあるからでしょうか。
しかし、わが子を医学部に出すとなると、かなりの学費が必要になるイメージがあります。この「かなり」とは実際にはどのくらいなのでしょうか? そこで今回は文部科学省の情報などを基に、医学物の授業料、免除制度についての基本的な情報をまとめてみました。
医学部に進学で学費はどのくらいかかる?
医学部に進学すると学費はどのくらいかかるのか。その問題を考える前に、国公立と私立の医学部の違いを知っておく必要があります。
国立大学の医学部の学費
一般的に大学は、文系<理系<医学系といった感じで、学費が高くなるイメージがあります。そのイメージに引っ張られて、国公立でも医学部は学費が高いイメージを持ってしまうかもしれません。
しかし、国公立の大学の場合、文学部も経済学部も工学部も理学部も医学部も、授業料は全部一緒です。国立大学に入れば、医学部であろうがなかろうが、学費は一緒なのですね。
文部科学省の資料によると、国立大の授業料は、平成17年から据え置きで年間535,800円、入学料は平成14年から据え置きで282,000円です。この額は医学部も一緒。
もちろん、国立の医学部となると、その分だけ入学のために学力が必要で、地方の国立大学でも医学部となると、東京大学、京都大学の非医学部に入るくらいの学力が必要になると言われています。
しかし、学力さえあれば、6年間の学費が3,214,800円、プラス入学料の282,000円、合計350万円くらいで、わが子を医学部卒にさせてあげられるのですね。
公立大学の医学部の学費
医学部というと、国立大学か私立大学の印象があると思います。実際、全国には42校の国立大学に医学部が置かれていて、私立大学には31校に設けられています。
日本全国で医学部のある大学は、合計81校(令和元年時点)。国立が42校で私立が31校、合計で73校ですから、医学部はほぼ国立と私立の大学に占められていると分かります。しかし、81-73=8校は国立以外の公立の医学部がある計算になります。具体的には、
- 札幌医科大学
- 福島県立医科大学
- 横浜市立大学
- 名古屋市立大学
- 京都府立医科大学
- 大阪市立大学
- 奈良県立医科大学
- 和歌山県立医科大学
です。京都、大阪、奈良、和歌山と関西に集中している印象があります。医学の世界は「西高東低」と言われる1つの所以でしょうか。
これら国立以外の公立大学の学費は幾らなのでしょうか。国立以外の公立大学は地域外からの入学者と、地域内に暮らす入学者で入学金が変わります。その意味で個別に調べる必要がありますが、例えば札幌医科大学の場合、授業料は前期が267,900円、後期が267,900円となっています。合計で53万円ほど。
公立大学は国立大学の学費に準じて設定されますので、医学部であろうと公立大学でも国立大学の学費と同じくらいです。
大阪市立大学の場合、医学部も含めて全学部で学費は年間535,800円。入学料は大阪市民の場合222,000円、その他の地域に暮らす人の場合382,000円です。やはり、国立大学と大差がないと分かります。
私立医学部の学費の平均
医学部=学費が高いというイメージは、私立大学の医学部の学費が高いからかもしれません。基本的に私立大学の医学部の場合、学費にはかなりのばらつきがありますが、6年間の合計で2000万円から4000万円の学費がかかると大まかに理解したいです。
この学費の違いは、私立大学の場合、大学によってさまざまです。
例えば、私立大学の医学部で最も高い部類に入る大学として、川崎医科大学(岡山県倉敷市)が挙げられます。公式ホームページによれば、初年度は入学金が200万円、授業料が年間で200万円、プラスして教育充実費が年間で650万円、初年度の合計が10,500,000円になります。2年目以降は年間700万円。6年間の合計が45,500,000円になります。
一方で私立大学の医学部で最も低い部類に入る大学は、国際医療福祉大学(千葉県成田市)です。初年度の入学金は150万円、授業料が190万円、実験実習費が60万円、施設設備費が50万円、初年度の合計が450万円、6年間の合計が18,500,000円です。川崎医科大学と比べて、半額以下の授業料になります。
しかし、医学部以外の私立大学の学費は、平均して400万円~500万円程度ですから、けた違いの学費が発生すると覚悟しておきたいです。
医学部の学費はなぜ高い?
どうして医学部の学費は高いのでしょうか。まず、医学部は6年間も大学に通うために、4年間しか通わない非医学部の大学と比べて、自然と学費の総額が高くなります。
また、国際医療福祉大学の授業料の内訳で見たように、医学部の場合は実験実習があります。そのための施設設備も必要になります。
私立大学の医学部で一人の学生を初期研修医のレベルまで育てようとすると、学生一人あたり、6年間で1億円の経費がかかると言われています。
その額を私学助成金という交付金、付属病院の収益、さらに保護者・関係者からの寄付金でまかないます。自然と学生本人が負担する金額も、数千万円のレベルに達してしまうのですね。
一般家庭では払えない?奨学金や免除制度について
国公立の医学部は別として、私立大学の医学部の場合は学費が高いと分かりました。こうなると、一般的な世帯収入の家庭では、わが子に医学部進学を経済的に諦めさせざるを得ない話になりそうです。実際はどうなのでしょうか。
条件つきで学費が軽減や免除になる大学もある
医学部にわが子を進学させる際には、大前提として、本人がその道を志している必要があります。医学部の入試では、面接や小論文が課され、医師への志を高く持っているのか、あるいは医師になる人材としてふさわしいか、入学前に調べられるからですね。
あくまでも高い志をもって、わが子が医師になりたがっている、その前提で話を進めますが、本人の学力、熱意が医学部への進学に向いているのに、経済的に実現させてあげられない場合は、私立大学の医学部でも助けてくれる制度があります。
例えば先ほども紹介した国際医療福祉大学の場合、医学部特待奨学生制度があります。入試で際立って優れた成績を収めた人の場合、6年間で最大1400万円の給付があり、入学金の免除が約束されています。
先ほど確認した通り、同大学の6年間の学費合計は、入学金の150万円を除くと17,000,000円です。言い換えれば6年間で300万円の自己負担で済むという制度です。
国立大学の医学部は、入学金と授業料を6年間で合計すると350万円くらいでした。国立大学の医学部よりも安く通える可能性が、私立大学の医学部でもあるのですね。
病院や自治体の奨学金制度
医師不足の問題を抱える病院や自治体が、医師の確保を目的として、返済免除を前提とした奨学金を出しているケースも少なくありません。
例えば、医学生地域医療奨学金があります。大学によっては国立大学の授業料、入学金相当の金額に加えて、修学費として月額10万円の生活費が貸与される制度です。
医学生地域医療奨学金をもらって、例えば島根大学医学部を卒業した場合、卒業後12年の間に島根県内で初期の臨床研修を含めた9年間を医師として働けば、免除されます。学力さえあれば、医師になるチャンスはいくらでもあるのですね。
教育ローンの選択肢も
最終的には、教育ローンという選択肢もあります。医学部を卒業すれば、高い収入が約束されます。将来的な収入が見込めるため、銀行などが教育ローンを用意しています。
学費だけでなく受験にかかる費用もチェック
学力があるのに、経済的事情でわが子に医学部進学を断念させざるを得ない家庭には、幾つも救済策があると分かりました。逆に、経済力が家庭にあるのに、子どもの学力がともなわない場合は、どうなるのでしょうか。
予備校にかかる費用
偏差値の高すぎない大学であっても、医学部となると高い学力が必要で、早稲田大学や慶応義塾大学の非医学部に入学するくらいの学力は求められます。学力が不足する場合は、受験前に医学部受験専用の予備校に通わせる必要もあるかもしれません。
予備校の費用については、大手総合予備校の場合は年間で100万円ほど、医学部を専門とする予備校の場合は年間で300万円など、高額になるケースが多いです。
受験にかかる費用
また、医学部の受験料そのものも、私立は高額です。国公立大学の場合はセンター試験が18,000円、二次試験が17,000円ですが、私立大学の医学部医学科の場合は、一般入試の受験料が6万円ほど必要です(自治医科大の場合は2万円)。
遠方の大学を受験する場合は、交通費や宿泊費も必要になります。私立大学の医学部の場合は、幾つか併願する可能性も考えられますから、入試そのものにも、それなりの金額がかかると覚悟しておきたいですね。
医学部に入るなら志と学力の高さも必須
以上、医学部の費用をまとめました。
- 国公立大学の学費は6年間の総額が350万円くらい
- 私立大学の学費は6年間の総額が2000万円~4000万円くらい
さらに、私立大学は受験料にも6万円など、高い費用が発生すると分かりました。一方で、優秀な学生にはさまざまな金銭的なサポート制度が用意されています。その意味で、医者になるには何よりも志と学力の高さが、必須条件になると言えるのかもしれませんね。
文・坂本正敬
【参考】