脳医学の専門家が教える【子どもの脳の育て方】3歳までは急激な脳の成長期。英語に触れるのは8歳からが有効!

子どもの脳が健やかに成長するには、年齢に合ったかかわり方をしていくことが大切なポイントになります。株式会社 明治では、乳幼児の健全な発育を支える啓発活動の一環として「乳幼児の脳の発達と栄養」をテーマに、2021年10月4日、オンラインセミナーを開催しました。セミナーで「子どもの脳の発達と育児のポイント」について解説した、東北大学加齢医学研究所教授 瀧靖之先生の話を紹介します。

0~3歳は脳の成長期。2歳ごろで脳の重さは生まれときの約3倍にも

子どもの脳重量は出生時は約300gで、生後6ヵ月で約2倍、2歳ごろには約3倍になります。そして4~6歳で成人の脳重量(12001500g)の約95%に達するといわれています。脳の発達は重さだけで測れるものではありませんが、急激に重くなるのは乳幼児期の特徴です。

子どもの脳の育ちと年齢別・育脳のポイント

脳は、部位によって成長のピークを迎える時期が違います。そのため脳の成長を促すには、適切な時期に適切なかかわり方をすることが大切です。脳の成長に合わせた年齢別かかわり方のポイントを紹介します。

0歳ごろ

生後すぐから成長するのが、後頭葉や側頭葉など脳の後ろの部分です。①後頭葉は視覚などにかかわり、②側頭葉は聴覚、言葉(母国語)の習得などにかかわる部位です。また触覚、感覚などにかかわる③頭頂葉(感覚野)も成長します。そのため新生児期からママやパパが抱っこしてスキンシップをとったり、「〇〇ちゃ~ん、いい天気だね」などと目を見て優しく話しかけたりして、視覚、聴覚、母国語への興味を刺激してあげましょう。

1歳ごろ

側頭葉が発達し、母国語をどんどん習得していく時期なので、いろんな種類の絵本を読み聞かせてあげましょう。「DVDなどで、絵本を読み聞かせてもいいの?」と悩むママもいると思いますが、言葉の発達には相手の表情やしぐさを見て覚えていくことも欠かせないので、直接、絵本を読み聞かせてあげるのがベストです。

2~4歳ごろ

ママやパパに「なぜ?」「どうして?」とさまざまな疑問をぶつけてくる時期ですが、これはいろんなことに興味を持ち始めた証し。家庭では、さまざまな種類の図鑑を見せてあげてください。たとえば昆虫の図鑑を見たら、公園でアリやダンゴムシを見つけるなどして、図鑑と外の世界をリンクさせてあげましょう。図鑑で得た知識と現実の世界を結びつけることで、知的好奇心は伸びていきます。とくに大きな公園や広場など、なるべく自然に触れられる場所に行くのがおすすめです。

3~5歳ごろ

体の動きにかかわる頭頂葉(運動野)が成長のピークを迎える時期です。そのため走る、ジャンプする、ボールで遊ぶなど、いろんな運動をさせてあげてください。またこの時期は体を使う運動だけでなく、指先を使うことも大切です。おもちゃのピアノでもいいので、親子で楽器を弾いたりして指先を使う運動を積極的にしましょう。体や指先を使って運動することで、記憶をつかさどる海馬も発達します。

8~10歳ごろ

④前頭葉(言語野)の成長がピークを迎え、英語などの第2言語を学ぶのに適した時期です。この時期は外国語のアニメなどを見たりして、耳で聴いて慣れることに重点をおきましょう。

12歳ごろ

高度な認知機能にかかわる前頭葉(前頭前野)が発達し、思考力や創造性が高まったり、コミュニケーション力が豊かになったりします。これらの脳の成長は、直接、人とかかわることで養われます。過度なSNSの利用は、この時期の脳の成長にとってはマイナスです。

年齢別のかかわり方を見て「うちの子は6歳だから、知的好奇心を伸ばすにはもう遅いの?」などと思ったママもいるかも知れません。しかし、そんなことはありません。脳には可塑性といって変化する能力があります。確かに年齢によって、知的好奇心が伸びやすかったり、英語などが習得しやすかったりする時期はありますが、何歳になっても遅いということはありません。

また乳幼児期は、マネをすることでいろんな能力を伸ばしていきます。そのため昆虫を見つけたり、楽器を弾いたりするのも、子どもだけにさせるのではなく、ママやパパも一緒に楽しんでください。親子で一緒に取り組んだほうが、より脳の成長を促せます。

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脳を育てるために大切な4つのこと

脳を育てるというと、知育玩具を与えたり、早期教育をイメージするママやパパもいるかも知れません。しかし脳を育てる土台作りには、次の4つのことが欠かせません。

1.親子のコミュニケーションを深め、愛着形成を築く

脳を育てるベースとなるのが、乳幼児期に親子のコミュニケ―ションを深め、愛着形成(深い信頼感)を築くことです。愛着形成は、生後すぐから始まります。泣いたらママやパパが抱っこしてあやしたり、おむつが濡れていたら替えて「さっぱりしたね」と声をかけてあげるなど、毎日のお世話や遊びを通して形成されていきます。愛着形成がしっかり築けた子は自己肯定感も高く、成長過程でさまざまなことに挑戦していくとき「やってみよう!」と意欲的に取り組めるようになります。

2.情報のインプットとリアルな体験をセットにする

脳の成長には、情報のインプットとリアルな体験をセットにすることも欠かせません。前述の2~4歳ごろの育脳のポイントでも触れましたが、たとえば動物の図鑑を見て情報をインプットしたら、動物園に行って本物の動物を見たり、うさぎなどの小動物に触れたりすることで知的好奇心は伸びていきます。またことばの発達を促すには、絵本を読み聞かせて情報をインプットするだけでなく、普段から話しかけてあげるリアルな体験が必要です。情報のインプットとリアルな体験をバランスよく行っていきましょう。

3.十分な睡眠をとる

脳を育てるには、十分な睡眠も必要です。睡眠中は、脳内で盛んに記憶の作業が進み、記憶を確かなものにしています。東北大学の研究チームでは、2008年からの4年間、健康な5~18歳・290人の平日の睡眠時間と、記憶をつかさどる海馬の体積を調べました。その結果、睡眠時間が10時間以上の子どもは6時間の子どもより、海馬の体積が約1割も大きいことがわかりました。十分な睡眠は、海馬を育てるための重要な要素です。適切な睡眠時間には個人差がありますが、アメリカ国立睡眠財団では年代別の1日の適正な睡眠時間を次のように発表しています(表参照)。たとえば3歳では適正な睡眠時間は1013時間なので、朝7時に起きるなら夜8時前後には寝かせるのが目安となります。

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. 食事は楽しく。朝食で、甘い菓子パンより和食がおすすめ

子どもの脳が発達するには、多くのエネルギーが必要です。といっても高カロリーの食事をすればいい訳ではありません。たとえば食後の血糖値は急激に上がるよりも、緩やかに上がるほうがエネルギーを効率的に使うことができて、脳の発達には有効です。そのため朝食では、甘い菓子パンより、血糖値を上げにくいごはんがおすすめです。和食中心のメニューのほうが栄養バランスもよく、脳の発達にはいいです。また親子で楽しく会話をしながら食事をすることも、脳にいい刺激を与えます。

記事監修

東北大学 加齢医学研究所 教授

瀧靖之先生

医師、医学博士。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長および加齢医学研究所教授。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。脳の発達と加齢に伴う形態変化などMRI 画像を用いて解析。解析、読影した画像は16 万人に上る。「楽しくコツコツ続ければ脳は何歳でも発達する」と、自らも趣味や運動を続けている。『生涯健康脳』 (ソレイユ出版)、『脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい』(日経 BP)など著書多数。一児の父。

  取材・資料協力/株式会社 明治 取材・構成/麻生珠恵

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