脳を育てるには「正しい睡眠」が必要
子どもの脳は下の図に示した順序で育ち、「からだの脳」が育たないと「おりこうさん脳」や「こころの脳」も育たないため、食欲がない、体調がすぐれない、キレやすくなるといった問題を引き起こしやすくなります。
5歳までは、脳の発達の土台となる「からだの脳」をきちんと育てることが重要で、そのためには「正しい睡眠」が欠かせません。「正しい睡眠」とは、それぞれの年齢で必要な睡眠時間を確保し、日中は元気よく活動して夜になったら眠るという睡眠のリズムができている状態をさします。
子どもの脳をしっかり休ませて発達をうながすには、上のグラフの睡眠時間を確保することが理想的です。今は夜ふかし型の生活になっていても、早起きに切り替える生活を1週間続ければ、夜は自然に眠くなり、睡眠のリズムは修正できます。子どもが「正しい睡眠」をとれるように、生活を見直していきましょう。
脳が育つ順序
0~5歳に育つ「からだの脳」(脳幹、間脳、小脳)
脳の芯にあたる部分。起きる・寝る、食べる、体を動かす、喜怒哀楽や危険を感じ取るといった、生きていくために最低限必要な機能をつかさどります。
10歳以降に育つ「こころの脳」(前頭葉の神経回路)
からだの脳で感じた喜怒哀楽を、おりこうさん脳の知識に基づいて思考・判断する機能をつかさどります。感情のコントロールや論理的思考を可能にします。
1~18歳に育つ「おりこうさん脳」(大脳新皮質)
脳の芯を覆う、しわしわの部分。言葉を獲得する、手指の細かな運動を発達させる、知識をたくわえるといった働きをします。勉強やスポーツの能力の発達に影響します。
できることから始めよう!睡眠を整えるポイント
「正しい睡眠」につながる生活改善のポイントを紹介します。子どもをよく観察し、本人のペースを尊重しながら、取り入れられるところから、取り入れてみましょう。
朝
起きる時刻を一定にする
睡眠のリズムを整えるには、夜早く寝かしつけようとするよりも、朝早く起こすことから始めるのが効果的です。
まずは1週間でよいので、朝日が昇る5~7時ごろの一定の時刻に子どもを起こしましょう。朝になったら目が覚めるというリズムができれば、夜は自然と眠くなります。
保育園や幼稚園に通っている場合は、家を出る1時間半~2時間前には起こすようにすると、食事や排便のために十分な時間をとることができ、気持ちよく1日をスタートできます。
朝日を浴びて朝食をしっかり
1日は24時間なのに対し、人間の体内時計は25時間なので1時間のずれが生じます。しかし、朝日の光を目で感じることで体内時計がリセットされ、このずれを解消することができます。朝起きたらカーテンを開けて日光を入れ、できれば親子でベランダや戸外に出て朝日を浴びましょう。
バランスのよい朝食を用意し、おうちの方がおいしそうに食べる様子を見せると、子どもの食欲を引き出しやすくなります。
「ごほうびタイム」で朝の楽しみをつくる
朝、無理やり起こすことで子どもが不機嫌になるなら、「うちの子はこれがあれば絶対に喜ぶ」ということを朝の時間帯に用意しておきましょう。朝食に好物を出す、好きなテレビ番組を見せる、好きな歌を流すといった「ごほうび」があると、朝起きることが楽しくなるはずです。
また、朝風呂は体温を上げて目覚めをよくする効果があるので、たとえば泡立つタイプの入浴剤を使って泡のお風呂にするなど、お風呂を楽しむのもおすすめです。
昼
室内でも体を動かす遊びを
昼間にたくさん体を動かすと、体だけではなく脳も疲れるため、夜にぐっすり眠れるようになります。午前中には、外遊びや散歩など、太陽の光を浴びながら体を動かす機会をつくれると理想的です。
雨の日など外出が難しい場合でも、スポンジボールなどを使ったり、布団の上でおうちの方の体に乗る遊びをしたりして、室内でできる、体を動かす遊びを取り入れましょう。
お昼寝は15時台までに
夕方までお昼寝をしてしまうと、夜に寝つけない原因に。お昼寝は15時台までで切り上げ、保育園に通っている場合は長くお昼寝をさせないようにお願いしましょう。お昼寝に必要な時間は、5ページの「子どもに必要な睡眠時間」のグラフを目安にしてください。
昼は明るく、夜は暗いのが体にとって自然なリズムなので、お昼寝のときは部屋を真っ暗にする必要はありません。
スマホやタブレットで動画を見せるときは
スマホやタブレットを見せる場合は、朝から昼にかけての時間帯に、さまざまな活動に取り組むうちのひとつとして取り入れるとよいでしょう。
ただし、子どもに持たせたままにせず、使う時間をおうちの方がしっかりコントロールすることが大切です。「時計の長い針がここに来たら終わりにするよ」「これを見たらおしまいだよ」と、決まった時刻になったら終わりにすることを前もって約束し、その約束を必ず守らせることを習慣にしましょう。
夕方以降
入浴はなるべく食事の前に
入浴はなるべく夕食の前に済ませ、食後はゆったりと過ごしましょう。そうすると、寝るころには体温が下がり、体をリラックスさせる副交感神経がよく働くようになるので自然と眠くなります。
寝る直前にお風呂に入ると、体温が上がり、体を活動的にする交感神経がよく働くようになるため、寝つきにくくなってしまうことも。食事の直後の入浴も消化に悪いため、控えましょう。
夕食は手間をかけず軽めのものを
夕食は寝る2時間前までを目安に、17~18時ごろにとるのが理想的です。おうちの方が夕食の準備に時間をかけすぎると、寝かしつけも遅くなってしまうため、夕食は小さめのおにぎりとスープかみそ汁、リゾット、雑炊といった軽めのメニューでさっとすませましょう。
作り置きのおかずを温めるだけにしておくのもおすすめです。油分の多いものや大量の肉類など、消化しにくいものはなるべく控えてください。
寝る前はテレビやスマホを見せない
テレビやスマホ、パソコン、タブレット、ゲーム機などが発する強い光は、自然な眠りを誘うホルモンであるメラトニンの分泌量を減らしてしまいます。寝る1時間前からは、これらの使用は控えましょう。
夕食後は部屋の照明を少し暗くするなど、目の中に入ってくる光の量を減らすことも寝つきをよくするために効果的です。街灯などの光が入ってくる場合は、遮光カーテンを活用するのもよいでしょう。
寝かしつけ~夜中
毎日決まった「入眠儀式」を
歯みがきをしてパジャマに着替える、親子で絵本を読む、お気に入りのタオルや毛布を握る、ぬいぐるみに「おやすみ」を言うなど、毎日寝る前にやることをルーティン化すると、子どもは「これをやったら寝る時間なんだ」という意識を持てるようになります。
ただし、激しい運動、スマホやゲーム、音楽を大音量で聞くことなど、心身に強い刺激を与えることは入眠儀式としては適さないので注意を。
1歳をすぎたら夜中の授乳は卒業
夜中にぐずるたびに授乳をしていると、子どもを何度も起こすことになり、眠りが浅くなって何度もぐずるという悪循環になりがちです。
1歳をすぎたら夜中の授乳はやめ、ぐずったときは麦茶や白湯を飲ませたり、体をトントンと優しくたたいたりして寝かしつけましょう。夜中の授乳をやめると朝起きたときにお腹がすいているため、朝食をしっかり食べられるようになり、生活リズムが整いやすくなります。
おうちの方がリラックスして
おうちの方が「早く寝かしつけなければ!」と緊張していると、筋肉も緊張して硬くなります。そのようなカチカチの体で抱っこされても子どもはリラックスできません。
「ここは安全だから安心しておやすみ」というメッセージを子どもに伝えるには、まずはおうちの方自身がリラックスすることが大切です。寝かしつけの後にやるべきことがあると「早く!」と思いがちなので、翌日に回せる家事は後回しにして、おうちの方も子どもと一緒に寝てしまうのも一つの方法です。
記事監修

小児科専門医、医学博士。文教大学教育学部教授。不登校・引きこもり・発達障害等の親子・当事者支援事業である「子育て科学アクシス」の代表も務める。
『ベビーブック』2021年3月号別冊 イラスト/たはらともみ 文/安永 美穂 構成/童夢