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コロナ禍で幼稚園&療育が休みに!奇声を発するようになった息子に戸惑い、耳栓をして過ごす日々
2020年の春、息子の年中さん時代は、突然終わりを告げました。
新型コロナウイルスの流行による第1回緊急事態宣言が発令され、幼稚園も療育も休園になったのです。息子は自閉症と知的障害があり、「いつもと違う」ことが極端に苦手です。それが、「いつもと違う」どころか「緊急事態」です。激変した生活は、息子の心に大きなストレスを与えました。
幼稚園も療育も大好きだった息子は、突然それらが無くなったことにとても戸惑ったと思います。知的障害があって言葉を話せない息子からは、当時の心境を聞くことはできません。でも、彼の行動は言葉よりも明白に、戸惑いやショックを表していました。
私にとって、最も辛かった息子の問題行動は奇声です。息子はちょっとしたことで大きな奇声をあげ、感情を爆発させました。狭い家の中で響き渡る5歳児の声は、赤ちゃんの泣き声とはレベルが違います。
しかも「言葉」ではなく意味を持たない「声」なので、彼が具体的に何に苦しんでいるのかさえ、明確に読み取ることはできません。そして、もの投げも頻発しました。手元にあるものを思い切り投げるので、とても危ないです。
更には唾を垂らして遊んだり、唾や淡をソファに塗りつける問題行動も頻発しました。このような状況が連日続くと、私の精神状態は悪化の一途を辿ります。
突然耳から入ってくる息子の声は、刃物のように脳天を突き破り、私の思考の全てを奪っていくように感じました。耳栓をすると、息子の声は聞こえるけれど若干ボリュームが落ちるので、息子との間に1枚バリアを張ったような感覚になれました。
現実の「息子の成長のペース」を目の当たりにして
それがわずかですが救いになったので、私は限界がきそうになると耳栓をして過ごしました。ただ、耳栓をしても鮮明な奇声を聞きながら、私は息子の就学についても考えていたのです。でもこの状況では、どうしても息子の成長を期待する気持ちにはなれませんでした。
息子の現状について、コロナ禍による環境の変化で起きた問題行動だけならば、「今は特殊な状況だから」と思えたかもしれません。しかし、それがなくても息子は、年中さんの1年間で、私が期待したほどの発達段階には到達できていませんでした。もちろん、息子は着実に成長していました。入園前と比べるとできることは増え、お友だちとも仲良く過ごせるようになりました。
でも、トイレの自立と発語は、まだまだ兆しが見えない状態です。あと1年で、自分の身の周りのことを全て自分でやり、トイレに行き、教室で集団で授業を受けて勉強する所まで持っていけるのかというと、とても自信がありませんでした。繰り返しますが、息子は着実に成長しています。
でも、周りのお友だちの成長速度とは、明らかに違うのです。一足飛びに追いつけるわけではなく、これが現実の「息子の成長のペース」なのだと、私は薄々感じていました。
ショック!就学先選びの予定がすべて白紙に。途方にくれるも、SNSが突破口に
「就学相談」の具体的な内容とは
ここで、何らかの発達特性があって就学に不安を抱える子どもたちの、就学先決定までの流れについて、具体的なお話をさせていただきます。
発達に特性がある子どもの就学先を考える時、避けては通れないのが「就学相談」です。むしろ、就学相談が9割と言っても過言ではありません。
就学相談は、障害の状態や教育的ニーズ、教育、医学、心理学などの専門的な意見、学校や地域の状況、そして本人や保護者の意見などの総合的な観点から、その子にとって最適な就学先を検討する機会です。多くの場合、自治体の教育委員会が実施しています。地域によって差はあるかもしれませんが、おおむね以下のことが盛り込まれていると思います。
就学相談の主な内容
・教育委員会との面談
・発達検査
・医師の診察
・子どもの行動観察
就学相談では、最終的に教育委員会から、望ましい就学先の判定をもらいます。その判定に親も同意だったらそこで就学先が決まりますが、意見が食い違うと話し合いが続く、という流れです。
通常であれば、学校見学や体験入学などをしながら、受入れ先の学校側とも相談し、本当にその子にとって良い就学先を探っていきます。人によっては何度も面談を重ね、時間がかかることもあるでしょう。それでも、最終的にはみんなが納得できる選択ができるように進めてくれます。
ところが、2022年、コロナ禍の就学相談は従来通りにはいきませんでした。私が住む地域では、就学相談は簡略化され、面談は最初の1回だけ、判定は電話で伝えられることになりました。学校見学も例年のようには行われず、予約して個別で見学するスタイルの学校もありました。
体験入学は中止でしたし、例年、就学に関する情報を提供してくれていた親向けの勉強会やセミナーも、相次いで中止や延期になりました。そもそも、療育も休園状態だったので、先生や他の親御さんと会うことができません。息子が年中さんの時から始めた就学先選びでしたが、「いよいよ本格始動!」というタイミングで出鼻を挫かれた形になりました。
幸いにも私は、息子が年中さんのうちに、通える範囲の支援級のある学校と支援学校、あわせて5校の学校見学に行っていました。コロナ禍なんて想像もできなかったけれど、早く動いていたことが、思わぬ助けになりました。
同じ境遇のママたちとSNSでつながって、就学の情報収集ができた!
でも、ただ見学をしただけでは、いまいち就学先についてリアルな感覚がつかめません。そんな中、身近なママ友とは顔を合わせられなくても、SNSを通じて多くの、発達に特性を持つ子どもを育てるママたちと繋がることができたのです。
普通級、支援級、支援学校、それぞれの進学先を選んだ先輩ママと連絡をとり、当時の経験をオンライン通話やメッセージのやりとりで聞くことができました。そして、途中で支援級から支援学校に転入させたという、なかなか出会えない経験を持つママとも出会えました。就学に関することは、地域差が大きいです。それでも、既にこの問題を乗り越えて小学校への入学を果たした先輩ママたちのお話は、とても参考になりました。
発達障害の子育てをするママたちに就学情報を発信すべく、電子書籍を刊行!
「私が知りたかったということは、同じような状況の親御さんたちもきっと知りたいはずだ」
そう思った私は、思い切って本を作ることにしました。先輩ママたちの経験談、私が調べた就学先選びに関する情報、自分が学校見学に行って思ったこと、それらを通して感じたことなどを、自分で電子書籍にまとめて出版することにしたのです。
本を書くことで、情報が整理され息子の状況を客観的に考えられるように
誰かに何かを伝えるためには、自分がしっかりと理解していなければなりません。おかげで私は、この本を書き終える頃には、息子の就学に関する不安が驚くほどクリアになっていました。
書籍を作る中で、異なる特性や程度の障害を持つ子どもたちの、就学前と就学後の姿、そして就学先を選んだ決め手を知りました。色々なパターンの経験談を聞く中で、私は「息子だったらどうだろう?」と考え、息子のことをようやく客観的に判断できるようになった気がします。そして、「息子には支援学校が妥当なのだろう」という結論に、自然と行きついたのです。
子どもの就学先、最終的に決めるのは教育委員会ではなく親の意思
息子の就学先は、今の状態から考えて支援学校が妥当。そう客観的に捉えられた私ですが、1つ、どうしてもひっかかっていることがありました。
それは、先輩ママからのお話でも、就学に関する情報サイトや本でもよく目にした、「子どもの就学先を最終的に決めるのは、教育委員会ではなくて親」という言葉でした。
就学先は、単純に障害の種類や程度だけで線引きされるほど、単純なものではありません。例えば息子は、障害の程度で言えば支援学校が妥当かもしれません。でも、周りに影響されやすくて従順な性格の息子は、幼稚園生活で、周りの子どもたちの動きを見て自分も馴染もうとする様子が多々見られました。
もしかしたら息子は、定型発達の子どもたちと多く触れ合える環境の方が成長できるのではないか、という思いもまだありました。これまで特にトラブルが起きたこともなく、幼稚園生活を満喫していた息子を考えても、地域の小学校への未練はなかなか断ち切れませんでした。
そうして、支援学校が良いと思いながらも踏ん切りもつかずに悩んでいた私は、今度は「息子のことを良く知っている先生たち」に相談することにしたのです。
次回に続きます。