TVドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」(19/NTV)や、映画『彼女が好きなものは』(21)、現在放送中の話題のドラマ「17才の帝国」(22/NHK)など、その独特な存在感と演技力で今最も注目を浴びる俳優の神尾楓珠さん。今作では、千葉県船橋市立船橋高校に代々伝わる応援曲「市船 soul」を吹奏楽部3年生の時に作曲し、最後まで夢に向かって全力で突き進んだ浅野大義さんを熱演しています。
実話の映画化に本格的に携わるのは今作が初となり、「大きなプレッシャーを感じた」という神尾さんに、今作にかけた想いや学生時代の青春の思い出などをうかがいました。
応援曲「市船 soul」は、“人を想う気持ち”から作られた曲
甲子園出場をかけた球児たちの背中を押すチャンステーマとして、船橋高校で代々受け継がれている応援曲「市船 soul」。SNS上でも話題となった魂を鼓舞するこの“神応援曲”を生み出したのは、当時まだ吹奏楽部の3年生だった浅野大義さん。物語では、大切な仲間や家族、そして恋人を想いながらも人生を音楽に捧げ、度重なる癌と闘いながら、わずか20年の人生を精一杯駆け抜けた浅野さんの姿を、神尾さんが圧倒的リアリティでみずみずしく演じています。
映画では大義の恩師である吹奏楽部顧問の高橋健一先生役を佐藤浩市さん、母親役を尾野真千子さん、大義の恋人・夏月役を福本莉子さんが演じるなど、多くの方たちの想いが詰まった本作に豪華俳優陣が集結しています。
―最初、実話ということを知らずに脚本を読まれたと聞きましたが、初めて脚本を読まれた時はどんな印象を持たれましたか?
すごく“青春”を感じましたし、読み終わった後にとても前向きになれるストーリーだなと思いました。実話を本格的にやらせていただくのは今回が初めてだったのですが、(演じた主人公の大義は)年代もそんなに離れていないので、「実話」と聞いてものすごく身近に感じましたし、僕自身、船橋には親戚がいたりもして“市船”はもともと知っていたので、他人事とは思えないような感覚になりましたね。
―原作者の中井由梨子さんは、5年に渡ってこの奇跡の実話を取材し原作を書かれています。実話ということで、プレッシャーもあったのでは?
ものすごくありました。役作りについては、秋山監督や原作と脚本を手掛けられた中井さんともお話をしましたが、やはり自分の感性だけではなく、実際の周りの方たちの“浅野大義像”みたいなものがあるので、そこはきちんとブラさずにやらなければならないなと思い、しっかりと向き合って演じました。
―運動部員たちや吹奏楽部の仲間たちを勇気づけ、病にかかった大義自身にも生きる力を与えた「市船 soul」ですが、当時高校生だった浅野さんが作っていたというのはすごいことですよね!
もう「天才なのかな」と思っていたんですけど、きちんと努力をされている方だったのでそれは意外でしたね。本当に“人を想う気持ち”から作られた曲だったので、純粋にすごいなと思います。
―劇中では大旗をふったり、吹部でトロンボーンを演奏したりと演技以外にも大変な部分が多くあったのではないでしょうか。
特にピアノは難しかったですね。トロンボーンももちろん大変だったんですけど、ピアノはもう指が全然動かなくて(笑)。しかも1曲を1カットで撮影するという話を聞いて、「いやムリだな」と思ったんですけど、その大義が弾くピアノの演奏を聞いて母親役の尾野真千子さんも涙を流すというシーンだったので、絶対に失敗できなくて…かなりなプレッシャーでした。結果、奇跡的に1テイクでできたんですけど。
―ピアノはどのくらい練習されたんですか?
ピアノもトロンボーンと並行して練習していたんですけど、トロンボーンの方が時間を長くとっていたのでピアノはあまり練習する時間がなく、指遣いだけ教わって基本的には家で自分で練習するしかなかったので、本当に難しかったです。逆に、外で大旗をふるのは結構すんなりできました。もともとサッカーをやっていたので、そういった運動系の方がやっぱり得意ですね!
部活仲間とのキラキラした青春が眩しい!
―映画では、固い絆で結ばれた仲間たちとの熱い青春がキラキラと輝いていました。とてもいい空気感でしたね。
航基(秋田豪役の前田航基さん)は1回共演していますし、時英(田崎洋一役の若林時英さん)も共演は3回目くらいでプライベートでもよく遊んでいたので、空気感はすでにできていました。晶哉(親友の佐伯斗真役の佐野晶哉さん<Aぇ! group/関西ジャニーズ Jr.>)だけ今回が初めてだったんですけど、僕らも積極的に話しかけてすぐに輪みたいなのものができていたので、最初から良いチームワークができあがっていて、そのまま現場で出すみたいな感じでした。
―神尾さん自身、同世代の方たちとの共演が多いと思いますが、皆さんから受ける影響というのはありますか?
もちろんあります。刺激もありますし、特に航基も時英もアドリブなどをするタイプなので、撮影でも「すごいな」と思って見ていましたね。僕も役柄によっては入れたりするんですけど、この作品ではあまり入れていなかったので、今回はもう時英と航基に任せていました。
―大先輩である母親役の尾野真千子さんや、吹奏楽部顧問の高橋先生役の佐藤浩市さんとの共演シーンも非常に印象的でした。
とても学ぶ部分が多かったです。高橋先生のいる音楽事務室での初めてのシーンで、佐藤さんは撮影前にものすごく注意深くすべての物、配置などを事前に確認されていました。「ここであれができて…」など色々とシミュレーションされているのを見て、そこまで考えられているんだなと勉強になりました。また、尾野さんはとっても気さくで現場をすごく明るくしてくださる方なんですけど、いざ本番が始まると一気に感情が出てくるので、一体どういう仕組みなんだろうと(笑)。本当に一瞬で変わるので「すごいな」と感じましたね。
―劇中では、「ザ・青春」というような学生時代だからこその眩しいシーンもたくさん刻まれています。
みんなで屋上で叫びながら走るシーンは、めちゃくちゃ青春だなと思いましたね!あんなことは、なかなかないですよね(笑)。僕自身あのような経験はないので気持ちよかったですし、風の抵抗が強くて旗がすごく重かったんですけど、それをみんなで支えながら走ってくれてすごく絆を感じるシーンになりました。
―命ある一日一日の大切さ、そして生きる希望を感じさせてくれる作品ですが、神尾さんが印象的だったセリフはありますか?
大義が一度病院を退院した後に無理をして、恋人の夏月に「それ以上やったら倒れるからやめなさい!」と言われた時に、「命よりも大切なものが俺にはあるんだ!」と返したセリフは、そう思えることがすごく羨ましいなと思いました。命よりも大切なものがあるって、すごいなって…。僕にはそれがないので、その言葉はすごく印象に残っています。
神尾楓珠さんの、学生時代の将来の夢は…?
―神尾さんご自身は、学生時代に夢中になっていたことはありますか?
僕はすごくサッカーが好きで、最終的に高校1年生で挫折して辞めてしまったんですけど、一応強い高校には入っていて。もともとは「サッカーと野球どっちがいい?」と保育園の時に聞かれて、周りに野球をやっている子が多かったので「野球」と言ったんですけど、サッカーチームしか近くに見当たらなかったらしくサッカーになったんです。でもそこから始めたら面白くて。練習はきつかったんですけど、同じサッカーチームの人たちがすごく楽しそうにやっているのを見て、それに負けたくないというか「俺が一番楽しんでる!」という気持ちでやっていたら、どんどん楽しくなっていったんです。
―学生時代で印象に残っている想い出などはありますか?
この作品では全然出てこないですが、文化祭のようなイベントものがすごく好きで、みんなで同じものを作ろうとしているところとか、そういう瞬間はよく覚えています。文化祭では実際に「お化け屋敷」っぽいことをやったりしたんですけど、僕自身、みんながやらないようなことを結構やるタイプなので、地味な作業をやっていました。サッカーでも中学からは縁の下の力持ち的なサイドバックになって、そっちの方が性にあっていましたし、好きです。ゴールよりもアシストの方が好きなタイプ。
―学生時代の、将来の夢はありましたか?
中学生くらいまではサッカー選手になりたいと言っていましたけど、途中で「ムリだな」と思ったので…。僕はもう「普通の暮らしができればいい」みたいなことをずっと思っていて、普通に働いて週末家族で遊びに行ったりできればいいなと思っていたので、「なんでこの仕事始めたのかな」って…(笑)。今は思っていた未来と全然違いますね(笑)。でも学生時代の友達から「最近よく見るよ」って言われるのは、見てくれているんだなと思って嬉しいです。
―今後やってみたいジャンルや、理想とする役者像はありますか?
しっかりやっていたら、ちゃんといいところに辿り着くんじゃないかなという感覚なので、ここに辿り着くまでにこれをやろうというのは考えていないです。役者としては、需要がなくならないようにしたいなとは思いますし、いろんな役を幅広くできる役者がやっぱりいいなと思うので、それを目指してこれからも色んなことに挑戦していきたいです!
『20歳のソウル』は、5月27日(金) より全国公開中
監督:秋山 純
キャスト:神尾楓珠 尾野真千子 福本莉子 佐野晶哉 前田航基 若林時英 佐藤美咲 宮部のぞみ 松大航也 塙宣之(ナイツ) 菅原永二 池田朱那 石崎なつみ 平泉成 石黒賢(友情出演) 高橋克典/佐藤浩市
脚本:中井由梨子
配給:日活
公式HP:https://20soul-movie.jp/
©2022「20歳のソウル」製作委員会
スタイリスト:杉本学子(WHITNEY)
ヘアメイク:菅井彩佳
取材・文/富塚沙羅 撮影/五十嵐美弥