不登校の子もそうじゃない子も自分らしく。映画『ゆめパのじかん』から学ぶ子どもたちの生き方

神奈川県川崎市にある、子どもたちの自由な居場所「川崎子ども夢パーク」、通称「ゆめパ」。その営みと子どもたちが過ごす様子を映し出すドキュメンタリー映画『ゆめパのじかん』が好評上映中です。
ここを長年運営し、現在は夢パーク内のフリースペースたまりばの理事長である西野博之さんは、長年不登校の子どもやパパママと歩み、子どもからもパパママからもあつい信頼を得ています。上映を記念して西野さんの盟友でもある保育暦46年の柴田愛子さん、そして『ゆめパのじかん』の監督である重江良樹さんと西野さんが鼎談。そこで語られたお子さんの不登校に関する話題、そして西野さんがHugKumの特別取材を受けて語ってくれた内容を、ぜひ聴いてみてください。深い気づきがありそうです。

不登校の子たちの居場所「たまりば」をつくったのは36年前

重江 西野さんと柴田さんは、古くからお知り合いなのですよね。 

柴田 すごく昔からお知り合いです。私は夢パークとほどよい距離にある地域で、2歳から就学前の子の保育の場を運営していまして、たまにうちの子どもたちとゆめパに遊びに行ったり、「りんごの木」を卒業して学校に行かないことになった子が、「たまりば」に行かせてもらったりしています。 

西野 柴田さんとすごく昔からお友達の西野といいます()。 学校に行きづらくなった子たちについて、大人たちが勝手に「不登校」と名付けた子どもたちの居場所を、川崎の多摩川(タマリバー)のほとりにつくったんですね。31年前のことです。それが「たまりば」です。柴田さんとは、その頃からの知り合いですね。

 

その後、川崎市で「子どもの権利に関する条例」をつくることになったときに、調査研究員会の世話人の一人として策定に関わり、条例制定後はその具現化をめざした子ども夢パークづくりに携わって、今はその運営を市から任されています。約10,000㎡の広い敷地を使って思い切り遊び、やってみたいことに挑戦できる環境や無料で通える公設民営のフリースペースえんの開設を実現しました。

 通ってくる子どもたち、ひとりひとりに自由な時間の流れがある

重江 僕はそんな子どもたちの日常を通して、ゆめパを表現したかった。西野さんが「ここは異年齢異世代カオス」っておっしゃいましたが、いろんな子が集う居場所ですね。

 

西野 そう、そしてみんな自分がやりたいことをやっています。ありんこ見たり、流れる雲を見たり。

 

柴田 ゆめパには、ひとりひとりに流れる時間があるんだよね。映画にも出てくる「ゆめ横丁」というイベントがあって、子どもたちがグループでお店を出店するんだけど。「一緒にやろう」って始めたのに片方がいなくなるとか、いろいろあるもんね。

 

西野 昨日まで仲良くやっていたのに、当日けんかして店出さないとかある()。でも、そういう失敗ひっくるめて「ゆめ横丁」なんだよね。大人たちが成功させる物語じゃない。

 大人のおせっかいは子どもの迷惑かもしれない!?

柴田 大人はおせっかいだからチームに分けちゃってさ、「目標これだから」とか言うのが普通だよね、それじゃ、子どもの力をつぶしちゃう。 

 

西野 そう。この映画は「大人がよかれと思ったものが子どもは迷惑かもしれない」っていうことを静かに伝えています。

それにしても、不登校の子どもは増え続けて、ついに19万6000人を超えたよね(2020年度・文部科学省調査)

 

柴田 私は保育の場で小さい子を毎日見ていると、赤ちゃんって自分に満足していると思うのよ。動けないくせに、しゃべれないくせに。きげんがいいときは黙ってるし、おなかがすいたり眠かったりしたら泣くわけで。そうしたら周囲が反応してくれて、願いが叶うでしょ。幼児になって3歳だったらもう、やりたい放題よ。

小さい頃はあんなに自由に生きてきたのに、小学生になると、どうして夢パークに行かないと自分を取り戻せないの? 夢パークをあちこちにどんどん作ればいいと思いません?

 学校も夢パークも。どこに行ってどう学んでもいい

西野 学校教育は公教育の役割があるからね。それはそれで大切です。

一方、夢パークは社会教育だからね。立ち位置が違います。でも、少し前までは学習指導要領にのっとった一条校に行かなきゃっていう空気だったけれど、今はそうでもないでしょ。教育機会確保法という法律ができて、文部科学省は、不登校の子を「学校に登校させる」ことだけを目標にしないで、本人に合ったやり方で学習することを、教育委員会や学校が支援すべき、と通知している。いつからでもどこからでも学べるじゃん、ということです。

ゆめパは障害があってもなくても自然のなかで子どもが学び育ちながら異年齢がいっしょになって好きに活動し、動きが多い子は走り回って。学校は「手はひざの上、お口チャック。しゃべらない、動いちゃダメ。今日は45分授業が6時間あります」と小1からやっているけれど。

 

重江 多様性、ですよね。

 

柴田 保育も学校も多様化していると思うんですね。たとえばこういうのはどうかしら、従来の学校と夢パークみたいな学校と選べるのよ、どっちいく?って。

 

西野 愛子さん言っていることはおもしろいけど、少数派だよ。「学校くらいいってくれないと困るわよ」っていう大人がぜんぜん減っていないわけですよね。

 動物は好きだけど趣味に。将来は投資家になる!?

柴田 子どもも、将来のことを聴かれると、「動物は好きだけど、趣味にしておく」と。映画の中で語ってましたよね。

 

西野 そうそう、その子、「やっぱり(将来は)投資家かな」って()

 

柴田重江 あれは、衝撃でしたね。

 

西野 本当に好きなことは趣味にしておかないと、っていうくらい、生きることに対して切実。子どもは現実を見て、親の顔を見て、先生の顔を見て悩んでいるよね……。

 生きているだけですごい。子どもはみんなで育て合おう

柴田 ひとつは夢パークをいっぱいつくるっていう方向性があるじゃない。2つめは学校を変える。3つめは制度を変えるってあるじゃない。どうしたら変わる?

 

重江 でも、年の半分くらい、自治体や教育の専門家などが、ゆめパには視察に来るんでしょう?

 

西野 そう。「いいですね、ここは」って。でもって、つくらないんだよ()

 

重江 箱としてのゆめパみたいな施設はつくれなくても、エッセンスを持って帰ってくれたらいいですよね。では、エッセンスとはどういうことでしょうか。

 

西野 シンプルなことだと思っているのね、僕は「生きてるだけですごいんだ」しか言っていないんだから、30年間。うちのたまりばの職員は、本気でそれを思えるかが採用の基準です。親ができることといえば、メシは食えているか、ちゃんと寝ているか、うんちが出ているかを見るくらいしかないんだから。気持ち良さそうに寝てるわ、食べられてるわ、ちゃんとうんちも出てるみたいだ、いいじゃん今日も生きてるって。 

生まれてきてくれた命を社会で、このまちで、育て合おう。メンタルな疾患で子どもの面倒見られないお母さんやお父さん、いっぱいいるじゃない。そういうパパママを責めちゃだめだよね。親が全部育てないといけないみたいなこと言っていないで、みんなで育て合おう、そして子どもをおもしろがろう。時間を決めずに「子どものやりたいこと」をじっとみていよう。必要なことは、シンプルなことだと思いますよ。

我が子が不登校になったら?西野博之さんからのメッセージ

西野博之さんには、特別にHugKumの読者のみなさんに不登校についてメッセージをいただきました! パパやママがおおらかに、他人の尺度を気にしないで子どもを見ることの重要さを伝えてくれます。

「うちの子が学校に行かなくなったらどうしよう」と心配する大人は多いけれど、学校に行くか行かないかが問題じゃないんだよ。

僕は以前は早稲田大学で教鞭をとり、現在は神奈川大学で教えていますが、ここまで学校に通い続けて、大学生になってからひきこもって外に出づらくなっている人も少なくありません。社会的にうらやむような学校歴を手に入れたとしても、それって人生とか子育ての成功とは限らない。なにが正解かは最後までわかりません。

その子が長い人生の終末を迎えたときに、「生まれてきてよかった」と棺におさまればいい。社会からみて、「ふつう」とか「あたりまえ」とか「これくらいの中高大学にいってほしい」とか、だれが決めたかわからない評価ものさしで子どもをはかるのはやめようよ。

大人は子どもの将来が不安で、つまづかないように、よかれと思ってアドバイスしたい、という気持ちはわかります。でも、そのアドバイスの声で、大人の過剰なかかわりで、子どもたちの自尊感情が削られていくこともあるのだということに、気づいてほしいな、と思います。

学校が安全で安心で楽しく学べるなら学校に行きたいんだよ。出会ってきた9割以上の子がそう言う。なのにその子が学校に行けないんだとしたら、学校に行くようにその子を変えようとするのではなくて、その子が学ぶ環境が本人に合っているかよく考えて欲しい。

「めんどくさいことは起こさない、長いものに巻かれたほうがラクだよ」って、多数にあわせてしまうことってあるでしょう? けれど最後につけは回ってくる。だから、僕らの現場は常にめんどくさいことを手放さない。

今めんどくさい、世間に合わせちゃおうと思っていることを、「いやいや、でもこれ大事だよね、ちょっと立ち止まろう」と、気になり方やこだわり方を大事にしてみる。それは遠回りに見えたり生きづらく見えたりするけれど、その後に「私、こだわって生きてきたよね、不器用だよねぇ」と自分が納得できればいい。他者からよかれと思ってかけられる無難なアドバイス、「これくらいしておけばいいのよ」っていうその声に惑わされて器用に生きることを、ご自身にも、子どもに強いないようにしてほしいなぁ。

 

僕らは、生きづらさを抱える子どもたちと毎日一緒にいるわけだけれど、成長に大事なのは、パパママから「あなたがいてくれて幸せ、ありがとう」とシンプルに言われることなんじゃないかな。これが伝えられたら、親から存在そのものを肯定してもらえたら、お子さんは絶対大丈夫。なにができるか=to doではなくて、そこにいる=to beで子どもをとらえよう。存在そのものを認められて喜んでくれる人がそばにいるっていうだけで、子どもは元気が出ます。

西野博之(にしの・ひろゆき)さん

1986年より不登校児童・生徒や高校中退した若者の居場所づくりにかかわる。

1991年、川崎市高津区にフリースペースたまりばを開設。 不登校児童・生徒やひきこもり傾向にある若者たち、さまざまな障がいのあるひとたちとともに地域で育ちあう場を続けている。2003年7月にオープンした川崎市子ども夢パーク内に、川崎市の委託により公設民営の不登校児童・生徒の居場所「フリースペースえん」を開設、代表を務める。2006年4月より川崎市子ども夢パークの所長に就任。2021年から総合アドバイザー。神奈川大学非常勤講師。

 

柴田愛子(しばた・あいこ)さん

りんごの木子どもクラブ代表/絵本作家/保育者。雑誌への寄稿、講演のほか、Eテレ「すくすく子育て」、NHKラジオ「みんなの子育て深夜便」の出演など子どもに関わるトータルな仕事で活躍中。

 

重江良樹(しげえ・よしき)さん

『ゆめパのじかん』監督。大阪府出身。大阪市西成区・釜ヶ崎を拠点に映画やウェブにてドキュメンタリー作品を発表するほか幅広く映像制作を行う。子ども、若者、碑石労働、福祉などが主なテーマ。

 

『ゆめパのじかん』は7/9(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開中

配給:ノンデライコ

監督:重江良樹

©️ガーラフィルム/ノンデライコ

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取材・文/三輪 泉

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