さまざまな見どころがあるなか、毒にまつわる展示をより深掘りするきっかけとなるクイズを出題しているのが、伊沢拓司さん率いるQuizKnock。特別展の入口近くに置いてあるクイズの出題用紙を持って、クイズを解きながら展示をまわることで、子どもも大人も楽しく知識を深めることができる仕掛けです。
特別展「毒」のオフィシャルサポーターでもある伊沢拓司さんに、特別展「毒」の魅力や楽しみ方について伺いました。
人類と毒の密接なつながりから歴史が感じられるこだわりの展示
――特別展「毒」、大盛況ですよね。伊沢さんも何度かご覧になられたそうですが、特に印象的だった展示はありますか?
伊沢 全体的にすごく幅広いですよね。特に魅力的なのは、「毒々しい生き物の展示」で終わっていないところです。人類と毒との付き合い方や、日常に潜む毒……誰も毒だと思っていないようなものが実は毒の要素も持っているというような、毒にまつわる様々な視点が揃ってるところに深みを感じますね。
一方で目を引く展示もたくさんあって、毒きのことそうじゃないきのこを並べて「すごく似ているな」と思わされたり、今回のためだけに作られた3Dモデルで毒ガエルの特徴的な頭骨が作ってあったりなど、見せ方の工夫というのが各展示でされていて、どこにも気の抜けた展示がないところも非常に素晴らしいと思います。
――すごく濃密ですよね。
伊沢 本当にちゃんと見て回ると3時間くらいはかかるんじゃないかなと思います。来場された方のSNSを見ていたら、2時間3時間かかったという方はたくさんおられました。
――意外な発見や新しい学びはありましたか?
伊沢 たくさんありましたね。僕、どのインタビューでも面白かったポイントで違うところを挙げてしまっているんですけど(笑)、それだけ見るたびに毎回面白いと思っているテーマが変わります。
序盤だと、バルカン半島の農家の間で流行していた「バルカン腎症」の展示ですかね。小麦を食べていたはずが、バルカン半島の麦畑のそばにある植物の種が小麦に混ざっていて、腎臓の病気になってしまったという。後半の展示を見てからまたこの前半の展示に戻ると、「なるほど、利用の方法を間違えるとそういうことになるし、逆に言えば人は本当に毒と密接なところで暮らしてきたんだな」と思うわけです。
人類と毒との密接な繋がりから歴史を感じられたので、すごく面白いなと思いました
――お子さん連れの方に特に見てほしい展示はありますか。
伊沢 序盤の展示は、こんな生き物が毒を持っていて危ないんだというのが非常にわかりやすいかなと思います。まず入り口の巨大な模型の時点で相当興味を持っていかれると思うので(笑)。骨格や実物が飾ってあったりとか、各コーナーでより伝わりやすい見せ方というのが工夫されていて、どの展示も子どもまで含めていろいろな方に伝わりやすい形になっているので、あまり構えないで来てもらっても十分楽しめるかなと思います。
さらに、そういったわかりやすい導入があった先に、メッセージ性のある展示もたくさんあるので、親御さんがわかりやすく翻訳してあげたり、僕たちの作ったクイズを活用してもらったりして、興味を継続させてもらうのがいいのかなと思います。
今回キャラクターコラボとして館内映像で「鷹の爪団」も出てきますし、入りやすい工夫というのは随所にあると思いますね。
クイズをきっかけに展示の細かいところまで楽しんで
――QuizKnockさんが制作されたクイズもそのきっかけになりそうです。どう作られたのでしょうか。
伊沢 クイズは今回あくまで脇役なので、僕たちとしてはメインの展示を邪魔しないということを意識しました。毒について学ぶきっかけとして使ってほしいというのが願いですので、クイズをきっかけに展示の説明文を読んでもらうような形を目指しています。なので、答えはほとんどの場合、各展示の説明のところに書いてあります。
もちろん、目にとまるようなものを見ただけで解けるような問題もありますし、そういう楽しみ方でも構わないんですが、ちょっと一歩入ってみて細かい説明を読んでみると、意外と面白いことが書いてあるんだなと気づけるはずです。そうすると学びも深まるし、子どもたちが次回こうした博物館、美術館、展覧会へ行ったときにも、ちょっと横の説明も読んでみようかなという習慣ができると思うんですよね。
“展覧会を見るための作法へのいざない”みたいなところは、クイズの中で意識したポイントかなと思います。
小学校低学年くらいの子どもの場合、展覧会に行くとまず派手なところに惹かれてワーッと見に行って、細かい説明までは見ていないことが起こり得ますよね。「あれがすごかった」とかは覚えているけど、細かいところは覚えていないという。もちろん、展示のインパクトだけで見ていただいたって全然いいんですけれども、そのさらに先というか、また別のところでの楽しみ方の誘導として使っていただけると、とても嬉しいなと思っています。
――クイズは親子で楽しめそうです。
伊沢 そうですね。大人が解くのも難しいクイズもあると思います。大人がクイズに挑戦する場合は展示を見る前にまず1回ざっと考えて、答え合わせ的に展示を回ってもいいかなと思います。
――見るのが1回では足りなさそうですね(笑)。
伊沢 まさにそうです。僕はもう3回ぐらい来ていますが、毎回楽しいですね。何回来ても新しい発見があります。後半の展示が前半を見るときに生きてきたりするので、リピートするとそういう部分が面白いですよ。
――今回、グッズも人気ですよね。
伊沢 ぜひ特設ショップで販売されている特別展「毒」公式図録を手に取っていただきたいです。情報量もすばらしく、学びを深められます。装丁もマットな感じでとてもいいですよね。展示を見たあとにこれを読むと、さらに面白いと思うんです。
かなり長く使える本だと思いますね。お子さんが今小学生だったとしても、これを買って中学、高校で何度も開いて読める本だと思います。もちろん、大人が読んでも全然面白いので。これは本当にマストバイです!
――ほかにおすすめのグッズはありますか?
伊沢 グッズは本当にどれもよくできていて、全部おすすめなんですが……特別展「毒」焼印入まんじゅうや、テントウムシグミとかは買いましたね。
あと、Tシャツはかなり着ています。僕がよく着ているブランドの新作かと思ったと言われたぐらい普段遣いできるというか(笑)。一部売り切れてしまったみたいですね。パーカーなどの上着系もあるし、どれもめちゃくちゃおすすめですよ。
あと僕はパソコンのAppleのマークの上や、会社のアルコール除菌の容器に「毒」ステッカーを貼っています(笑)。一応アルコールも毒だからな、ということで(笑)。
幼少期に訪れた国立科学博物館で学んだこと
――伊沢さんは幼い頃から国立科学技術博物館に通われていたそうですね。
伊沢 はい。学校が博物館から近かったこともあって、子どもたち数人で来たり、夏休みの自由研究のテーマ探しのために来たりしていました。それに当時は深海とかダイオウイカとかが流行り始めた頃だったので、そういった特別展を見に行くことも多かったですね。
――特に好きな展示はありましたか?
伊沢 恐竜など、生き物のコーナーに一番興味があったと思います。あとは、物体をぐるぐる回して物理学を感じるような、体験型の展示もあるので、そういうのは楽しかったですね。
――幼少の頃のそういった体験が今に活きていると感じることはありますか?
伊沢 そうですね、例えば剥製がたくさん飾ってあるようなところで、いろいろな生き物のサイズ感などを感じたり、鉱物を実際に見てみたりと、五感を通して伝わる感覚というのは、やっぱり教科書だけではなかなか得られないものですよね。
それに、こんなジャンルがあるんだ!という驚きがあるというか。古代の生き物というと恐竜のイメージが強いですが、それだけじゃなくて、海にいる竜がいたり、巻き貝がさまざまな進化を遂げていたり。かっこいいものばかりじゃないし、それを研究している人たちがいるんだ、ということで自分の観察対象が広くなって、分解能があがった気がしますね。
物事を捉えるときの“なんとなく無視しちゃう領域”というものが減った気はするので、幼少の体験に感謝している部分はたくさんあります。
――今回、親子で来られている方も見かけますが、子どもが小さいとあまり理解できないこともあると思うので、どういうふうに導いて声かけしてあげたらいいのか、ポイントがあればお伺いしたいです。
伊沢 まずはファーストインパクトが強い展示だと思うので、それを大事にしていただきたいかなと思います。「怖い」と思うかもしれないですが、「怖い」という感情は学びにすごく大事ですし、メッセージとしてまず「怖いものは怖い」として知っていただきたいので。
その上で、「怖いだけじゃないよ」というのが後半の展示になっているわけですよね。なるべく身近なものを使って、毒というものがいかに我々の生活に密接したところにあるものであるかということが語られているところなので、「意外とこういうものも毒なんだね」とか「使い方を間違えなければ大丈夫だよ」ということは伝えてあげてほしいですね。
「怖い」と驚かせてしまったことに対してのオチをつけるというか、怖くない要素もあるよというメッセージが最低限伝わるような声掛けがあると、すごくいい学びとして完結するんじゃないかな、と思います。
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撮影/黒石あみ 文・構成/小林麻美
構成/HugKum編集部