【歯の生えかわり時期】「変なところから永久歯が…」「奥歯の歯ぐきがはれて痛い」4つのトラブルと対処法を歯科医が指南

小学校入学前後は歯が生え変わる時期。口の中に違和感があったり痛かったりと本人の訴えを受けて、親もいろいろ気になることが多い時期です。この時期に多いトラブルや悩みについて、歯学博士・島谷浩幸先生がケース別に解説します。

歯の生えかわり時期は悩みがいっぱい

子どもの乳歯は全部で20本。大人の永久歯は32本。つまり、20本が新しく生えかわり、12本がさらに奥から生えてきます(図1)。

【図1】永久歯の萌出時期

生えかわりはおよそ6~7歳から始まり、最後に生えかわるのが10~12歳頃。その後も第二大臼歯が生えたりするなど、10年近くにわたり歯の痛みや腫れなど、子ども本人にとっても親にとっても悩みの多い時期になります。

生えかわりは実に個人差が大きく、同じ家族でも違った傾向が見られることも多いため、各個人で見守っていく必要があります。

今回は、そんな「歯の生えかわり(交換)」の時期に起こる様々な問題点について見ていこうと思います。

ケース1:「萌出性歯肉炎」とは

6歳あるいは12歳前後、この時期に「子どもの一番奥の歯の歯ぐきが腫れて痛い」と訴えて来院される親子が時々おられます。

これは第一大臼歯(6歳臼歯)、第二大臼歯(12歳臼歯)が生えてくる時に起きる歯ぐきの炎症です。

大きな永久歯が歯ぐきを突き破って生えてくるので、それ自体でも炎症反応が起きやすいのに加え、一時的に歯磨きしにくい状態になるため、細菌の集合体である歯垢(プラーク)が周囲に蓄積しやすく、腫れ・痛みや排膿(膿が出ること)等の症状を伴うこともあります。

治療法は、消毒して腫れ止め(抗菌薬)や痛み止め(鎮痛薬)の内服薬を処方して経過観察するのが一般的です。消毒用のうがい薬(含嗽薬)を処方することもあります。

その他の注意点は、腫れている部位を歯ブラシで刺激しないように気を付けること、硬い食物、刺激のある食物(熱い物、辛い物、炭酸飲料など)は控えること等が挙げられます。

歯がきちんと生え切ってしまえば自然と治る歯肉炎ですが、しばらく食事のしにくい時期が続くこともありますので、食事の配慮など親のサポートも不可欠です。

ケース2:下顎の前歯が、内側から生えてきた!

「前歯がおかしな所から生えてきたんです」
時々そう言って来院される親子がおられます。しかし、その「おかしな所」が、実は正常な場所であることもあるのです。

通常、永久歯は乳歯の真下から生えてきますが、例外もあるので知っておいてください。それは“下顎の前歯”です。ここだけは真下でなく、舌側(乳歯の内側)から生えてくるのが正常な生えかわりです。

永久歯の前歯の先端は山型にギザギザしているのが特徴で、生えてきたらすぐに判別できると思います。先端部の凹凸は、噛み合わせていくうちに平坦になっていきます。

ちなみに、本当に「おかしな所」から生えてくるのは「異所萌出」と呼ばれ、矯正治療や抜歯が必要なケースもあります。

正常な生えかわりか異所萌出かの判別に困った時はそのまま放置せず、速やかにかかりつけの歯科医に相談しましょう。

ケース3:この歯は抜く?生えかわりを待つ?

「乳歯がグラグラするので抜いてほしい」
そんな訴えで来院される親子も時々おられます。しかし、安易に歯を抜くのは好ましくありません。その欠損の空間に隣の歯が倒れ込み、隙間を埋めようとするからです(図2左)。

【図2】乳歯を残す大切さ

そうなると、いざ永久歯が生えようとしてもスペースが不足し、正常に生えることができません。その結果、歯並びや噛み合わせがおかしくなり、歯磨きや食事、発声、顔貌にも悪影響が出る可能性があります。

特に、最後に生えかわる第二乳臼歯は最も大きな乳歯で、その下から生える第二小臼歯よりかなり大きく(図2右)、この“ゆとり”が正常な歯並びに導くのに重要なのです。

確かに歯がグラグラするのは気になるし、食事もしにくいし、しゃべりにくいし悪いことづくめですが、特に腫れや痛みなどの不快症状がなければ、自然と生えかわるのを待つのが正解だと言えるでしょう。

基本的に永久歯は乳歯よりも大きく、きれいに生えかわるための条件があります。この大きさの差を補うために隣り合う乳歯の隙間が重要です。もともと乳歯の歯並びには生理的空隙(くうげき)と呼ぶ隙間がありますが、これが狭いと永久歯の大きさを補い切れないため、うまく並ぶことができません。

生理的空隙の有無にかかわらず、永久歯が前方に傾斜したり顎の骨が大きく成長したりして、不足する隙間の大きさを補いますが、それでもスペースが足りない場合は矯正治療が必要なこともあります(図3)。

【図3】永久歯の萌出障害・遅延

ケース4:先欠(先天性欠如)とは?

「いつまで経っても永久歯が生えてきません」というご相談もよくあります。

通常、永久歯の萌出に伴い、乳歯の歯根が溶かされ(吸収と呼びます)、その結果として乳歯は動揺してきます。しかし、永久歯の位置がずれていると歯根は吸収されずに残り、萌出しない(埋伏)や萌出が遅れる(萌出遅延)などの悪影響が出たりします。

また、生まれつき永久歯がないこともあり、先欠(先天性欠如)と呼ばれます。大人の第三大臼歯(智歯、親知らず)のない人がおられることは、ご存じかもしれません。

日本小児歯科学会が平成19年~20年にかけて、全国規模で実施した永久歯先天欠如の発生頻度に関する調査研究では、上下顎とも側切歯と第二小臼歯が生まれつき欠如する割合が高いことが報告されました。

対象者総数15544名(男子7502名、女子8042名)のうち、永久歯の先天欠如は1568名(10.1%)に認められました。性別では男子9.1%、女子10.1%で、歯数別比較では1歯欠如5.2%、2歯欠如2.9%、3歯以上は1%未満という結果になりました。

歯種別では、下顎第二小臼歯の頻度が最も多く(図4)、次いで下顎側切歯、上顎第二小臼歯の順に多く認められました。

【図4】永久歯の先欠(先天性欠如)

また、この調査で認められた他の異常として過剰歯(正常に対する余分な歯)が4.5%で最も多く、特に上顎正中部で3.1%に認められました。

過剰歯は必要に応じて抜歯などの対応を行いますが、永久歯の足りない子どもが10人に1人。意外に多いと思いませんか?

乳歯は永久歯に比べてエナメル質が薄く虫歯が進行しやすいのに加え、歯根が短いため力の負担や歯周病に弱く、一般的に寿命の短い歯と言われています。永久歯の先欠で生えかわらずに残った乳歯は、少しでも長持ちするように永久歯以上のお手入れが必須です。

*  *  *

以上の問題点は決して珍しいものではありません。日頃から子どもの口の中を注意深く観察する習慣を付け、少しでも気になったら歯科医院を受診しましょう。

生えかわり時期をうまく乗り切るために

歯ブラシは毛先の細いものを使おう

子ども用の歯ブラシには毛が硬めのものがあり、デリケートな交換部位のお手入れに不向きです。軟らかめの歯ブラシで優しく磨きましょう。

うがい薬(含嗽薬)を活用しよう

歯ブラシを当てることができない所は、細菌の棲み処になって虫歯リスクが上がるため、ブラッシング後に殺菌成分を含むうがい薬でしっかりブクブク消毒しましょう。

フッ素、シーラントをうまく活用しよう

生えて間もない永久歯は乳歯と同様、表面の歯質が柔らかく虫歯になりやすいので、フッ素入りの歯磨剤で念入りに歯磨きを行い、特に奥歯の溝が深めの場合はシーラント(予防填塞)で埋めるようにしましょう。

*  *  *

何かと不自由な歯の交換時期ですが、大人の歯が生えてくるのは子どもの成長を垣間見るようで、嬉しいものです。親子ともに不自由を楽しむくらいの余裕があればいいですね。

記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

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