愛知県岡崎市の全ての中学校に設置されているフリースクール「F組」とは? 「学校が子どもに適応する」学びの現場の話を聞いた

2023年度、愛知県岡崎市の全ての中学校に校内フリースクール「F組」が設置されました。F組はいったいどんな場所で、通う子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。岡崎市教育委員会に取材し、その取り組みについてうかがいました。

愛知県 岡崎市の全ての中学校には、校内フリースクールが設置されている!

徳川家康公のふるさととしても知られる愛知県岡崎市。その岡崎市では全国に先駆けて全ての中学校に、校内フリースクール「F組」が設置され、注目されています。
学校内にあるフリースクールとは、どんな場所で、子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか?

岡崎市教育相談センターの宇都木靖弘所長、自らもF組で担任を経験していたという、岡崎市教育委員会学校指導課の鈴木崇之指導主事にお話をうかがいました。

「子どもが学校に適応するのではなく、学校が子どもに適応する」学びの場

岡崎市の中学校に校内フリースクールができた経緯を教えてください。

宇都木所長(以下宇都木さん)市内の中学校に設置されていた「適応指導教室」を発展的解消させ、2020年度に市内3校で校内フリースクール「F組」が始まりました。2023年度で20校全てに設置が完了したところです。
「F組」というのは、Free(自由)、Fit(みんなに合う)、Fun(楽しい)、Future(未来に向かって)の頭文字を取ったもので、学校生活に困り感があったり、長期欠席傾向のある子の「個別最適な学びの場」として運営されています。

毎日何人くらいの生徒がF組に通っているのでしょうか?

宇都木さん:学校によって差はありますが、1校に約5〜15人の子がF組に通っています。

大人数の中に入ることに抵抗があっても、F組の少人数の人間関係の中なら通えるという子も多いです。F組では、1年生から3年生が一緒に過ごすので、上級生が下学年の子に教えてあげる関係を通して、少しずつコミュニケーションに慣れていくというのもF組の良さですね。

「 F組」と「適応指導教室」はどのような違いがあるのでしょうか?

宇都木さん:F組の理念として以下の5つを挙げています。

  1. 適応するのは子どもではなく学校。学校に適応できるようにする適応指導教室ではない
  2. 通常の学級と同じ、1つの学級として扱う
  3. 多様性を受け入れられる、校内でも信頼の厚いエース級の教員を担任に置く
  4. いつでも子どもたちを温かく迎える支援員を配置(市の予算で採用)
  5. 教室復帰ではなく社会的自立を目指す

つまりF組は、通常の学級になじめない子を「適応指導」するような場所ではなく、通常の学級と並ぶ一つの学級だということです。

昔は、何がなんでも学校や学級に戻してあげるということが目標にされていましたが、今はそれだけではないんですよね。子どもたちはいつか学校から巣立ち、社会に出ていきます。ですから、それに向けて支援していくということを第一に掲げなければならないと考えています。

また、F組は多様な教育機会を確保する場として、長期欠席や学校生活に困り感がある子どもだけではなく、外国籍の子どもなども利用しています。今の時代、子どもが学校に合わせるのではなく、学校がそれぞれの子どもに合わせていくという考え方が必要だと思っています。

学校にフリースクールがあるというのは心強いですね。

宇都木さん:最近では民間のフリースクールも増えていますが、家から遠かったり、少なからずお金がかかったりと、様々な理由で通えないケースもあると聞いています。その点、「F組」は学校の中にあるということで通いやすいですし、学校の先生や担任の先生とも連携を取りやすいというよさがあるかと思います。

F組では、1日の過ごし方は自分で決める

畳が印象的なF組の教室内。

F組に通う子どもたちはどのように1日を過ごしているのでしょうか?

鈴木指導主事(以下鈴木さん):学校によって多少の違いはありますが、大まかにいうと午前中は学習、午後は運動やボードゲームなどを使ったコミュニケーションのための時間というような流れになっています。

ただ、その中でどのように過ごすかは、自分で決めることになっています。それぞれが自分のできるペースでスケジュールを立てるというのがF組の特徴ともいえるでしょう。

ですから、同じ教室の中で、理科を勉強している子もいれば、絵を描いている子もいるというのが当たり前の光景です。F組には担任と支援員がいますが、時間を合わせて専門の教科の先生に見てもらうこともできます。また、一人一台タブレット端末があるので、クラスの授業をリモートで受けることもできますし、1時間だけ通常の学級で授業を受けて戻ってくるということも可能です。

F組では毎日少しずつでも自分で決めたことを自分で達成していく。その小さな成功体験を積み重ねてほしいと思っています。それぞれの子どもに合った支援ができるよう、F組を担当する全ての中学校の教員と支援員はディスカッションする機会を設けていて、それぞれの学校の良い取り組みを共有しています。

F組の教室は畳があったり、ソファーがあったりと、普通の教室とは違う雰囲気ですね。

ソファーや畳がアットホームな雰囲気。

鈴木さん:F組は心がほっとできるような、安心できるような居場所、「心理的安全性」を担保できる場所であることを意識しています。ですからソファーやクッションなどを置いてアットホームな空間にしています。また、私が以前に勤務していた学校では、F組の教室が運動場のすぐそばにあり、カーテンやドアを開けてオープンな雰囲気にしていたので、色々な子どもが窓越しに話しかけてくれましたね。

通常の学級の子どもたちも、F組は学校にとって必要な場であることを理解してくれていると思います。

学校行事を通して成功体験を得ることも多い

F組に通う子どもたちは、学校行事などにも参加しているのでしょうか?

鈴木さん:はい。一人ひとりの状況に応じてどのように参加するかを決めています。例えば体育大会なら、通常の学級の子どもと同じようにリレーを走る子どももいますが、それが難しければ、運営のお手伝いとして参加することもできます。とにかく、各自ができることを一緒に見つけることを大切にしています。

ある学校の文化祭ではF組の子どもがステージで歌とギターを披露したこともあります。その子どもは小学校の頃から欠席が続いていましたが、F組で過ごす中でギターと出会い、夢中になることで少しずつ自信をつけていったんですよね。

他にも文化祭でハンドメイド作品を売ったり、部活動の壮行会のための応援動画を作った子どももいます。そのように自分のしたことや作ったものが誰かの役に立っていると感じられることは、自己有用感や自己肯定感につながっているのだと思います。

保護者もお子さんのそういった姿を見られるのは嬉しいですよね。

鈴木さん:「F組ができて少しずつ学校に足が向かう日が増えた」「F組に通うことで、子どもの表情が少しずつ明るくなり、それを見るのが嬉しい」という保護者の声をよく聞きます。

F組の子どもたちの進路はどのようなものがありますか?

鈴木さん:ほとんどの生徒が進学しています。全日制、定時制、通信制、単位制など様々な選択肢がありますし、専修学校に進む子どももいます。また、今の時代、学び直しをしようと思えばいつでもできますし、目的ができれば自分で動き出せます。そのためにF組では心のエネルギーを貯めていってほしいと思っています。

全ての子どもにとって、学校が楽しく安心できる場所であってほしいという鈴木さん。F組のありかたは、通常の学級のロールモデルにもなるといいます。F組のような取り組みが多くの学校に広がっていくことを期待します。

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お話を伺ったのは

宇都木 靖弘さん|岡崎市教育相談センター所長
岡崎市内小中学校や国立大学法人愛知教育大学附属特別支援学校、岡崎市教育委員会学校指導課主幹、岡崎市立細川小学校校長を経て、2023年度より現職。細川小学校校長時代には、独自に校内フリースクール(名称:「ハート・ほっと・ルーム」)を設置するなど、多様な教育機会の確保に向けて尽力する。

お話を伺ったのは

鈴木 崇之さん|岡崎市教育委員会 学校指導課指導主事
岡崎市内小中学校、岡崎市立福岡中学校校務主任を経て、2022年度より現職。校内フリースクールや長期欠席対策等を担当。2020年度、福岡中学校がF組パイロット校の1つとしてスタートしたときには、F組担任を務めた。
構成・文/平丸真梨子

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