子どもが不登校になったとき、スクールカウンセラーにどう相談する?敷居が高いと思わないで。現役カウンセラーに聞いた、子供に寄り添う対処法

子供が「不登校」になると保護者はなんとかして子供を学校に行かせるように働きかけますが、子供の思いを優先することが大切です。子供が不登校になる原因は、子供自身の特性だったり、生い立ちだったり、様々なことが複雑に絡んでいます。多くの子供たちの悩みに寄り添い、立ち直ることに奔走するスクールカウンセラーの堀井智帆さんに不登校についての対処法をうかがいました。

心の健康状態を保つために気軽に相談しよう

――スクールカウンセラーは、どのような仕事をするのですか。

堀井さん(以後敬称略)  スクールカウンセラーは、悩みを抱えた保護者や子どもの相談にのる仕事をしています。悩みの内容をうかがって、どう乗り越えていくかを一緒に考えていきます。学校内で起こっている困り事はなんでも対応します。現在の悩み事で多いのが、不登校や行き渋り、いじめ、友人トラブルなどです。

――小学生の子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、保護者はまず、どのように対応すればよいでしょうか。

堀井 「なぜ学校に行きたくないのか?」と子どもを責めることなく、どういうところにつまずいているのかということを子どもからじっくり聞くようにします。学校に行きたいのに行けていないのか。学校に行きたくないのか。本当に行きたくない場合は無理やり行かせることは避けましょう。親御さんは、子どもが家庭で安心安全に過ごせているのかということを考えてください。子どもがどうしたいのかということを優先してほしいですね。

――小学生の子どもが不登校になったとき、どのようにスクールカウンセラーに相談し、関わるのがよいでしょうか。

堀井 スクールカウンセラーは現在、全校に配置されています。学校によってシステムが異なりますが、養護教諭や担任などの担当窓口から予約をします。スクールカウンセラーに相談するというと、よほど悩んだときに相談するイメージがあり、敷居が高いと思われている方も多いように聞きます。でも、毎日の健康状態を保つように、心の健康状態を保つために気軽に相談していただきたいと思っています。

学校に知られたくない内容の相談は、スクールカウンセラーには守秘義務がありますので、「この内容は学校に伝えないでほしい」と話しておけば、学校に内容が伝わることはありません。安心して相談してください。

生い立ちをたどり不登校になった原因を見立てる

――小学生の子どもが不登校であると相談を受けたときに、堀井さんはスクールカウンセラーとしてどのような対応をされるのでしょうか。

堀井 子どもが学校に行けないことに罪悪感をもつ親御さんが多いように思います。そういうとき、「子どもが39℃も熱があるのに、学校に行かせますか?」と聞きます。もちろん、学校を休ませるでしょう。それと同じです。心が疲れて熱がある状態です。エネルギーが少なくなって学校に行けなくなっているのです。学校に行けない状態が悪いことではないことを親御さんにもその子にも伝え、納得するようにしてもらいます。

そして何が原因なのかを見立てていきます。

原因には親子関係、家族関係、その子自身の特性、環境など様々な問題があります。それを見立てていくには、その子が生まれてからの過程を表にしていきます。
例えば、その子が4歳のときに「夫婦げんかが絶えなかった」となると、4歳の子どもが受けるべきもの、経験や愛情を受けられなかったことになります。受けられなかったために、その子が自分自身で対処しがんばったところもあるでしょう。そのため、今、元気がなくなっているのかもしれません。このようにして、何が原因になっているのかを見立て、その原因を探り、元気になるように手立てを講じていきます。

堀井 不登校になる原因は、一般的に「先生が嫌だから」「友達に嫌がらせをされたから」などがよく言われていますが、私は、これらはあくまできっかけだと思います。原因は別のところにあるのです。

仮にその学級の子ども全員が不登校になったのなら先生が原因かもしれません。しかし、そのようなことはないでしょう。本人の対人スキル、感情コントロールなどのコミュニケーション能力に問題があることが考えられます。

子どもの自尊心を高めることは親しかできない

――学校に本当に行きたくない子どもには、学校に行かせなくてもよいのでしょうか?

堀井 無理に学校に行かせなくてもよいと思います。学校に行きたいのに、行けていないケースは、学校に行けるような手立てをしていきますが、本当に行きたくない子には、家庭で安心安全に過ごせることが重要になります。
親御さんは、「不登校=悪いこと」と思われることが多いので、親御さんは子どもを責める、本人は自分がだめな人間だと思うようになるという悪循環で、ますます安心して過ごせなくなるのです。子どもの自尊心が低下することが大きな問題です。

――自尊心を高めるにはどのようにすればよいのでしょうか。

堀井 「よいところをほめる」ということはよく言われていることですが、これにはマイナスメッセージも含まれるので注意が必要です。例えば、「よい点数とってえらいね」と言うと、「悪い点数をとるとえらくない」という裏メッセージが含まれるわけです。このような評価は、自尊心にはほぼ作用しないのです。

子どもの自尊心を上げるには、「何もできなくても大好き」「この家にいてくれるだけで大好き」「生まれてくれただけで100点なんだよ」と伝えてください。何もできなくても「親が応援してくれている」と思うことが子どもの自尊心を高めることにつながります。

そうすると「子どもを叱ってはいけないの?」という疑問が出てきますが、もちろん叱ってもよいのです。しかし、「大好きだから」というフォローを入れることが大切です。私は「自尊心を高める」「対人スキルを上げる」という2本立てでカウンセリングを進めていきます。自尊心を高めるところは、親御さんにがんばっていただくところなのです。

――学校に行かないと社会に出られないような心配があります。

堀井 学校に行かないからといって、社会に出られないということはありません。ただし、学校に行けば社会に出ていきやすいようにレールが敷かれています。学校に行かないとそのレールがありません。自分でレールを敷き、社会に出なければなりません。私は、「その方法を考えよう」とその子と話し合いながら、社会に出ていけるように支援をしていきます。

これまで、学校に行かなくても、社会に出て働いている人はたくさんいます。後から高校の資格をとって大学に進学した子もいます。介護士になった子、不動産会社の社員になった子など、それぞれの夢をかなえています。
学校に行けなくなっても、夢をもつことは大切ですし、夢を叶える方法をいっしょに考えていきます。

――保護者がスクールカウンセラーの方と良好な関わりをもつにはどのようにすればよいですか。

堀井 スクールカウンセラーは、相談者から信じていただけない間はうまくいきません。親御さんにとってやりたくないこともやっていただかなければいけないこともあるため、相手に信頼してもらうことが大切です。それにはスクールカウンセラー自身のスキルが重要になります。相手に対してしっかり傾聴し、共感しつつも、専門職としての助言が必要になります。

親御さんは、いろいろと手を尽くしても子どもが変化しないのだったら、スクールカウンセラーの提案を一度試してみようという気持ちをもたれてはいかがでしょうか。

それから、結果をすぐに求めないように長い目で見ていただくことが大切です。スクールカウンセラーとしては、相談を受けたら3~4年はお付き合いをいただくという心構えで臨んでいます。親御さんも「長期間のお付き合いをする」というように考えていただけるとよいと思います。

ケーススタディ スクールカウンセラーはどのようなサポートをしてくれる?

堀井さんが関わられたことによって、不登校から立ち直った多くの小学生の子どもたちのなかから、実例を教えてください。

堀井 具体例でご紹介しますと、小学5、6年の女の子の間には、グループ同士でのパワーゲームやグループ内でのもめごとのケースがあります。ある女の子はまさにそのようなケースで、「ある子にじろじろ見られて、陰口を言われている」という相談でした。

対処法を提案

その子には「あなたを一生嫌な人や性格が合わない友達と会わないようにしたいけれど、それは無理な話。だから、性が合わない人と出会ったときに、対処法を見付けてどのように乗り越えていくかの練習をこれからしていきましょう」と言いました。

そして、1週間ごとにその子と面談しました。面談ではいろいろな話をします。

仮にあなたが本当に陰口を言われていると仮定して、

そのときの状態は、「心が傷ついている」→「なぜ傷ついているのか」→「それは嫌われている、分かってくれないと思うから」

これは「ないもの」(ネガティブ)に目が向いている状態です。この状態をいろいろな方法で「あるもの」(ポジティブ)に向かせるようにします。

「あなたにとって大切なものは?」

「あなたの大切なものは何?」と聞くと、その子は「家族」「ペット」「ゲーム」「本」などいろいろ挙げてくれます。「陰口を言われたことで、その大切なものはなくなる?」と聞くと「なくならない」と答えてくれます。

「陰口を言われても、大切なものはなくならない」ということについて図を描きながら、その子が納得できるようにします。

写真はイメージです

ソーシャルスキルを身に付ける

さらに、陰口を気にしないようにするために、ソーシャルスキルトレーニングをしていきます。その子が、社会の荒波の波乗りができるようにしていくのです。

毎週、面談して、その子は「気持ちが切り替えられなかった」ということが続きました。

2か月くらいたったあるとき、「今日はどうだった?」聞くと、「相手から見られました」、「それでどうしたの?」と続けると、「見返しました」という答えが返ってきたのです。私が「相手はどうしたの?」と聞くと、「相手は目をそらしました」とのことでした。

その後、彼女はとても元気になりました。
このケースは初期の段階だったので、比較的早く解決しました。カウンセリングの時期が遅れると長期に渡ることも多くなるので、早い時期にカウンセリングすることが大切です。

気になることはスクールカウンセラーに相談 そして子どもの自尊心は親が育てる

――子どもとは普段からどのように向き合うべきでしょうか?

堀井 不登校のきっかけはいろいろあると思います。不登校によって子ども自身は「自分はだめだ」と思うようになり、自尊心が低下していきます。さらに、親御さんから責められ、ますます自尊心が低下します。そうならないために、普段から子どもの自尊心を高めることが大切です。自尊心が高まれば、どんなことにも負けないようになるでしょう。

自尊心を高められるのは親御さんだけなのです。ご自分のお子さんの自尊心を高め、いろいろなプレッシャーに負けない生きる力を育んでください。

識者プロフィール

 

 

堀井智帆(ほりい・ちほ)|スクールカウンセラー

 

1977年神奈川県生まれ。西南女学院大学福祉学科卒業。児童養護施設勤務をへて、福岡県警察本部北九州少年サポートセンター勤務。少年非行に寄り添い、その背後にある虐待の問題に取り組む。延べ2000人の非行少年に向き合う。2020年、NHKテレビ『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演、大きな反響を呼ぶ。2022年、同センターを退職。現在はフリーの立場で子供家庭支援、講演活動などを行う。著書に『非行少年たちの神様』(青灯社)。

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取材・文/浅原孝子

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