「チーム学校」として、その子に寄り添って対応
――朝、子どもが「学校に行きたくない」と言い始めたら、子育て中のママ&パパは、どう対応したらよいのでしょうか。不安や焦りから、「とにかく学校に行きなさい!」と子どもを叱ったり、パニックになったりしそうという親御さんも多いのでは?
菊地校長(以下、菊地):そうですよね、親御さんとしては、とても心配になられると思います。本校では、入学式や学校説明会、学校便りなどを通じて、「お子さんに何か心配な様子が見られたら、すぐに学校にご連絡ください」と発信しています。
――でも、学校の先生は朝からとても忙しそうで、何となく気が引けてしまいます。電話をしてもよい?
菊地:コロナ禍以降、メールで欠席の連絡をする学校も増えています。メールのほうが連絡しやすければメールでもかまいません。大切なお子さんのことですから、気にせず電話でお子さんの様子や状況を知らせていただければと思います。
――担任の先生につながらない場合、他の先生に伝えてもよい?
菊地:もちろんです。近年、教育現場では、「チーム学校」として、担任を中心に、学年主任、支援教育コーディネーター、養護教諭、スクールカウンセラー、教頭や校長などの管理職が一丸となって、子どもたちの成長を見守る体制が築かれています。
さらに、今年の3月、文部科学省から発出された「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策・COCOLOプラン」により、全国の学校でチーム支援での取り組みが加速しています。
学校は子どもと保護者の応援団
――いわゆる「対応のマニュアル」はあるのですか?
菊地:不登校や行き渋りには、その子なりの理由や背景があります。それは一人ひとり違うので、マニュアル通りにはいきません。一人ひとりの子どもに寄り添うことが求められると思いますし、実際にその子に合った支援をしています。
――子ども一人ひとりに対応すると言っても、時間的にも人員的にも限界があるのでは?
菊地:確かに限界はあります。それでも、その子にとってのベストな道を、学校は保護者と一緒に歩んでいきたいと考えています。学校には学校にしかできないことがあり、ご家庭にはご家庭にしかできないこともありますから。
――学校に出来ることとは具体的にどんなことなのでしょうか?
菊地:学校としては、一次支援(担任が行う学級での支援)、二次支援(個別のケースに「チーム学校」で対応する支援)、三次支援(学校外の専門家や専門機関も含めた支援)など、必要を見極めて対応しています。
――担任の先生と反りが合わない場合は?
菊地:もし担任の適切ではない指導によって「学校に行きたくない」のであれば、そこは管理職としてきちんと介入すべきだと考えています。担任と状況を確認する上では、「子どもがそう感じたり捉えたりしたことを優先して対応する」を基本にしています。
たとえば、「先生に強く叱られた」と子どもが感じ、「先生が怖い」と保護者に伝えたとしましょう。子どもが怖いと感じているのであるなら、口調や言葉遣いを改めたり、次からはこういうときはこうすると伝えたり、時には強く叱って申し訳なかったと謝ることも必要だと考えています。そう感じている子ども側に立って話し合う必要を感じています。
――担任の先生以外に相談しても良いですか?
菊地:基本的には担任にご相談いただきたいとは思いますが、話しにくい事柄であったり、相談しやすい教員に話したりする場合もあると思います。
私は管理職として、職員や保護者の方に向けて、常々こう発信しています。
「一人ひとりの子どもを、学校の全職員で育てています」
これは、本校のような小規模校だから可能な考えなのかもしれません。担任が軸となってクラスの子どもたちを1年間受け持ってはいるものの、学校全体で6年間という時間をかけて、全職員で子どもたちを育てていきたいと思っています。
そのためには、支援教育コーディネーター、養護教諭、教頭や校長など誰にでも相談しやすい風土を創ることが大切だと考えています。
子どものSOSに気づいて
――「学校に行きたくない」と言い出したら、無理にでも行かせるべき? それとも、休ませるべきでしょうか?
菊地:それに関しても、マニュアルや正解はなく、個々の対応が求められると思います。
いただいた電話に担任の先生や別の先生が「今日、来れそう?」と問いかけたり、「辛いことがあるなら一緒に解決しよう」と声かけしたりすることで登校できる子もいます。また、親御さんに送ってもらったら登校できるというケースもよくあります。
――学年によって「学校に行きたくない」理由は違う?
菊地:低学年の場合、保育園や幼稚園に比べて、学校の設備はすべて大きく見えるようです。それが何とも怖かったり、不安になったりするのは当たり前です。新しい環境に慣れるのが苦手な子や繊細な子が、安心できて居心地の良い自宅で守られていたいと思うのは、自分を守るための反応なのかもしれません。実際、週明けに泣きながら来る子もいれば、親御さんに送ってもらって登校する子もいます。
――その場合、保護者はどうするべき?
菊地:学校側は、そういうこともあるものだという前提で迎えていますから、安心してください。
親御さんに教室までに送ってもらう子も、授業が始まると気持ちが変わったり、だんだん昇降口や学校門で「行ってきます」が出来るようになったりしますから。教室に入ってしまえば、気持ちを切り替えて授業に向かえるケースも多いのです。
――中~高学年の場合は?
菊地:クラス替えがあり、仲の良い友達と離れてしまって不安になって行き渋る子や、新しい環境に慣れるまでに時間かかったり、少し慣れたころに不安になったりするケースはあります。
自分中心の生活から、周囲との関係に目を向けるようになる高学年では、友人関係が原因になることもあります。感じやすさは、本当に人それぞれ。なんとなくクラスの居心地がよくないということもあるし、はっきり友達関係に起因しているケースもあります。そこは見極めて対処しなければなりません。
――子どもがSOSを発信してくれれば良いのですが、何も言ってくれない場合は…?
菊地:確かに、子どもから「ここが辛いんだ」と言ってくれると助かりますね。川崎市では全ての学年でSOSの発信のしかたや受け止め方に関する教育も行っています。
子どもの心が育つには時間がかかります。心は見えにくいものですが、不安や緊張、気がかりなどの引っ掛かりがあるときは、体の不調となって現れることも多いので、そんなときには健康チェックがおすすめです。
――具体的には?
菊地:眠れない、食欲がない、頭やおなかが痛い、顔色が悪いなどの症状です。そういう心のSOSが体調不良となって現れているときは、「今日はお休みして体と心を休めようか」という選択もあると思います。回復までに時間がかかったとしても、お子さんにとって必要な時間と捉えて、学校はお子さんやご家庭とつながっていきます。
――不登校や行き渋りになりやすい時期はある?
菊地:新年度のスタート、少し慣れた連休明け、夏休みなどの長期休みの終わりは特に案じています。新年度は、慣れない環境への不安などが多いようですが、夏休みや冬休み明けとなると、いろいろ要素が積み重なっていたり、心身の変化もあったりするので、子どもにとって複合的なストレスになっている場合も考えられます。やはり早めの対応が理想的です。
不登校・行き渋り対策として、家庭ができること
――家庭として、何をしたら良い?
菊地:学校としては、「元気に送り出してほしい」と願っています。ぜひ、生活リズムや体調を整えて学校に送り出してください。夜更かししたり、朝ごはん抜きだったりすると、子どもは学校で元気に活動できませんから。
朝、学校では授業前に健康観察を行っています。それは子どもたちの顔を見て、体と心の状態を知るためです。ご家庭でも、朝学校に送り出す前に、いつもより元気ないな、ちょっと疲れているなという様子があれば、それを早めに学校に伝えてほしいと思います。
――そんなささいなことでも、すぐに連絡していい?
菊地:早ければ早いほどよいと思っています。保護者と学校とが一体となって、その子にとって居心地の良い場を作っていくことが大切ですから。
――保護者は、まず学校とタッグを組む意識が大事ということですね。
菊地:入学式にお話していることですが、私は、学校教育は家庭教育の上になりたっていると考えています。ですので、まずこう言います。
「ここまで育ててくださって、本当にありがとうございます。これからは学校と一緒に歩んで行きましょう」
実際、子どもを産んで育てて、さあ、今から学校に通わせるのだという営みに自信をもってほしいと思っています。病気もあればケガも心配な赤ちゃん時代から6年間、よくぞここまで育ててくださったと、本当に頭が下がります。
小学校は、学校教育と家庭教育を融合させていく場です。さまざまな事情があって家庭の状況がなかなか整わない場合もあるかもしれません。担任を中心にご家庭と話をしながら、学校全体で子どもの成長を見守りたいと願っています。
――保護者の皆さんにメッセージを。
菊地:保護者の方も、周りに「助けてください」と言ってほしいと思っています。親御さんから相談があると、まず「話してくれてありがとうございます」と答えます。早めに相談いただければ、学校としても、大切なお子さんにとって最善のことを一緒に考えていけますから、ありがたいと思います。
――なかなか人に言えなくて苦しんでいる保護者も多いのでは?
菊地:親御さんの中には、「自分が幼い頃いじめられていたのに、誰も何もしてくれなかった」と辛い過去を抱えている方もいれば、「上の子のとき助けてもらえなかった」との不信感がある方もいます。でも、今、確実に学校現場は変わっています。ぜひ早めに相談してください。
――不登校が長期化した場合は?
菊地:学校が心配しているのは、その子が元気でいるかということ。そのために、なるべく直接本人につながれるよう考えていきます。
たとえば、子どもたちに配られているGIGA端末(支給されているタブレット)で授業に参加する方法もあるし、学校内にフリールーム(教室以外の居場所)を設け、「来てみない?」と誘うこともあります。また、支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーなどと協働して外部機関やフリースクールなどにつなぐ場合もあります。
子どもが少しでも社会とつながれるように、どのような環境がいいのか、保護者の方とともに学校も考えていきます。「子どもがSOSを出せる学校、保護者が相談しやすい学校」でありたいと願っています。
――ありがとうございました。
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取材・文/ひだいますみ