「離婚は受験に影響する?」「離婚調停を見せれば法律の勉強になる?」雑すぎる〝教育的〟配慮は子どもに逆効果

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夫婦の問題、とりわけ離婚の問題は、親の立場や社会的ステイタスに関係なく、子どもに大きな影響を与えます。しかし実際のところ、理屈では理解していても、どんなかたちで影響するかという具体について、私たちは知識を持っていません。離婚を思い立ったときに真っ先に考えるべきは、子どもにどう伝えるか、そしてどう向き合ってもらうか――なのに。そこで、『モラハラ夫と食洗機』などの著書がある離婚問題に詳しい堀井亜生弁護士が実際に取り扱った事例をもとに、〝あるある〟な相談者からの質問を題材に最適解のヒントを授けます。今回のキーワードは〈受験〉〈離婚の教育的利用〉の2つ、です。

受験への悪影響を最小限にとどめるためには

「夫との離婚を考えています。子どもの受験を控えているのですが、離婚すると受験に影響してしまうでしょうか?」

中学受験を題材にした漫画『二月の勝者』でも、父親のDVで受験の直前に両親が別居するというエピソードが登場します。

答えは、イエスです。両親の別居・離婚は受験に影響します。子どもの環境が変わるだけでなく、家庭でトラブルが起きていることによるストレスもかかります。できれば子どもの受験期ぐらいは家庭を円満に……と思うのは皆さん同じですが、そういう時期だからこそ、親もピリピリしてしまい、大きな夫婦げんかから離婚問題に発展しまうこともあります。

では、何が何でも我慢しないといけないかというと、そうではありません。たとえば、両親が毎日のようにけんかをしていて家庭内がごたごたしているストレスと、離婚をして家庭環境が変わるストレス。そのどちらが子どもの受験に悪影響かを比べて検討してみてください。

また、家庭内で暴力が発生しているといった状況なら、優先するべきは家族の身の安全です。ケガをしてしまえば受験どころではなくなります。

上記の理由で、受験期における離婚や別居は極力避けたいところですが、離婚を選択せざるをえない場合は、受験への影響を最小限にとどめられるよう配慮しましょう。

まず、塾の送り迎えなどのサポートを自分一人でできるようにすること。手が足りなければ実家の両親に手伝ってもらえるよう、頼めるかどうかの検討も必要です。もちろん、受験にかかる高額な出費をどう乗り切るか、経済的な面も考えなくてはいけません。

母親の精神状態、生活態度や言動への心構えも必要です。

「両親のせいで進路を台無しにされた」と思わせないために

実は一番よくないのは、母親自身が子どもをネガティブな精神状態に追い込んでしまうことだからです。

たとえば、母親が「受験前の大事な時期に離婚を切り出すなんてひどい父親だ」という態度を取ると、子どもはそれを無意識のうちに怠ける言い訳にしてしまう場合があります。「大事な時期に両親が離婚してしまうなんて、自分はかわいそうなんだ、もうだめなんだ……」、そう思い込むと、どんなに優秀な子でも、やる気を失ってしまいます。
むしろ親が取るべき態度は、「問題は親同士で解決するからあなたは心配せず勉強を頑張ってほしい。二人とも応援しているから」というメッセージを、子どもにしっかりと伝えることです。

受験に限らず、人生には、さまざまな出来事が起こります。離婚をネガティブなことととらえた影響で受験が思わしくない結果に終わると、子どもは「両親のせいで進路を台無しにされた」と責任転嫁をしてしまいます。そしてその後の人生においても、その失敗と責任転嫁を引きずってしまいます。

私が見てきた案件では、両親の離婚や別居をばねにして逆に頑張り、合格をつかみ取った子どもがたくさんいます。
子どもの受験に影響を与えるのは、離婚するかどうかの選択ではなく、親の取るスタンスなのです。
離婚や別居をしても集中できる環境を整えられるようにするのは親の役割です。お子さんがベストを尽くせるように、どんな行動を取るべきかを考えましょう。

「子どもの勉強になる」と離婚調停を見せようとする親たち

「夫と離婚調停をしています。法律の勉強になると思うので、子どもを調停に連れて行こうと思いますが、どうでしょうか?」

変わった質問だなあと思われる方、多いと思います。でもこういった相談を受けた経験は一度や二度ではありません。

私の経験からいえば、両親の離婚の法的手続きを見て、法律に興味を持ったり弁護士を目指したりするというプラスの方向に影響を受ける子どもはあまり多くないと思います。

中には、法律相談や依頼後の弁護士との打ち合わせにお子さんを連れてくる方もいます。
ある程度成長した年齢の子で、「自分の将来や進路に関係があるから話を聞きたい」と子どもが自発的に希望したのであればよいのですが、まだ小さな子に、お父さん(お母さん)が悪いことをした、相手のせいでこんなことになった、と理解させるために連れてこようとする方もいます。

そもそも、離婚調停は非公開の手続きのため、入室できるのは原則として夫婦やその代理人のみです。子どもの出席は想定されていません。
まれに、「子どもを連れていけば調停委員に夫がひどいことをしたとわかってもらえて有利になるかもしれない」と考える方がいるのですが、そういった効果もありません。
離婚において親権や面会交流が争点になっている場合は、調査官調査といって、家庭裁判所の調査官が子どもに生活状況や両親について聞き取りを行うこともあります。これは、通常の調停期日とは別に裁判所の権限で行われるものなので、通常の期日に子どもを連れていく必要はありません。

一方、裁判は公開の法廷で行われるので、誰でも自由に傍聴することができます。ただこの場合も、先にお話ししたのと同様の理由から、子どもに傍聴させるのはあまりおすすめできません。
自分の両親の揉め事を目の当たりするのはとても酷なことです。調査官調査は子どもの心情に配慮して行われますが、それ以外の手続きは子どもに見せる前提のものにはなっていません。

また、中には弁護士との契約書や相手方とやりとりした書面、裁判の資料をすべて子どもに見せてしまう人がいます。どうやら離婚について子どもに説明するのが面倒でそうしてしまうようなのですが、子どもがそれらを見せられても内容を理解でるわけがありません。むしろ、納得できずに理不尽な思いを抱えてしまうだけなので、離婚に関しては自分(親)の言葉で説明するようにしましょう。

教育熱心な親御さんの中には、「弁護士に会わせたら子どもの勉強への意欲が上がるかもしれない」と考える方がいます。しかし、上の回答でも書いたとおり、勉強の意欲を上げるには、離婚によるストレスを子どもに与えないことが一番大事です。
家庭がバラバラになってしまう離婚の手続きの場は、子どもの教育の場としてはあまりふさわしくないと私は考えます。

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記事監修

堀井亜生(ほりい・あおい)/弁護士。

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。
離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。
『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『モラハラ夫と食洗機』(小学館)『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)などがある。

堀井亜生/著|小学館|1,430円

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