「転校がかわいそうで離婚に踏み出せない…」堀井亜生弁護士が見てきた【離婚と子ども】のリアル

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夫婦の問題、とりわけ離婚の問題は、親の立場や社会的ステイタスに関係なく、子どもに大きな影響を与えます。しかし実際のところ、理屈では理解していても、どんなかたちで影響するかという具体について、私たちは知識を持っていません。離婚を思い立ったときに真っ先に考えるべきは、子どもにどう伝えるか、そしてどう向き合ってもらうか――なのに。そこで、『モラハラ夫と食洗機』などの著書がある離婚問題に詳しい堀井亜生弁護士が実際に取り扱った事例をもとに、〝あるある〟な相談者からの質問を題材に最適解のヒントを授けます。今回のキーワードは〈親のケンカ〉〈子どもに決めさせる〉〈転校はかわいそう〉の3つ、です。

親の離婚の〝見せ方〟が子どもの将来を左右する?

「夫とのけんかが絶えません。子どもの前ではできるだけ夫婦げんかをしない方がよいと聞きますが、でも家族のことは何でも隠さず見せた方がよいという考えもあるようで、悩んでいます・・・・・・・」

結論から先に言いますと、夫婦げんかを子どもに見せるのは、できれば避けた方がよいと思います。けんかを子どもに見せている家といない家では、子どもの将来への影響が大きく変わってくるためです。離婚する家庭の子どもたちを数多く見てきた私の考えです。

影響が最小限で済むのは3歳ごろまでです。幼稚園に通い出す年齢になると頭痛や腹痛といった身体症状が出たり、小学生になると体調面だけでなく友人関係に影響を及ぼすようになります。不登校になる子も出てきます。

人格や考え方がある程度固まりだす高校生、それ以上の年齢であれば、両親の不仲や離婚を自分なりに乗り越えることはできる場合もありますが、進路を考えるときに両親に相談しずらい雰囲気から、自ら選択肢の幅を狭めるといったマイナス面が出ることもあります。
成人年齢に近づくにつれ、結婚観・恋愛観にも影響が出てきます。

もちろん、親が離婚をしているからといって、すべての子どもの成長に悪影響が出ると言いたいわけではありませんし、離婚自体が悪いと伝えたいわけでもありません。

私が伝えたいのは、親の離婚を子どもにどのように〝見せる〟か、なのです。子どもをどう巻き込むかによっては、その子の将来に大きな影響を及ぼす現実があることを知ってほしいです。

本来、子どもにとって、家庭というのは安心できる場所です。そして両親というのは、自分を守ってくれる存在です。その二人がけんかをしていると、子どもは絶えず不安な精神状態になってしまいます。家にいても安心できなくなり、心と体が不安定になってしまうのです。

「家庭のことは何でも隠さず伝えた方がよいから、子どもに夫婦げんかを見せる」というのは、大人の身勝手な理屈にすぎません。
信じられないことですが、私が扱った事例の中には、父母それぞれが言い分を子どもに話し、どちらが正しいか子どもにジャッジさせる、という夫婦もいました。

子どもの身になって考えてみてください。どちらも大切な存在である両親から、「正しいのはどっち? 間違っているのはどっち??」と詰められ、選択を迫られるのです。子どもからしたら、身を切られるような気持ちになったのではないでしょうか。

両親の問題はあくまで両親で解決する。それが親の務めです。

家族にとって一生の決断を子どもにゆだねる親たち

「離婚するかどうか迷っています。大切なことなので子どもに決めてもらった方がよいでしょうか?」

おすすめしません。
両親や自分の人生について、子どもに大きな責任を負わせることになってしまうからです。
「離婚していいと思う」「離婚しないでほしい」……どちらの答えを言っても、子どもは生涯これでよかったのだろうかと悩み続けることになります。

また、離婚というのは人生の大きなターニングポイントです。自分の子どもに限らず、そのような大きな決断を他の人にゆだねることはおすすめしません。

「離婚する」と決めただけでは離婚はできません。家はどうするか、離婚後はどこに住むか、親権はどうするか、仕事はどうするか……そんな現実的な選択が伴います。子どもに離婚するかどうかという人生の大事な決断をゆだねたあなたに、そういった現実的な数多くの問題に向き合っていくのは難しいと思います。

「来週、娘のバレエの発表会がある」からとDV通報を断った母親

「夫が私や子どもに暴言を言い、たまに暴力も振るうので悩んでいます。離婚したいのですが、私の実家に戻るとなると、子どもは転校しなければなりません。それでは子どもがかわいそうで離婚に踏み切れません・・・・」

子どもの生活環境を変えたくないから離婚できない__この相談、じつは少なくありません。

「子どもに手をあげているのに、なぜ家を出ないの? 理解できない!」と思う方が多いと思いますが、いざ当事者になってしまうと、「せっかく受験して入った小学校なのに、友達と離れさせるのはかわいそう」「気に入っている習い事をやめざるをえない」といったことが気になりだし、決意できなくなるのです。


夫からのDVで大けがをして病院に来た妻に、医師が警察への通報を勧めたら、「来週、娘のバレエの発表会がある」と言って通報を断った……。そんな話も聞いたことがあります。
そのくらい、当事者になると、目の前のことが見えなくなるのです。

私の経験上、虐待受けてきた子どもは、将来自分の家庭を持った時に、家族に同じことをしてしまうことが多いです。
また、自分の配偶者や子どもに虐待をする人は、自分も親に同じことをされてきた経験があることが多いです。
つまり、虐待は世代を超えて連鎖してしまうのです。

・家で暴力・暴言を受けながら今の学校に通い続ける。
・一時的にはつらいかもしれないけど、転校して暴力・暴言から解放される。

ふたつを比較して、どちらが子どものためになるでしょうか?
夫に暴言や暴力はやめてほしいと必死で伝えたり、時にはカウンセリングを勧めたりといった方法を試して、それでも状況が変わらないのであれば、子どもを守るためにも暴力から避難することを勧めます。

お母さん、やっと、わかってくれたの?

子どもの転校は、親にとっても子どもにとっても、大きい問題です。
しかし、私が見てきたケースにおいては、「お父さんと別れるから引っ越すよ」と伝えると、子どもは今までの苦しみから逃れたい気持ちもあり、みんな受け入れていました。
中には、「やっとお母さんわかってくれたの?」と言った子どももいました。子どもは口に出せないだけで、「お母さんはどうして助けてくれないんだろう?」「どうして自分を叩いている父親から離れないんだろう」と悩んでいることもあるのです。

実際、転校すると、明るくなる子が多いです。家庭内の環境が落ち着くと、学校でも生き生きと暮らせるようになるのだと思います。

もっとも優先すべきは、子どもが落ち着いて暮らせる環境を整えることです。そのためには、親が勝手に「◯◯はかわいそう」と思いすぎないことが大事だと思います。

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記事監修

堀井亜生(ほりい・あおい)/弁護士。
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。
離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。
『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『モラハラ夫と食洗機』(小学館)『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)などがある。
堀井亜生/著|小学館|1,430円

3時間を超える説教、一瞬の休憩も許されない家事地獄、エアコン禁止で死の恐怖に襲われた夏、夢見た新居はなぜか「空っぽ」………こんな夫からのモラハラ事例が、本書には15例も登場します。そして
・妻が別れを決意した〔モラハラの実態〕と具体的な希望、
・それらを踏まえた〔別れるための戦略〕、
・モラハラ夫が生まれてしまった理由や背景を探る〔分析〕
――が、2000件を超える離婚・恋愛トラブルを扱ってきた弁護士だからこその視点と説得力で語られます。

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