子どもに夫へ「不倫をやめて」と言わせたい
「夫が不倫をしています。やめてほしいのですが、私からではなく、子どもからやめるように言わせる方が効果的でしょうか?」
不倫を知った妻からの相談で、この質問はよく出てきます。
しかし、この方法はおすすめしません。
妻としては、「子どもから言われれば良心が痛み、不倫をやめるだろう」という考えだと思うのですが、つらいことを言わされる子どもの身になって考えてみてほしいと思います。将来への心身の影響まで考えて行動することをおすすめします。
不倫に限らず、子どもを両親の問題に直接的に巻き込むのはよくありません。
子どもは未熟です。大人ほど物事の判断がつきません。また、両親ともに大事な存在と思っているので、父親に裏切られていると知るだけでもつらいのに、さらにその父親を責めなければならないなんて、子どもの心には大きな傷がついてしまいます。
事案をかかえるなかで不倫をした人の言い分を聞く機会がありますが、原因はもっぱら配偶者との関係で、「子どもはかわいいが配偶者には愛情がない」と答えます。子どもの存在を忘れていたから不倫に至った、というわけではないのです。つまり、不倫をする人にとって、子どもの存在云々はあまり関係がないのです。
弁護士が考える「不倫をやめさせる確実な方法」
子どもに言わせたいと思う背景には、自分が言っても聞かないだろうから、という考えもあるのかもしれません。
どうせ夫は自分の意見に耳を傾けるはずはない。だから子どもや第三者に言ってもらいたくなる……。中には、私(弁護士)から不倫をやめるように言ってほしい、と相談に来る方もいます。
しかし、問題は、意見を聞かないような夫婦関係や、不倫をしてしまう夫の性格面にあります。そこに目を背けて子どもに言わせても、効果は見込めません。
中には、夫と不倫相手を呼び出して、自分と子どもたちで二人を責める、という手段に出た妻もいました。これでは、子どもを修羅場に巻き込み、本来無関係であった子どもを不倫問題の当事者にしてしまいます。
こんな経験をさせてしまうと、現在だけでなく、将来にも大きく影響が出てしまうのは容易に想像がつくでしょう。だから私は、子どもを当事者にするのは避けた方がよいとお話しするようにしています。たとえここまで大ごとにしたところで、夫が不倫をやめるとは限りません。子どもを巻き込んだと怒り、いっそう家庭を顧みなくなるだけ…という可能性の方が大きいのです。
不倫をやめさせる確実な方法というものはあるのでしょうか。不倫をするかどうかは当事者の倫理観や家族観、夫婦関係によるものなので、〝確実な〟方法というのは、ないように思います。
私の経験上、効果があったと思われる方法は、夫婦で向き合い、話し合いをすることです。どういう不満があって不倫をしてしまったのかを聞き、「不倫は悪いことだからやめてほしい」と言うのではなく、「つらいからやめてほしい」と素直な気持ちを伝えることが大事です。他人に言わせる、不倫相手を訴えるだけでは夫は反省しません。
誰にどう言わせるかをあれこれ気を回して考えがちですが、一番大事なのは、自分の口できちんと伝えることです。
不倫は夫婦の問題なので、あくまで夫婦で話し合って、その後の家庭生活をどうするかを考えることをおすすめします。
「ひどいパパだね」の裏に隠された子どもの本音
「夫の不倫が原因で離婚することになりました。5歳の息子の親権は私が持ちます。息子には両親がなぜ離婚したのかわかっておいて欲しいので、夫の不倫のことを話してよいでしょうか?」
おすすめしません。
夫の不倫を子どもに詳しく伝えたいという妻は、実は少なくありません。私に連絡をくださる際に「どのように伝えたらいいのか教えてほしい」とおっしゃるので、そもそも子どもに話をするのが前提なのでしょう。
しかし、私はおすすめしません。それが子どもの成長や将来に大きく影響してしまうからです。
配偶者に不倫をされた方は、とても傷つきます。一生傷が癒えないという方もいます。
しかし、子どもに父親の不倫について詳しく教え込むのは、その痛みを子どもに分け与えるのと同じ行為だと私は思います。
ひどい不倫をした親でも、子どもにとっては親ですから、100%憎み切れるものではないということをまず忘れないでいただきたいです。
中には、「あなたのお父さんの不倫のせいで離婚したのよ。不倫した相手の女性はね……」と、まだ小学校にも上がっていない子どもに詳しく教えてしまう人もいます。
「父親に裏切られた」と聞くのは、子どもにとっては自分のルーツを否定されるのとイコールです。その内容が詳しければ詳しいほど、とてもつらい気持ちになります。
表面上は「ママを傷つけるなんてひどいパパだね」と言っていたとしても、それはあくまで母親を喜ばせるために言っている可能性があり、つらい、できれば聞きたくない、が本音かもしれません。
弁護士が提案「子どもに離婚の理由を伝える」具体的な言葉とは
それでも言い続けるとどうなるでしょうか。子どもの心身に影響が出てしまいます。
両親の愛情が薄れて離婚してしまったという事実は変えることができませんが、片方の親を憎み続けるというのは、子どもの自己肯定感をさらに失わせてしまう行為です。
もちろん、結婚している両親が片方のちょっとした不満を子どもに漏らすことはよくあるでしょう。しかし、親がどのようにして自分を裏切ったかを聞かされ続けることは、子どもにとっては、自分の足元を削られ続けるような経験です。心身が不安定になってしまうのも無理はありません。学校に行けなくなる、無気力になる、攻撃的になるといった影響が出てしまった子を、弁護士としてたくさん見てきました。
中には、不倫した夫を責める言葉を子どもに言い続け、子どもが体調を崩し、そのことを理由にさらに夫を責め、それをまた子どもに見せつける……という人がいます。こうなるともはや、不倫そのもの以上に子どもの成長に影響を与えているといってよいでしょう。
つらいので誰かに相談したい、夫の悪口を言いたい、聞いてもらいたい、という気持ちはとてもよくわかります。実際、一人で抱え込まずに相談相手がいる人の方が早く前を向いて立ち直ることができます。しかし、その相手は子どもではないということだけは理解していただきたいのです。
では具体的に、離婚をどのように子どもに伝えるとよいでしょうか。
「父親が不倫をしたから」という具体的なことは言わず、「ママとパパは仲が悪くなっちゃった、でもあなたのことは二人とも大事に思ってるよ」という程度にとどめるのがよいでしょう。
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記事監修
堀井亜生(ほりい・あおい)/弁護士。
『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『モラハラ夫と食洗機』(小学館)『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)などがある。
3時間を超える説教、一瞬の休憩も許されない家事地獄、エアコン禁止で死の恐怖に襲われた夏、夢見た新居はなぜか「空っぽ」………こんな夫からのモラハラ事例が、本書には15例も登場します。そして
・妻が別れを決意した〔モラハラの実態〕と具体的な希望、
・それらを踏まえた〔別れるための戦略〕、
・モラハラ夫が生まれてしまった理由や背景を探る〔分析〕
――が、2000件を超える離婚・恋愛トラブルを扱ってきた弁護士だからこその視点と説得力で語られます。