【エセSDGsモラハラ夫】「暑いよ~」と訴える子どもに、汗だくで「エアコンは地球を壊す」と怒鳴る地獄絵図!

不倫や暴力に代わり、年々増え続ける「モラハラ離婚」。時代は変わったと言われても、女性に対して、自分のこだわりを執拗に押し付けてくる人はいます。それが結婚相手だとしたら・・・・・? 本記事は堀井弁護士の最新著書『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』の一部を抜粋・再編集し、死の恐怖におびえるほど悩んだ妻が堀井弁護士の戦略でどう離婚に至ったか、さらにどういう理由でモラハラ夫が生まれたのかにまで迫ります。

水道光熱費をチェックし、高いと環境に悪いと怒る〝エセSDGs夫〟

持続可能な社会のために、できることからコツコツと――と言えば聞こえは良いですが、実際のところ、中身はただのケチとマウント取りのハイブリッド。今回はそんなモラハラ夫のケースです。

保険会社勤務の夫とは、合コンで出会ったというL子さん(30歳)。知り合った当初から、夫は環境問題や社会問題について話すことが多く、普段ニュースを見たり新聞を読んだりする習慣のなかったL子さんは、さすが一流企業の人は博学で意識も高いと感心したそうです。

以前は派遣で事務員をしていましたが、結婚を機に家庭に入ることに。同居が始まると、夫はまずL子さんに光熱費の節約を言い渡しました。

「資源は無限ではない」を決まり文句に、使わない時には家電のコンセントを抜き、ペットボトルは洗って使い回し。夫いわく、ガソリンを使うと地球温暖化に影響があるらしく、夫の送迎以外の車の利用は厳禁。送迎時の運転も急発進や急ブレーキは絶対NGで、いかにガソリンを消費しないで運転するかを求められていたそうです。

風呂の残り湯を洗濯に使う夫のこだわりもL子さんには負担でした。毎月、水道光熱費をチェックし、高いと環境に悪いと怒られます。大変だと思いつつも、環境のためならと、夫に言われるままに過ごしていました。

まんが/ゆむい 『モラハラ夫と食洗機』より転載

本当の地獄は子どもが生まれてから始まった

夫婦で過ごす初めての夏。家事で汗をかくので、L子さんはエアコンを24度に設定していました。が、帰宅した夫はエアコンの設定温度を見て、「うちのエアコンには、27度以下のボタンは無いと思え」。それから「朝と夜は涼しいんだから、窓を開けて扇風機を使えばいい。そもそも人間の体には自然の風が一番なんだ」。L子さんは驚きましたが、環境問題を話し出すと長いので、黙って受け入れました。

ところが、本当の地獄は子どもが生まれてから始まりました。冬の寒い日、暖房が満足に使えず、寒さで子どもが風邪を引いたことがありました。かなりの高熱で、医者にかかろうにも車の使用許可はおりず、L子さんは子どもを抱っこして往復40 分かけて病院へ。

次の夏は猛暑でしたが、夫がいない昼間にエアコンを使いすぎると、電気料金でばれてしまいます。そのため、日が暮れるまで子どもと児童館やショッピングモールで過ごしたり、何かと理由をつけて実家に帰ったり、時には友人の家に避難したこともあったそうです。

このままだと子どもが熱中症で死ぬかも…

しかし、そのような逃げ場すらL子さんから奪ったのが、新型コロナウイルスの流行によるステイホーム期間です。夫は終日在宅勤務になり、朝から晩まで夫の監視下にある生活が始まりました。夫は本格的にエアコンの使用を禁止

どんなに暑くても「汗をかくのは代謝を高めるのでいいことだ!」と言って聞かず、暑さで子どもの意識がもうろうとしてきた時も、水分補給と扇風機と「自然の風」で乗り切ろうとしたと言います。「このままだと子どもが熱中症で死ぬかもしれない」とさすがに生命の危機を感じたL子さんは、一念発起して法律相談にやってきたのでした。

「とにかく、暑くて死にそうなんです」……これが、L子さんが真っ先に口にした言葉です。法律相談なのに体調不良を訴えるL子さんに、経緯を聞きました。L子さんの話によると、夫は何かにつけて「地球の環境が」「エコが」と言うけれど、いつも抽象的な話ばかり。L子さんが具体的なことを聞いても「だからお前はバカなんだ!」と怒鳴るだけで、ちっとも答えてはくれないそうです。さらに、この夫はゴミの分別には一切興味がなく、食べものも平気で残します。このことから、夫はただ知的ぶりたいだけで、真剣に環境のことを考えているわけではなさそうでした。

まんが/ゆむい 『モラハラ夫と食洗機』より転載

「ママ〜、暑いよ〜暑いよ〜」と訴える子どもに怒鳴り散らす夫の姿を録画!

実はこの時期、L子さんのようにエアコンの使用をめぐって夫婦関係が悪化したという相談をたくさん受けました。コロナ禍の在宅勤務で、退職後の夫婦に起きる問題が前倒しで起きることは予想していました。しかし、エアコンの問題として離婚相談が増えるとは思ってもみませんでした。

さて、夫の”エセSDGs”に気づいたL子さんは離婚を決意しました。離婚をゴールに据えてまず着手したのは、証拠集めです。夫が環境問題にうるさい、エアコンを使用させてくれないと言っても、なかなかその壮絶さは他人に伝わりません。

夫のモラハラ行為そのものの録画を撮ることにしました。汗だくになって「ママ〜、暑いよ〜暑いよ〜」と訴える子どもに、「エアコンをつけたら地球が壊れるぞ!」とこれまた汗だくになって怒鳴り散らす夫の姿。幸い夫は毎日家にいるので、このような証拠を集めることにさほど苦労はしませんでした。

証拠を押さえて家を出たL子さんは、離婚調停を申し立てました。夫は「両親が揃っていないと子どもの発育に悪影響がある」と、子どもの命を危険にさらしたことは棚に上げて、建前論を展開しました。そんな夫を黙らせたのが数々の証拠の動画でした。泣き叫ぶ子どもの姿は誰の目にもインパクトがあり、夫もそれ以上強く出てくることはありませんでした。当然ながら親権はL子さんに渡り、無事に離婚ができたのです。

地球環境を守ろうとした結果、家庭環境が壊れてしまった

この事例において、エアコンをめぐる話はとても印象深いエピソードです。しかし、調停や裁判で戦う際にそういった話題だけにフォーカスしてしまうのは失敗を招きかねません。なぜなら、「エアコンを禁じる」「地球環境にうるさい」というのは離婚の決め手に欠くからです。論より証拠、子どもにひどい言葉を浴びせ続ける夫の姿、場面そのものを押さえたほうが、夫婦関係の破綻を裏付けるためには有効打と言えます。

この夫も、悪人ではないのかもしれません。とにかく光熱費を安く抑えるのに必死で、四角四面なほどにまじめ。ただ、地球環境を守ろうとした結果、家庭環境が壊れてしまっては本末転倒、という事例でした。

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記事監修

堀井亜生(ほりい・あおい)|弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。
離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。
「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)などがある。

 

堀井亜生/著|小学館|1,430円

3時間を超える説教、一瞬の休憩も許されない家事地獄、エアコン禁止で死の恐怖に襲われた夏、夢見た新居はなぜか「空っぽ」………こんな夫からのモラハラ事例が、本書には15例も登場します。そして
・妻が別れを決意した〔モラハラの実態〕と具体的な希望、
・それらを踏まえた〔別れるための戦略〕、
・モラハラ夫が生まれてしまった理由や背景を探る〔分析〕
――が、2000件を超える離婚・恋愛トラブルを扱ってきた弁護士だからこその視点と説得力で語られます。

文・構成/小学館出版局生活編集室

 

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