中学受験をしない小学生の英語学習、どこまでやっておくといい? 【J PREP 斉藤代表に聞く】「フォニックスと多読」のすすめ

中学受験組の塾の忙しさに比べれば、時間の余裕がある「受験しない組」の子どもたち。小さい頃から英語教室に通ったり、家で教材を使って英語学習をしたりする場合もあれば、英語は学校の授業だけという子もいるでしょう。親としては「中学に進学するまで、どのような英語学習をしておくといいのか」気になるところです。引き続き、斉藤淳先生に聞きました。

受験勉強がないぶん、子どもは英語学習を続けられる

――低学年から英語教室に通っている場合、このまま続けていればいいのでしょうか?

英語に限らず学習全般にいえることですが、「子どもが楽しんで取り組んでいる」ことがなによりも大事です。そして、その環境を作ってあげるのが大人の役目だと思います。

中学受験をしないことで高学年でも時間のゆとりがあるのなら、まずは今の英語学習は子どもが楽しむ内容になっているかをよく観察してほしいですね。低学年から通い始めた英語教室で今も意欲的に学んでいるのであれば、やめる理由はないでしょう。「おうち英語」の場合も同じです。まずは楽しんでいるかどうか、です。

ただ、高学年までに一度もフォニックスをやってこなかったのであれば、この期間のうちに「フォニックスからスタート」することを強くおすすめします。もし英語教室に行くのなら、フォニックスをきちんとやってくれるところを選んでほしいです。

「ネイティブよりフォニックス」が英語上達の近道

「親世代が学んでいないことが多いフォニックスが、英語力をつける上で何より重要です」

――ネイティブの先生がいる英語教室なら安心してもよいのでしょうか?

ネイティブだからといって全員がフォニックスの指導法をマスターしているとは限りません。日本人講師でもフォニックスを学び、しっかり教えてくれるのなら、そちらの教室のほうがはるかにいいでしょう。

大人は「ネイティブ講師が教える英語教室でないと意味がない」などと考えがちですが、「ネイティブよりフォニックス」です。

親世代の多くが学んでいない「フォニックス」の重要性

――親が中学生のころはフォニックスという学習法を知らなかったので、じつはよくわかりません。そんなに大事なのでしょうか?

はい、とても大事です。フォニックスは「英語の音と文字の関係性」を学ぶ学習法で、「だれでも英語学習の最初に学ぶべき」というのが私の考えです。実際、英米の小学校では母国語(英語)の授業はフォニックスから始めます。結局は一番効率的で効果的ということが広く認められているからです。

アルファベットを「正しく」読むことから始まるフォニックスは、繰り返し練習することで、単語や文章を正しく「読める」「発音できる」「聞ける」「書ける」の4技能がバランスよく育ちます。

少し詳しくいうと、英語には特有の短母音、長母音の発音があり(たとえば「A」についていえば、「ア」と読むのが短母音、「エイ」と読むのが長母音です)、単語のなかのアルファベットの並び方によって、短母音と長母音のどちらで読むかが変わります。また日本語は母音が5つ(アイウエオ)しかありませんが、英語は「ア」と聞こえる音だけでも5種類。母音の数は全部で20種類もあるのです。

それらの区別を正しくできなければ「相手に伝わる英語」「相手の言葉を瞬時に理解できる英語」の力は身につきません。フォニックスを学ぶことで、文字と音の規則性や日本語にはない英語の音を出す仕組みを理解し、何度も声に出して慣れていくのが、結局は一番上達する早道になります。

家庭でのフォニックス学習

「家庭での英語学習がうまくいくコツは、子どもの努力を認める姿勢を持つことです」

――英語教室に行かない場合はどうしたらいい? 親は家で子どもにフォニックスを教えられないのですが……。

そうですね。親は自分ができないことを子どもに教える必要はありません。今はYouTubeなどで無料の音声動画がいくらでもありますし、音声付きの教材もたくさんありますので、まずはそこから気軽に始めてみてはいかがでしょう。

親世代はフォニックスに馴染みがないことも多いので、ぜひ「子どもといっしょに」取り組んでみてください。私は「親が子どもといっしょに学ぶ姿勢を見せること」がとても大事だと思っています。英語が苦手な親こそ「英語を学ぶのって楽しいね」という雰囲気を作ることがよい環境作りの第一歩。子どもも、できないなりに親が努力している姿を見れば反発しないでしょう。

――いっしょにフォニックスを始めるときに注意することは?

間違いなく子どものほうが上達は早いはずです。でもそこで親が「私はできないけどあなたはやりなさい」と自分ができないことを子どもに押し付けるのではなく、「この発音難しいね」「すごい、ネイティブみたいだね」などと話して、子どもの努力を認める気持ちが大切だと思います。子どもを褒めながら、自分も努力することで英語の難しさを実感できるでしょう。

ーーそうすれば子どもを叱らなくなるし、親子関係も良くなって一石二鳥ですね。

少し慣れてきたら、親が英字新聞や英語で書かれた雑誌を読んだりするのもおすすめです。もちろん辞書を引きながらで構いません。YouTubeでBBCニュースを流してもいいでしょう。英語に興味をもって楽しく触れている親の姿を見て、子どももやる気が出る。そんな好循環ができたら大成功です。

フォニックスと「多読」の二本立てがおすすめ

初心者向けの多読リーダー本「 I Can Read!」シリーズ(左)や中高生向けの「Cambridge Discovery Readers」(右)など、レベルに合った本を音読するのがおすすめ。

――フォニックスだけやればいいですか?

フォニックスになれてきたら、並行して、「多読」をすることをすすめます。英語で書かれたストーリーをたくさん読むことで語彙も増え、英語の理解がさらに深まるからです。もちろん子どものレベルにあった英語の本を選んであげましょう。絵本から始まって、少しずつレベルを上げていけるといいですね。

たとえばアメリカ・Harper Collins社の「I Can Read」シリーズは英語初心者や子ども向きです。イギリス・ケンブリッジ大学出版の「Cambridge English Readers」シリーズも、初心者から上級者までレベル別でオリジナルのストーリーを展開しています。どちらもオンラインで購入することができます。

英検取得は目的化せず、あくまで実力の目安として

「親が英検をとらせることに執着して、子どもが英語嫌いになってしまったら元も子もありません」

――受験しないぶん、英検はとらせたいと思っていますが……。

「英検〇級」はあくまでも実力の目安として考えるべきものです。子どもにチャレンジしたい気持ちがあれば問題ありません。しかし「6年生までに英検3級は取りなさい」などと親の考えだけで子どもに英語学習を無理強いするのは「百害あって一利なし」です。子どもの実力の目安を知りたいなら、「英検〇級問題集」を一冊やらせてみればわかりますし、それで十分なのではと思いますね。

そもそも英検3級は「中学卒業程度の英語力」が求められる試験です。「小学生のうちに」と焦る必要はどこにもありません。親に気持ちの余裕がないと、子どもに英検をとらせることや英語を話せることに執着して、英語学習を急かしてしまいがち。それで子どもが英語嫌いになってしまったら元も子もありません。

――最近、さまざまな英語アプリが出回っているけど、使ってもいいのでしょうか?

発音の矯正や英作文の添削をしてくれるアプリは便利ですね。使ってもいいと思います。ただし作文はキーボード入力することや、正しく指示しないと正しく添削してくれないことがあるので、子どもにはハードルが高いかもしれませんね。

今の英語教育では「使える英語力」が重視されている

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――子どもの英語を取り巻く環境は、親の学生のころと様変わりしています。親が今の英語教育について、知っておくべきことは?

まず、親の学生時代の受験英語は、複雑で長い英文の構文を紐解いて「意味を答える問題」が多かったということです。教科書の文章を「訳す」のが予習で、授業でその解説を聞くということが多かったのでは?

でも今は違います。「英語を使う能力があるか」が問われるようになっているのです。たとえばグループディスカッションでモデレーションをさせて、参加者の発言を再現したり、まとめたりする力があるかどうか、といった力です。なので音読して、伝わる発音ができることのほうがはるかに大事になっています。

英単語をたくさん覚えるとか、長文の1つ1つをきちんと和訳することが英語学習だという思い込みは改めたほうがよさそうです。

今の英語教育事情を知ることは大事ですが「やはり、まずは英会話をできるようにさせなきゃ」ということではありません。小学生のうちは、とにかく子どもが楽しいと思える英語学習の環境作りが大事です。「フォニックス」と「多読」を意識して、親子でいっしょに、無理のない英語学習を続けてほしいですね。

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お話を伺ったのは

斉藤 淳 J PREP代表

さいとう・じゅん 上智大学外国語学部英語学科卒業。元イェール大学助教授、高麗大学客員教授などを歴任し帰国。2012年、世界のトップ大学で通用する英語の総合力を養成する英語塾「J PREP斉藤塾」を立ち上げる。J PREPでは、話す、書く、読む、聴く、これらの総合的な英語力と教養を同時に習得するカリキュラムを提供し、多くの生徒の英語教育をサポート。『ほんとうに頭がよくなる世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)、『斉藤先生! 小学生からの英語教育、親は一体何をすればよいですか?』(アルク)など著書多数。近著に『1億人の英語習得法』(SBクリエイティブ)。

取材・文/船木麻里 撮影/廣江雅美

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