トップアイドルから実力派俳優への階段を登っていく中島健人
トップアイドルとしてスポットライトを浴びてきたSexy Zoneの中島健人。近年、俳優としても様々なドラマや映画で存在感を発揮してきましたが、最新主演映画『おまえの罪を自白しろ』では、ジリジリと追い詰められていく主人公役で、新たな一面を見せてくれました。
原作は、江戸川乱歩賞など、数々の賞を受賞してきた社会派ミステリーのヒットメーカー、真保裕一の同名小説。なるほど、一筋縄ではいかないいろんな仕掛けが張り巡らされた予断を許さないストーリー展開となっています。
メガホンをとったのは、映画『舞妓Haaaan!!!』(07)や「ゆとりですがなにか」シリーズのドラマや映画など、コメディや青春群像劇から、「Mother」(10)や「Woman」(13)などの社会派ドラマまで、多くのヒット作を生み出してきた水田伸生監督です。どんなジャンルであれ、揺れ動く人間の心のあやを丁寧に描けるオールラウンダーな監督なので、本作も大いに期待してください。
中島健人自身のカリスマ性が光る役柄が説得力大!
俳優・中島健人といえば、やはりアイドルなので、主演映画『黒崎くんの言いなりになんてならない』(16)や『ニセコイ』(18)などのラブストーリーでキラキラした主役を演じているパブリックイメージが強いのではないかと。でも、近年の中島さんは、もう一歩、俳優として違うステージに上がろうとしている気がします。
そういう覚悟を感じたというか、中島さんがある意味、腹をくくった印象を受けたのは、二宮和也主演の戦争映画『ラーゲリより愛を込めて』(22)で演じた抑留者・新谷健雄役でした。同役に挑んだ中島さんは、なんと丸刈りにし(ウィッグとかではない!)、アイドルの輝かしいオーラを見事に完全封印していて、思わずのけぞりました。劇中で犬とたわむれる中島さんの笑顔が本当に素晴らしくて、心が洗われたことを覚えています。
おそらく二宮さんをはじめ、多くの先輩たちの背中を見てきた中島さんは、ポテンシャルの高さはもとより、人一倍、多くのものを先陣たちから吸収してきたはず。中島さんは向上心だけではなく、陰ながら努力もしてきたはずなので、今後の伸びしろはハンパないなと以前から思っておりました。そんな中、トライしたのが『おまえの罪を自白しろ』です。
本作で中島さんが演じるのは、政治家一家である宇田家の次男、宇田晄司役。彼は、数々の疑惑がささやかれる内閣府副大臣の父、宇田清治郎(堤真一)の秘書を務めています。ある日、一家の長女、麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐されますが、犯人からの要求は身代金ではなく「これまでに政治家として犯した罪をすべて自白しろ」という清治郎への脅迫でした。
自身の地位と権力に固執し、口を閉ざす父に真っ向から対立していく晄司。その後、事態は警察やマスコミ、国民までをも巻き込む壮大な事件となっていき、晄司と清治郎は、究極の選択を迫られることに。
中島さんは、『おまえの罪を自白しろ』で、これまでにない社会派サスペンスの主演に挑みました。きっと彼にとっては、また新たなハードルを超える作品となったのではないかと。実際に今回は『ラーゲリより愛を込めて』とは違う意味で、面白く拝見しました。
とても大きな重圧を受ける晄司役に、中島さん本来の人間力が反映されていた気がしたんです。晄司は政治家一家の次男といういわばサラブレッドですが、これまで人間として真っ当な生き方をしてきた人なので、どうにもこうにも父・清治郎の不正を見過ごすことができません。だからこそ、信念を貫き通そうとします。
そういう心の葛藤や変化が、これまでトップアイドルとして期待をかけられ、時には底しれぬプレッシャーと闘ってきた中島さんの経験値と重なっている気がします。そこが自然とのっかったからこそ、役に説得力が加わったことは間違いないです。
堤真一が体現した、1人の政治家としての“正義”
本作で人間ドラマが深みを帯びているのは、堤さん演じる清治郎なりの正義もきちんと描かれているからかと。政治家として汚い仕事を率先してやってきたという清治郎の人となりをちゃんと掘り下げることは、物語においてかなり重要なポイントです。
どんな組織でも、リーダーに魅力がなければ、絶対に人はついていきません。それは古代からの鉄則かと。そこの描き込みが浅いと、ドラマもおそまつになってしまいますが、“堤真一”という確固たる大きな柱を据えることで、清治郎の“正義”がきちんと成立しています。
加えて、初共演となったベテラン俳優の堤さんから、きっとたくさんの刺激を受けたであろう中島さんの今後にも大いに期待したいなと思いました。
繰り返しますが、本作は真保裕一原作のサスペンス映画なので、いくつか仕掛けがあって、後半では「おおっ!」と驚く展開も用意されています。中島さん、堤さん以外にも、豪華キャストのアンサンブルが隅々まで見応えがありますし、それぞれの見せ場もバッチリあります。おっと!ネタバレは避けたいので、そこは深くツッコみませんので、ぜひスクリーンで確認してください!
個人的には、『おまえの罪を自白しろ』というタイトルに、真保さんの絶妙なセンスを感じます。劇中で描かれるのは、いわゆる大きな組織における“忖度”についてのエピソードですが、まさに時代を反映していて、地続きな脅威に思わずゾッとします(苦笑)。
映画については、時折「まさに今、公開されるべき映画だ」と、時代に呼び寄せられたかのタイミングでお披露目される作品がありますが、本作もその1本ではないかと。実際に、劇中の様々な台詞が心に刺さる映画になっていると思います。だからぜひ、大人だけではなく、お子さんを含め、幅広い世代に観ていただきいたいです!
文・構成/山崎伸子
監督:水田伸生 原作:真保裕一「おまえの罪を自白しろ」(文春文庫刊)
出演:中島健人、堤真一、池田エライザ、山崎育三郎、中島歩、美波、尾野真千子、金田明夫、角野卓造…ほか
公式HP:movies.shochiku.co.jp/omaenotsumi/
©2023『おまえの罪を自白しろ』製作委員会