タマゴタケに一目ぼれし、研究を続けた6年間
蒼空さんは小学1年生から継続してきのこについての研究をしており、今回のレポートは6年間の総まとめ(書き始めたのは4年生から)。
1年生のときから始めた「自分で見つけたきのこのオリジナル図鑑」と「きのこを使った料理のレシピ集」は6年間でなんと12冊。まさにローマは1日にして成らずの力作で、継続力にびっくり! タマゴタケにまつわるエピソードや自由研究で工夫したことなどを小林さん親子から教えてもらいました。
シイタケ狩りがきっかけできのこ好きに
-タマゴタケを好きになったきっかけは何ですか?
蒼空さん:3歳のとき、私の偏食をなおすために、両親がきのこ狩りに連れていってくれました。そのとき見たシイタケがかわいいしおいしくて、きのこの沼にはまりました。当時住んでいた家の庭にもきのこが生えていたので、いつも楽しみに見ていました。
タマゴタケを初めてみたのは図鑑です。「なんだこの赤いきのこは?」と興味を持ちました。探してみましたがなかなか見つからず、小学1年生のときにようやく発見。タマゴタケはかわいくて、一目ぼれしてしまいました。食べてもすごくおいしく、ますます好きになりました。
タマゴタケの分離培養に成功!
タマゴタケは生きた植物と共生し、お互いに栄養を交換しあっているきのこ(菌根菌)のため、人工栽培は難しいと言われています。しかし、大好きなタマゴタケがスーパーで買えるようになってほしいという思いから、蒼空さんの栽培へのチャレンジが始まりました。
1年生のときは、よくわからずにタマゴタケの幼菌を植木鉢に植えたところ、すぐに腐ってしまったそう。そこで蒼空さんは詳しく研究をし、滅菌状態の中での分離培養(組織の一部を人工的に増殖させる)を目指したそうです。
-自由研究で苦労したことは何ですか?
雑菌が入らないよう、家の中にテントを張って実験
蒼空さん:分離培養の実験中は、自分の手の菌が混入しないように、シャーレの開け方ひとつとっても細心の注意を払いました。それでも雑菌が入って、何度も失敗してしまいました。家の中にテントを張ってホコリが落ちないようにしたり、トイレの中でも実験しましたが失敗。
そこで、お母さんと一緒にきのこの専門家の先生にお願いし、実験のアドバイスを頂くとともにクリーンベンチ(清潔レベルを管理された作業台)を使わせてもらいました。そして5年生の秋にはついにタマゴタケの分離培養に成功。先生にはとても感謝しています。
タマゴタケを探しに家族で車中泊も
蒼空さん:そのほかに苦労したのは、タマゴタケ自体を探すのが難しくなったことです。近年気温が高く、雨があまり降らないからではないかと考えています。
インターネットでタマゴタケの生えている場所を調べ、遠いところは父が運転をしてくれ、家族で車中泊をして探します。きのこシーズン中は天気予報を確認し、きのこ探しに適した天気の休日にはいつでも行けるように準備していました。
専門用語を自分の言葉で表現
-レポートの完成度がとても高いのですが、工夫したことはありますか?
蒼空さん:自分の知らない専門用語を先生から聞いたときには、自分の言葉に変えて表現することを心がけました。わからない用語はその場でメモをし、その場で聞けるものは聞いたり、後でネット検索をしたりしました。
表現を工夫して書いたレポートを見た友達から「わかりやすかった」と言われた時は、苦労してでも自分の言葉で表現してよかったと思いました。
蒼空さんのお母さん:娘は、きのこ探しは好きなのですが、レポートを書くのがあまり好きでありません。まして、手書きで文章を書くと、消したり書き直したりと大変なので、パソコンでの作成方法を教えました。このレポートはパワーポイントで作成していますが、今では、写真を切ったり貼ったりも自在にやっているようです。
最近は、私が娘にどうやったのと聞くことも。また、きのこを研究している先輩のアドバイスで、話し言葉でなくきちんとした文章でレポートを書くように伝えました。
筆者がパワーポイントを初めて使ったのが大学4年生のとき。蒼空さんのレポートのレイアウトは見やすく、わかりやすいですね。
いつかタマゴタケの人工栽培を実現したい!
-将来の夢を教えてください
蒼空さん:今、タマゴタケの培養した菌糸をドングリの苗木に植え付け、菌根形成の成功を目指しています。これからも研究を続け、タマゴタケの人工栽培を実現できたらと思います。
きのこはカロリーが少なくて食物繊維がいっぱいの腸内環境を整えてくれるスーパーフードで、地球環境を守ってくれている優秀な存在なので、もっと注目されるとうれしいです。
子どものやりたいことに制限をかけず、親も一緒に楽しむ気持ちで
とにかく一緒にきのこ探しを楽しむ!
-親御さんはどのようなサポートされましたか?
蒼空さんのお母さん:娘のきのこ好きが始まった3歳のときから、一緒にワクワクしながらきのこ探しをするようにしてきました。本当は虫も苦手ですし、山の中でのきのこ探しは戸惑うことも多くありましたが、最近はきのこ見つけて一緒にかわいいと言えるようになりましたし、食べることも楽しみになりました。
興味を持ったときを逃さないように
蒼空さんのお母さん:「分離培養なんて、もう少し大きくなってから」と思っていると、その頃にはタマゴタケ栽培に興味がなくなってしまうかもしれません。まだ小さいから無理と思うのではなく、今を逃さないようにしました。未就学児でも包丁を持ってお料理体験をすることがあるそうですし、小学生が分離培養をやっても良いと思っています。「まだ無理」と言わずチャレンジが止まらないようにしていますね。
大変なときは研究の助手も
蒼空さんのお母さん:シーズンには、夜に家を出発し、車中泊をして朝からきのこを探し始めます。帰宅後の新鮮なうちに分離培養し、残りを自分で料理し、その後データに残す作業までするとなると大変です。娘が疲れているときは、夫と私がサポートスタッフとして、やった事のデータを残す作業まではできるようにしています。
また、最も大切なサポートは安全面です。過去にはヤマビルにかまれたり、エゾシカに威嚇されたりと、怖い思いをしたことも。最近は熊も出てきていますので、安全対策をさらに学びたいと思ってます。
親の本気のサポートで、子どもの成長が加速
インタビューを通じて、親御さんの本気のサポートにより、小学生では無理と言われていることも、蒼空さんのようにできるかもしれないと思いました。
筆者も子どもをサポートしたいという気持ちはありますが、どこまで本気なのだろうかと問いかけています。「めんどくさい」「お金がかかる」といった理由で、子どものやりたい気持ちにふたをしていたかもしれません。また、子どもが安心感を持つために、親がサポートする意思を明確に示すことが大切だと教えられました。
蒼空さんがタマゴタケの人工栽培を実現させ、スーパーマーケットに並んだタマゴタケを食べるのを楽しみにしています。
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取材・文/峯あきら