歯は自由研究のテーマに最適
夏休みの自由研究と言えば、天気の記録や植物の栽培記録、図画や工作などが定番の題材です(図1)。

しかし、せっかくするからには実際に役立って、かつ難しくないテーマがあればいいですよね。そこでおすすめなのが、「歯」。実は、図1の人気テーマのトップ5を網羅する優れた題材なのです。
歯は身近なのに意外に知らないことも多く、調べるほど奥深くて新たな発見があるはずです。しかも、毎日の生活に直結して将来の健康にも関わる重要なテーマでもあります。
では、歯を自由研究のテーマにするメリットを具体的に挙げていきましょう。
メリット1:特別な物の準備が必要ない
歯は食事や会話、表情作りなど日常生活に不可欠であり、口を開ければ鏡ですぐに見ることができる非常に身近な存在です。観察や記録がしやすいため、低学年から高学年まで幅広く実践できます。
メリット2:観察や記録、考察など研究の過程が分かりやすい
自由研究に必要な過程(仮説→調査→結果→考察)を無理なく実行でき、理科的だけでなく保健学的、芸術的などの立場で、様々な観点からアプローチできるのも大きな利点です。
メリット3:保護者や学校、歯科医との協力も得やすい
健康に関するテーマなので大人の協力も得やすく、コミュニケーションのきっかけにもなります。
メリット4:楽しみながら健康につながる研究ができる
歯は大きさでは身体の中で小さな存在ですが、その果たす役割は大きく、そんな歯の魅力は子どもたちの知的好奇心を刺激しますし、さらに健康にもつながって一石二鳥です。
実験編:研究を進めるステップとは?

実験を行う自由研究の一般的な進め方について、段階ごとに内容をまとめましたので、参考にしてください。
ステップ1:テーマや調べたいことを決める
自分の興味や普段から疑問に思っていることなどについて、学校の学年や年齢に合った無理のないテーマを選びましょう。
ステップ2:結果を予想し、仮説を立てる
「〇は×より歯が溶けるのでは?」など、自分の仮説を理由とともに書き出すことから始めましょう。
ステップ3:調べる方法(観察・実験など)と計画を立てる
材料や道具、資料を準備して、実際の実験をスタートします。
実験の内容により、時間ごとや日ごとの記録を写真とメモなどで残しておくことも大切です。
ステップ4:結果を整理して考察する
実験で分かったことを書き出してグラフや表にまとめ、結果に至った理由やメカニズムを考えましょう。
ステップ5:まとめて発表作品を作る
自由研究ノートや模造紙などにまとめます。イラストや写真を入れて、見やすく仕上げるようにしましょう。見る人の立場になって、分かりやすいことを意識して作成するのがポイントです。
実際に、歯に関する実験をやってみよう!
具体的な実験のテーマを、いくつか提案してみました。

歯は酸でどんな風に溶けるの?
虫歯菌が産生する酸で歯が溶かされ、虫歯ができる過程を実験します。
歯の代わりとして、歯と同じカルシウムを含む石灰質である卵の殻を利用し、虫歯菌の酸の代わりとしてpHの酸性度が高いお酢やスポーツドリンクなどの液体を使います。
これらの液体に卵の殻を浸すと、数日後には、柔らくなった(あるいは消失した)殻を観察することができます。比較対象として、水やお茶などのpHが中性域にある液体を使うことも大切です。(関連記事はこちら≪)
卵の状態も、生卵・ゆで卵のまるごと、ゆで卵のむいた殻のみなど、いろいろと試してみてください。卵の殻の内面には薄い被膜が付着していますので、その有無でどう変化があるかも比較しましょう。
液体を水で薄めて異なる濃度の酸を作れば、比較対象をさらに増やすことができます。

歯の着色は、飲み物によって違うの?
卵の殻をコーヒーや紅茶、スポーツドリンクなどに浸して数日間、観察します。毎日の変化を写真で記録すると、より変化が分かりやすいでしょう。(関連記事はこちら≪)
飲み物による着色のしやすさの違いを知り、着色を防ぐ工夫(歯磨き方法や歯磨剤の使用など)も考えてみてください。
周りの音の環境で、味覚はどう変わる?
音のクロスモーダル現象で味覚は影響を受けるため、流行りのポップス、クラシック音楽、自然音などの異なる音を聴きながら特定の食べ物を食べ比べしてみましょう。(関連記事はこちら≪)
ただし、食べ過ぎには気を付け、食べた後の歯磨きを十分に行うなど、虫歯予防対策は怠らないようにしてください。
苦手なピーマンを、美味しく食べることができる音に出合えるかもしれませんね。
いろいろな歯ブラシを比べてみよう
歯ブラシの形や硬さの違いによって、汚れの落ち方に違いがあるかを調べてみましょう。
同じ条件で色を塗った卵を、毛の硬さや形の違う歯ブラシで磨いて汚れの落ち具合を比較してください。
図2は2021年に日本歯科大学のグループが行った研究結果ですが、異なる形や大きさの歯ブラシで歯垢(プラーク)の除去率を比較したところ、統計学に有意の差があることが明らかにされています。
自分に合う歯ブラシ選びのポイントを考察することができ、歯磨きに対するモチベーションも高まるでしょう。

歯磨剤の成分の役割を調べてみよう
歯磨剤に含まれる成分(フッ素、研磨剤、発泡剤など)の役割を学びましょう。
複数の商品でパッケージに記載された成分表示を調べ、成分の有無で汚れの落ち方や使用感の違いを比べてみましょう。(関連記事はこちら≪)
自由研究は、保護者のサポートも大切
自由研究は子どもの自主性を尊重することが基本ですが、保護者のサポートが重要であるとも言えるでしょう。
特に実験を行う研究では、保護者のサポートで、より効率的に進めることができ、実験結果に対する考察や発表作品の製作もしやすくなります。特に小学校低学年の子どもには、しっかりアドバイスをしてあげてください。
サポート例を、いくつか挙げてみましょう。

実験材料など(卵やお酢などの材料、市販の歯ブラシなど)を準備する
実験を正しく行うためには、周りの影響を受けにくい場所選びや、実験で使う材料・道具などの準備が大切です。
図書館での資料集め、インターネットでの検索などの情報収集をする
自由研究の実験についてまとめた本やサイトを調べて、参考となる情報を事前に集めておきましょう。
情報の整理や結果の考察、まとめ方などの相談相手になる
子どもたちはいろいろと試行錯誤しながら取り組むと思いますが、実験結果によっては解釈が難しい場合もありますから、タイミングを見計らってサポートしましょう。しかし、アドバイスは最小限にとどめ、子どもたちの考える力を存分に発揮させてください。
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歯に関する実験の結果は実生活に活用できるものが多く、虫歯予防だけでなく食生活の改善や健康に対する意識の向上にもつながります。
自由研究を単に夏休みの一つの課題として「発表したらおしまい」と済ませるのではなく、実験結果を踏まえて歯磨き習慣や毎日の食事などに役立ててくださいね。
〝歯〟の自由研究『観察編』『その他編』はこちら!
記事執筆
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪
参考:アソビュー株式会社:2023年夏休みの自由研究テーマランキング.2023.
:坪﨑健斗ほか:プラーク除去効果に影響する因子について-歯ブラシの種類,ブラッシングの習熟度の比較-.日本歯周病学会雑誌 63(1):1-10,2021.