「学習性無力感」って何? 「どうせ無理」とやる気を失う子ども。改善、予防のためにできることは?

子どものやる気が感じられないと、親はどうしても心配になってしまうものです。子どものやる気問題を解決するには、「学習性無力感」という状態に対する理解が必要です。子どもを持つ親に知っておいてほしい、学習性無力感の基礎知識を解説します。

学習性無力感に関する基礎知識

万事にやる気が感じられない子どもは、もしかしたら学習性無力感に陥っているのかもしれません。学習性無力感とは何かを解説します。定義や症状を理解して、自分の子どもが学習性無力感に陥っていないか、考える下地を整えましょう。

「どうせ無理だ」と諦めてしまう心理状態

学習性無力感とは、何をしても回避できないストレスにさらされ続けた結果、そのストレスから逃れるための行動さえも取らなくなってしまう現象のことです。いくら努力しても状況が変わらないという経験を重ねたことで、「どうせ努力したって無駄」という思考に陥り、行動を起こさなくなってしまう状態を指します。

学習性無力感は、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンが提唱した考え方です。大人はもちろんのこと、学齢期の子どもでも陥ることがある心理状態といわれています。

原因は「結果が伴わなかった経験」の積み重ね

学習性無力感は、努力をしても報われない経験が積み重なることで生まれる感覚といわれています。学齢期の子どもであれば、下記のような状況に直面すると学習性無力感に陥りやすいといえるでしょう。

・毎日のように勉強しているにもかかわらず成績が伸びない
・遊ぶのを我慢して習い事を頑張っているのになかなか上達しない
・自分では努力していると思っているのに両親から認めてもらえない

人は努力に対して成果を求める傾向があります。そのため、結果が伴わない経験が続くと「どうせ努力しても無駄なんだ」と感じ、挑戦をやめてしまうのです。

学習性無力感は「やる気がなくなる」だけじゃない

学習性無力感に陥ると、あらゆる場面で「努力しても無駄」と考えるようになるため、自発的な行動が極端に減少します。

学習性無力感は自己肯定感の低下にもつながるといわれています。なかなか結果が出ない理由を「自分の能力」に求めてしまえば、「自分は能力がないんだ」と自己否定に陥ってしまうのです。

その他にも学習性無力感の状態になると、落ち込むことが多くなったり、怒りの感情をコントロールできなくなったり、人とのコミュニケーションを避けるようになったりと、生活にさまざまな支障が生じるといわれています。

子どもの学習性無力感を予防・改善するには

子どもの学習性無力感は、努力次第で予防・改善が可能です。子どもの学習性無力感を予防・改善する方法を2つ紹介します。対策をしっかり取って、子どものやる気消失を食い止めましょう。

① 小さな成功体験を積み重ねる

子どもを学習性無力感から抜け出させるには、「自分でもやればできるんだ」と思えるような成功体験を築かせていくことが大切です。自分の能力を信じられるようになれば、「どうせ無理」という思考から抜け出せます。

成功体験を積んでいくには、子どものプライドを傷つけない程度に成功のハードルを調整しましょう。最初から難しすぎる課題を与えると、簡単につまずいてしまい、結果として学習性無力感を強める恐れがあります。

また、子どもの得意分野にフォーカスして課題を決めることも重要です。学習性無力感から脱するには、成功体験を積むこと自体に意味があるため、わざわざ不得意なことをやらせる必要はありません。

② 失敗の原因を考える習慣を付ける

子どもを学習性無力感から脱却させるには、失敗をそのままにせず、次につなげる工夫も必要です。失敗した原因を子どもとともに考え、次に同じ状況に直面したときにどのような対策を取ればいいかを見つけられれば、失敗をポジティブに捉え直すことができます。

失敗の原因を子どもと一緒に考えるときは、否定的な言葉を避けることが重要です。「どうしてできないの?」「なんで失敗したの?」といった問いかけは、子どもにとって負担になります。声色や表情によっては「責められている」と感じさせてしまうこともあるでしょう。

否定的な言葉を投げかけられた子どもは、失敗をネガティブに受け止めるようになってしまいます。親は意識してポジティブな言葉を使うことが大切です。

学習性無力感の予防・改善のために家庭でできる取り組み

子どもの学習性無力感を予防・改善する方法はまだまだあります。ここからは、子どもの学習性無力感を予防・改善するために家庭でできるちょっとした工夫を紹介します。子どもとの上手な接し方を学びましょう。

ポジティブな声かけで子どもの努力を認める

子どもが何かに挑戦しているときには、ポジティブな声かけを通し、子どもの思考の中で「自分にもできるかもしれない」という意識を育むことが大切です。

ポジティブな声かけのポイントは、結果ではなく過程をほめることにあります。過程をほめるスタンスでいれば、たとえ子どもが失敗をしてしまったときでも、それまでの努力を評価してあげられるはずです。

間違っても「どうしてできないの?」「あなたならもっとできるはずだよ」などの声かけは避けましょう。これらの言葉は、ただただ子どもにプレッシャーを与えるだけです。投げかければ投げかけるほど子どもは萎縮してしまいます。

子どもに過度な期待を押し付けない

子どもに期待を抱くのは親であれば当然のことです。しかし、子どもに「過度な期待」を押し付けるのは控えましょう。子どもは親の期待に応えようとするものです。そのため、親が子どもに過度な期待を抱いていると、子どもは自分自身に過剰なプレッシャーをかけていき、次第に自分の失敗を受け入れられなくなっていきます。

ましてや、期待に応えてくれない子どもに対して親が失望したような態度を取れば、さらに子どもは自分を責めるようになるでしょう。そうなれば、子どもは次第に失敗自体を恐れるようになり、結果的に学習性無力感を強めてしまうのです。

親は子どもに対して、「誰にでも得意不得意はあるものだ」といった柔軟なスタンスで接することが望ましいといえるでしょう。

学習性無力感は工夫次第で予防・改善できる

学習性無力感は、学齢期の子どものやる気を奪う厄介な状態です。学習性無力感に陥った子どもは新たなチャレンジを避けるようになるため、学習性無力感は子どもの可能性を奪うことにもつながります。

しかし、学習性無力感は努力次第で予防・改善が可能です。できることから実践し、子どもが学習性無力感に陥らないよう支えていきましょう。

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文・構成/HugKum編集部

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