火傷(やけど)とは?
やけどは医学用語では「熱傷」といい、熱によって皮膚や粘膜に起こる外傷の一つで、皮膚や粘膜が熱いもの(炎や熱湯など)の刺激を受けることで損傷した状態をいいますが、その他にも様々な原因や状態があります。
例えば、電気や放射線による特殊な傷、化学物質による化学熱傷、そして低温による凍傷なども、広い意味でのやけどに分類されています。
口で言えば、口唇には皮膚と粘膜の両方を含みますが、その他の口内は潤いをもつ粘膜に覆われているため、口のやけどの大半は粘膜のダメージと考えていいでしょう。
やけどの種類
やけどは「深さ・面積・部位」を総合的に判断して重症度が決まりますが、損傷の深さにより、一般的にⅠ~Ⅲ度という3つの段階に分けられますので、それぞれの特徴を説明しましょう。
Ⅰ度
皮膚や粘膜の表面にある表皮が赤く腫れ上がる程度のケースです。日焼けや熱湯に触れたときなどに生じます。初期対応は流水で冷却することで、痛みが治まるまで患部を数分間冷やすのが基本です。
Ⅱ度
皮膚や粘膜の真皮まで損傷が及び、水ぶくれができたり皮がめくれたりするようなケースです。水ぶくれがつぶれると、傷口から細菌に感染するリスクがありますので、注意しながら速やかに流水で冷やしましょう。
Ⅲ度
皮膚や粘膜の全層に損傷が及び、皮下組織までダメージを受けたケースです。速やかに医療機関で救急対応を受けて下さい。
口のやけどの特徴とは

口の中は60℃くらいまでは耐えられますが、70℃以上になるとやけどを起こす確率が高くなります。特にやけどしやすい部位として口蓋(上あご)、舌の先や裏、口唇、頬の内側の粘膜などが知られます。
口のやけどの症状として、熱いものに当たった患部に触ると痛い・ヒリヒリする、赤くなる、舌で触るとザラザラする、皮がむける、水ぶくれや口内炎ができる、味覚が鈍くなる、口内に不快感を感じる、などがあります。
また、口のやけどは治りが早いと言われますが、その理由として唾液は粘膜保護作用、抗炎症作用、抗菌作用があるほか、傷んだ組織を修復する様々な成長因子などを含むことが挙げられます。そのため軽症ならば、ほとんどの場合は数日~2週間以内に治癒します。しかし、痛みがひどい場合や症状が長引く場合は、医療機関で診てもらいましょう。
ところで、口のやけどで怖いのは、さらに奥ののどまでやけどが及ぶケース(喉頭熱傷)があることです。

2013年に米国で報告された調査では、各地の小児の高度医療施設で10年間に対応した口内熱傷75例のうち11例(約15%)がのどまで及び、11例のうち7例が初診時および経過中に気管挿管が必要となって、重症化するリスクが高いことが明らかになりました(図1)。
口のやけどの対処法を知っておこう
口の中のやけども体の他の部位のやけどと同様に「冷やす」ことが大切で、冷やすことで皮膚や粘膜の深部へ熱が伝わるのを防ぐだけでなく、痛みも和らぎやすくなります。その他の対応策も、いくつか挙げてみましょう。
・やけどの患部に食べ物が残っていたら早めに取り除く。
・冷水で口をすすぐ。
・できるだけ口の中を清潔にする。
・やけどの患部を舌や指で触らない。
・やけどの患部を傷付けないように気を付けて歯磨きする。
・刺激を抑えるため、歯磨剤は少なめにする。
・痛みが強いときは鎮痛薬などの薬を飲む。
食事の注意点としては、刺激のある食品(熱いもの、辛いもの、酸っぱいものなど)の飲食を控えましょう。例えば、レモンなどの柑橘系果物や唐辛子のような刺激の強い香辛料は、症状が長引く恐れがあるので要注意です。
やけどの症状がある間は、特に熱いものはできるだけ冷まして食べるのはもちろんのこと、軟らかくて口当たりのいい食べ物を選んで食べましょう。例えば、冷たくてスルッと食べられるプリンやゼリーなどがおすすめです。
猫舌の人は、熱いものがなぜ苦手なの?

そもそも“猫舌”という概念は医学的な根拠はなく、病気でもありません。では一体、猫舌の人とそうでない人は何が違うのでしょうか。
東海大学のグループが報告した研究では、MRI(核磁気共鳴画像診断)を用いて猫舌の人とそうでない人の熱いお茶を飲んだときの舌の動きを比較しました。
被験者は「猫舌群」5人と「非猫舌群」5人の合計10人で、MRIを撮影するときは横たわる必要があるので、撮影前に各自3回以上熱いお茶を飲んで舌の動きを記憶し、MRIの中で舌の動きを再現しました。
その結果、非猫舌群の人はお茶が口に入ると舌を奥へ後退させてできたスペースにお茶を溜めてから喉へ流し込みましたが、猫舌群の人は舌先を前に出して熱いお茶に舌を直接当てていることが明らかになりました。
猫舌は克服できる可能性も
上記の研究報告から言えることとして、熱いものを食べるときは意識的に舌を奥に引っ込め、舌の下のポケットにいったん収めるトレーニングをすれば猫舌を克服できる可能性があるということです。

具体的には、英語の「R(アール)」の発音時のように巻き舌をすると、舌は後方に移動します。
通常、親が猫舌でなければ、親の食べ方を見て子どもは自然に熱いものへの対処法を学びますが、親が猫舌だと子どもは熱いものを食べる機会がなく、正しく安全な食べ方を学ぶことができません。
つまり、猫舌は遺伝性のものではなく、幼少期から熱いものを食べない習慣や環境が猫舌を生み出すと言っても過言ではないでしょう。
ですから、子どものうちから熱いものを食べて、慣れていくことが大切なのです。
口のやけどを防ぐには?
熱いものに対する安全な食べ方について、いくつか提案してみましょう。
・飲食物の温度を確認してから口につける習慣をつける。

1992年にデンマークのオールボー大学のグループが報告した研究では、アルゴンレーザーを使った実験で、舌先や下唇皮膚部が特に温度に敏感なことを明らかにしました(図2)。
つまり、口の入口である口唇や舌先で飲食物の温度を確認してから口にするようにしましょう。
・子どもはやけどしやすい。
子どもの口内の粘膜は大人に比べて厚みが薄くて弱いため、大人には大丈夫な温度でもやけどしやすいので要注意です。
・子どもから目を離さない。
特にとろけるチーズやスープ、おもちのように粘膜の上で長くとどまる可能性がある飲食物は気を付けてください。
・アツアツの食べ物は、一呼吸おいてから食べる。
フーフーするなどして時間を置き、少しでも冷めてから飲食しましょう。
・金属製の食器は控える。

物質が熱をどれだけ効率的に伝えるかを示す数値である「熱伝導率(W/(m・K))」は、多くの金属が100を超えるのに対し、プラスチックは0.1~0.4程度と非常に低い値を示します(図3)。
ですから、金属製の容器やスプーン、フォークは熱い飲食物の熱が伝わりやすいので、耐熱性のプラスチック製や陶器(セラミック)製のものに変えるなどの工夫をしましょう。
以上より、やけどをしないように注意を払いながら、温かい料理で体をポカポカさせて、味覚の秋をおいしく過ごしてくださいね。
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【参考資料】
・Cowan D et al: Pediatric oral burns: A ten-year review of patient characteristics, etiologies and treatment out comes. Int J Pediatr Otorhinolaryngol 77, 1325-1328, 2013.
・高原太郎:画像診断って面白い.日本医学放射線学会,2019.
・Svensson P et al: Quantitative determinations of sensory and pain thresholds on human oral mucosa by argon laser stimulation. Pain 49(2), 233-239, 1992.
・オーム電機株式会社:技術資料④物体の物理的性質一覧.

