障がいのある子どもの進路選択で、親が見落としてしまいがちな「大切なこと」【作業療法士・クロカワナオキさんが語る】

『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』の著者で作業療法士のクロカワナオキさんの連載記事シリーズ。
今回は、進学や就職など子どもの進路を決める際に、親だけが伝えられることについて論じてもらいました。

*  *  *

知的障がいがある息子は、小中学校は支援学級に在籍した後に、高等支援学校へ進学。卒業後は就労支援施設A型に就労し、その後転職をして現在は障がい者雇用専門の職場に勤めています。そうして自分で働いた収入で、今はパソコンの講習会に通ったり、障がい者スポーツに取り組んだりする日々を過ごしています。

このような話をすると「とても順調だったのでしょうね」と言われることが多いのですが、実際にはうまくいかないことや、悩むことばかりでした。

障がいのある子どもが自身で進路選択をする意味と、その課題

知的障がいがあったとしても、自身の将来に対する思いがないわけではありません。息子にとってそれは、都会に出て1人暮らしをして、芸能人になる、もしくはパソコンを使って働くような仕事で生計を立てるというものでした。

親から見ると明らかに無謀だと思う反面、簡単には否定できないという思いもありました。なぜなら障がいがある息子にも自分の将来を描く自由があり、親であってもそれを奪うようなことをしてはいけないと考えたからです。

また息子の将来のイメージについては、私たち夫婦の間に乖離がありました。そのために進学の話が噛み合わないこともしばしばあり、互いに理解し合えないことによって、具体的な話ができなくなるという課題も生じていました。

それでも、私にはどうしても守りたいことがありました。それは息子が自分の意思で進路や職業を選ぶことです。彼の人生において、将来を自分の手で選び取る機会は、そう多くはないように感じます。進学や就職を選択することは、その数少ない貴重な機会であり、支援することは親にとっても重要なミッションであると感じました。

また、息子には障がいがあったとしても納得し、前向きに人生を歩んでほしいと願っていたのですが、そのためには彼自身が障がいと折り合いをつける過程を避けては通れません。

障がいのある子どもを育てる親は、意識する・しないに関わらず、自身の子どもと、そうではない健常な子どもとを比べて苦しみ、折り合いをつけながら子育てを進めます。しかし、その過程は親だけのものではなく、障がいとともに歩む子ども本人にも生じます。

自分自身で進路を考え判断する過程は、子どもにとって、障がいと向き合う過程でもあります。息子に対して、そのことを通じて一つずつ折り合いをつけ、自身にとってより良い人生のあり方を見つけてほしい、という思いがありました。そのような中で息子の進路選択が始まりました。

息子が志望校を自身で決めるために必要だった支援

高校の進路選択に際して、家から通える範囲には4つの高校がありました。多いように見えますが、そのうちの3つは公共交通機関を利用して1人で通わなければならず、最も遠いところだとバスを乗り継いで片道1時間半もかかりました。

学校によって特色が大きく異なっていたため、どの高校を選択するのかは重要なように見えた一方、就職に強い学校ほど倍率が高いことがわかりました。とはいえ、このような情報は息子にとって理解しがたく、判断材料として不足しています。

そこで全ての学校のオープンキャンパスに、できれば2回ずつ足を運ぶことにしました。自分の目で学校や、そこに通う生徒たちを見て、その場の雰囲気を比較することが、彼が進学先の違いを理解するための方法として適していると考えたからです。

案の定、その中の一つの学校が目に留まり、そこから彼の人生において最初で最後となる受験勉強がスタートしました。そこにはまた色々なことが起こったのですが、なんとか無事に希望する学校に進学することができました。その学校はバスで片道1時間半かかる、家から最も遠い場所にある学校でした。

就職が決まらない、息子の苛立ちへの対応

彼の進学した高校には、多くのインターン実習があり、それは就職試験を兼ねていました。学校生活の最後に希望する職場にインターン実習に行き、そこで合格点をもらえれば、卒業後はそのままそこに勤めることができるという流れです。

高校の進路選択の経験から彼が実際の現場を見て決めることの必要性を認識していた私は、高校の先生に相談して、息子とともにいくつかの職場を見て回りました。その中には労働条件が良いところもあり、息子の希望を受けてインターン実習にこぎ着けたものの、コテンパンにダメ出しをされて断られる、ということも何度か経験しました。

そうした中、息子には「こんな仕事なんかよりも、芸能人として働いていきたい」という思いがあふれ返り、就職に向けた話ができなくなった時期がありました。そうした彼の気持ちを理解し、実際に芸能界のオーディションを受ける段取りをして付き添ってくれたのは、妻でした。

そのオーディションに落ちたことをきっかけに、再び地に足がついた就職活動が再開しました。様々な職場を一緒に見て回り、見ただけではわからない給与の違いや、そこで働くメリット・デメリットについては、一目で比較できる一覧を作成して、一緒に見ながら対話を重ねました。そうして彼は一つの職場を選び、なんとか卒業前に就職を決め、彼の学生生活は幕を閉じたのです。

子どもが現実的な将来を考えるために、親だけが伝えられる大切なこと

知的障がいのある子どもは、将来に思いを巡らすことはできても、それについて調べ、実現可能な選択肢を導き出すのは難しいところがあります。それを子どもが理解できる形で選択肢として提示することは、親の大切な役割です。

その過程では、私たち夫婦のように、価値観の違いから子どもの将来についての話ができなくなることがあるかもしれません。しかし、子どもが自分の意思で何らかの選択肢を選んだ後は、子どもが望む進路選択を支援する方向に夫婦の足並みが自然と揃っていきました。それは夫婦が互いの意見の相違ではなく、息子が進みたいと思う道筋を見るようになったからだと思います。

私は親として、息子に進学・就職についての具体的な選択肢を示して、本人が意思を持って選ぶための支援をしてきました。しかし、子どもが地に足をつけて考えて選ぶためにはもう一つ、親から子どもに伝えなければならないことがあるように思います。

それは「親は子どもよりも先に亡くなり、その後は自分の力で生きていくことになる」ということです。

それを子どもに伝えるのは酷であると感じるかもしれません。しかし、進路や就職の選択は「親がいつまでも一緒にいてくれる」という前提と「親が亡くなり、いつかは自分で生きていくことになる」という前提では、判断が変わります。

前者は、自分の力で生活する必要性を感じられないために、自由に考えやすいかもしれません。一方で後者は将来の自立を意識しやすくなり、現実的な生活のあり方を考えるきっかけになります。

どちらを大切だと感じるのかは意見が分かれるところだと思います。とはいえ、どの子どもにも親亡き後は訪れます。そのときの生きる力や経済基盤を支える基礎は年齢が若いうちに培われ、その場所は学校や就職先などであることは間違いありません。そして、子どもが「いつか親がいなくなってしまう」ということをどの程度理解しているのかは、話してみなければわからないことでもあります。

障がいがある子どもが、現実的に、より良い人生を歩んでいくためには、親がいない世界で生きる自分をイメージしながら将来のことを考え、選んでいくことが大切になります。そしてそれは親も同じで、子育てでは自分がいなくなった後の世界を生きる子どもをイメージすることで、本当に必要な支援が見えてくることもあります。

それらは結局、親子双方が一緒に過ごす時間が有限であると感じ、互いの存在を大切にすることにつながります。子育てにおいて、それ以上に大切なことはないのではないでしょうか。

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記事執筆

クロカワナオキさん 作業療法士

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。

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