障がいのある子どもが「親亡き後」も生きていくために、親が授けられる「たった1つのギフト」とは【作業療法士・クロカワナオキさんが語る】

『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』の著者で作業療法士のクロカワナオキさんの連載記事シリーズ。
今回は、「親が亡くなった後」のために、親から子に授けられるものについて論じてもらいました。

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知的障がいがある私の子どもが成人になってしばらく経つのですが、彼の生活は当初想定していたよりも、充実しているように見えます。

平日は朝から夕方まで仕事をして、その後パソコン教室でWordの勉強をしたり、馴染みのカフェに顔を出してマスターと話をしたり(マスターは彼のことをよく知っています)、障がい者スポーツチームの練習に出かけたりしています。

これらの行動は、彼が自分で考えてとっています。そこには彼なりのより良い時間の使い方に対する価値観が息づいているような気がします。

これまでの子育てにおいて、物事への判断は、できるかぎり本人にしてもらうようにしてきました。とはいえ、知的障がいの子どもの身の回りの判断は、親がしてしまう方がはるかに楽で、本人にしてもらうときの親のジレンマは避けがたいものです。当時は、口出ししたい気持ちを制止するのも一苦労でした。

そこまで苦労して本人に判断させる理由。

それは、いずれ子どもが「親亡き後」を生きなければならないことに対して、親ができる支援は、子どもが「自分のものさし」を作っていく機会を与えることだけだと考えていたからです。

親を失ったことが子どもの生活に与える影響

知的障がいのある子どもの身の回りの判断は、親が担うことになります。なぜなら、子どもは状況を理解することも、合理的に考えることも難しいからです。

しかし、親が亡くなった後は、それまでの人生で積み重ねてきた選択とその結果を参照しながら、自分で判断するしかありません。それはいわば、これまでに育んできた「自分のものさし」を使って判断するということです。

ときには、生活上の判断を他者に託す局面も出てくるでしょう。その場合、自分についてよく知らない、あるいは大切に思っていない存在に、判断を委ねなければならない状況も想定されます。

子どもにとって多くの場合、親はこの世で最も自分のことを理解し、大切に思ってくれている存在です。その存在を失うことが、子どもの今後の生活に与える影響は避けられません。

親亡き後の世界で、子どもが自身をありたい方向に導いていこうとする場合、「自分のものさし」が必要になります。どれだけ思考や判断ができるかに関わらず、持っているものを最大限活かして、前に進もうとする姿勢が、結局は子どもの人生に彩りを添えていくのだと思います。

親が子に「自分のものさし」を授けるためにできる2つのこと

子どもの成長の仕方は特性によって異なりますが、簡単な判断なら少しずつできるようになることもあります。次第に、物事を自分で判断したい気持ちも芽生えてくるでしょう。

ところが、その判断が親の考える合理性と異なる場合、親の方にも「子どものことを自身が判断したい・すべき」という欲求が生じます。親子間で意見の相違が起きたとき、どのような形で場を収めるかで、子どもが身につける「ものさし」の形は変わってくるでしょう。

子どもの「ものさし」は、「子どもが判断し、その結果として起こったことを経験し、次の判断に活かす」というサイクルの中で作られます。そのことに対して、親にできることは2つあります。

ひとつは、たとえ合理的ではないと感じても、それが一時的な損害で済むレベルであれば、なるべく子どもに判断してもらうことです。

大切なのは、「その判断が、どのような結果をもたらすのか」を、自分の体と心を通じて体験してもらうことです。なぜなら多くの場合、子どもは頭の中だけで行動と結果の因果関係をイメージすることが難しいからです。

そしてもうひとつは、その判断が親から見て失敗のように思えたり、子どもが望んだ結果にならなかったりしても、判断そのものを責めないことです。

責められると、子どもは自信をなくしたり、尊厳を傷つけられたと感じてしまったりすることもあります。これでは、判断のブラッシュアップにつながらないばかりか「自分で判断しない方が楽」という印象が残りかねません。

判断の結果を「ものさしの形成」につなげるためには「また同じことがあったときは、こう判断する」という子どもなりの結論に到達することが大切です。親にできるのは「どうすれば良かったのかな?」と子どもに尋ねたり、次はどうするのかを話し合ったりすることだと思います。

自身で考えて判断する。子どものその姿が親に何をもたらすのか

知的障がいのある子どもの親は、ある程度の年齢になると、自分に万が一のことがあったときに備えて、子どもが入る施設を探すなどの準備に取りかかることになります。しかし、そのときが思いもよらないタイミングで来る可能性もあります。私は医療の現場で、実際にそのような場面を目にしてきました。

そのときが訪れても子どもが「自分のものさし」を持っていれば、たとえそれがいびつなものであっても、自分にとってのより良い生活に向けた判断をすることができます。

私の息子は現在、有期雇用で働いています。何も問題が起きなければ、契約が更新されると言われていますが、親としての不安がなくなることはありません。知的障がいのある人が安定した暮らしを維持することは、難しい状況があると感じます。

その中で、望まない方向に状況が変わったとき、「自分のものさし」があることによって、今あるものに光を当て、より良い生活に向けた一歩が踏み出せるかもしれないと考えています。

親であっても子どもを幸福にすることはできません。子どもが幸福になるとすれば、そこには少なからず本人の力が必要です。子どもが自らの手で、「ありたい姿」を目指した選択をしようとするとき、その行為は子どもを幸福に導くだけでなく、子どもを残していく親の心をも軽くするのではないでしょうか。

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記事執筆

クロカワナオキさん 作業療法士

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。

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