* * *
私には知的障がいがある息子がいます。成人した彼は現在、福祉就労の場で働きながら、WordやExcelのスクールに通いつつ、障がい者スポーツにも熱心に取り組んでいます。
先日は東京で行われた知的障がい者のためのオリンピックである「スペシャルオリンピック」の全国大会にも出場し、その勇姿を家族や彼を支えてきてくれた人たちと応援に行きました。
ここまでの話だと「さぞや立派な息子さんなのでしょう」と思われるかもしれませんが、医学的所見でいえば、彼の発達水準は実年齢よりもはるかに低く、仕事や日常生活においても様々な課題があります。親である私も、いまだに頭を抱えることも少なくありません。
とはいえ、障がいがある子どもが前向きな姿勢で生活し続けるのは簡単なことではありません。成人後も働きながらスポーツや学習を続けている今の状況は、彼自らがそのような人生を選び取り、意思を持って道を切り開いてきた結果だと受け止めています。
子どもに障がいのことを伝える理由

障がいのある子どもが、自分の意思で生きる方向を定めようとするとき、自身の置かれた状況を知ることが大切になります。なぜなら、障がいがあることで選べない選択肢が、社会にはそれなりに存在するからです。
そして、障がいと折り合いをつけながら、将来に向けたより良い選択をしていくためには、子どもが自身の障がいのことについて理解しておく必要があります。
障がいについて子どもに最初に伝えるのは親の大切な役割ではないかと思います。そのタイミングとして多いのは、進学先を選ぶときだと思います。なぜなら、障がいのために健常な子どもとは異なる進路を選ばなくてはならない場合があるからです。
そのとき、親の選んだ言葉が子どもの障がいへの意味づけとして大きな影響力を持つことになります。
息子の同級生の親の中には、それを泣きながら子どもに伝えたという人もいました。その心情は同じ境遇にある親として痛いほどわかる気がします。
一方で、親から泣きながら「あなたには生まれ持っての障がいがある」と伝えられた子どもの方は、自身の障がいに対してどのような印象を持ったのだろうかという不安も感じました。
私も息子が小学生のときに、障がいについて彼に伝えました。当時は通常学級の授業には全くついていけず、その後の進学先を支援学校の中等部にするのか、中学校の支援学級にするのか、本人が自分の意思で進学先を選ぶ必要がある状況でした。そして進学は、彼が人生において選ぶことができる、数少ない自己決定の機会でもありました。
もちろん、進学先を親が決めることもできます。ただ、進学先でトラブルが生じたとき、その進学先を自分で選んだのか、それとも親が選んだのかによって、トラブルへの感じ方は大きく変わってきます。
また、この選択を彼の人生での「活きた経験」にするためには、親からの説明を踏まえて、最終的に彼自身が決めることが大切だと考えました。
障がいについて、私が息子にどう伝えたのか

そうして彼に自身の障がいのことを、このように伝えました。
「君には生まれ持っての障がいがある。だから、他の人よりも考えることが苦手だったり、手先が不器用だったりする。
でもこの世界には、生まれながらに手や足がない人もいるし、生まれてきても、すぐに死んでしまう人もいる。たとえ生まれたときには不自由がなかったとしても、事故に遭ったり病気になったりする人もたくさんいる。
お父さんは、病院に勤めているから、そんな人たちをたくさん見てきた。
だから、世の中には普通の人はいなくて、皆それぞれに特性を持っている。
君は障がいのために、大学に行くことや普通の会社に勤めるのは難しいかもしれない。でも、楽しいことを探していくことができる。
君の人生は楽しいことを探し続ける、宝探しみたいな人生になると思う。お父さんは、そのために協力を惜しまないし、全力でサポートする。
だから、やってみたいことがあるなら、なんでも教えて欲しい」
そうしてその後、彼は自分がやってみたいことを積極的に口にするようになり、私たちは進学先や就職先、障がい者スポーツなど、考えられるあらゆる選択肢について実際に足を運び、話を聞いてきました。
その中で、これまで彼が選び取ったもの。それが今の彼の生活を形作っています。
子どもに障がいのことを伝えたとき、反応と呼べるような表情や態度の変化は見られませんでした。それはたぶん、情報としては届いているものの、その内容がどこまで自分の人生を左右するものなのかまではピンと来なかったからではないかと思います。
しかし、伝えた内容の意味することは、その後の日々の生活や進学・就職などの選択を通じて、じわじわと浸透していったように感じられます。
障がいのある子にとっての幸せとは

彼が生まれて以来、障がいのある子どもの幸せとはどのようなものなのかをずっと考え続けてきました。そうしてたどり着いた答えは「生活の中で最大限の能力を発揮しながら、自分の好きな自分でいられる」ということです。
生まれ持った障がいと折り合いをつけながら前向きな行動をとり続けることは、簡単なことではありません。しかしながら、それなしに子どもの幸せな状態をイメージすることも難しい気がします。
あなたにはこちらもおすすめ
記事執筆
医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。
障がいがある子どもの子育てはいつまで続くかわからない。
育児、教育、仕事、時間、お金、周囲との関係、親亡きあとの子どもの将来、そして自分の人生——— 親であるあなたのことを後回しにしないために。
発達障がいの子を社会人になるまで育ててきた著者が試行錯誤してわかった、自分も子どもも優先する「こう考えればよかったんだ!」を全部詰め込んだ1冊
障がいのある子どもが不憫だし、そういう子どもを育てている自分も不幸なのでは———
親の生き方は子どもにも伝わる。まずはあなたが軽やかに生きる。