障がいがある子どもも、ない子どもも、親の役割は同じ2つのこと【障がい児を育てた作業療法士がたどりついた結論】

『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』の著者で作業療法士のクロカワナオキさんの連載記事シリーズ。
今回は、障がい児と健常児の両方を育てた立場から、いま求められる親のあり方にについて論じてもらいました。

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私は障がいが「ある子ども」と「ない子ども」の両方を育ててきました。この2人の子どもを育ててきて気づいたことは、子育てのために親が行うことは、障がいの有無によって変わらないということです。

なぜなら、どのような子どもであっても、親の役割は「子どもが健康的に生活できるように支援すること」と「生活環境を整えること」の2つに集約されるからです。

子どもの健康を考える親だけがわかること

親は子どもが健康に過ごせるように、健康的な食事を準備したり、十分な休養が確保できるように住まいを整えたりします。子どもに障がいがあり、自分の力だけで身の回りのことが十分に行えない場合、親が世話をする時間や子育てのタスクは増えることになります。

だからといって、障がいがある子どもよりも、障がいがない子どもを育てることのほうが負担が軽い、とは限りません。何かのきっかけで子どもの心が病んだり、閉じこもってしまうと、親も日常的にさまざまなことを気にかけたり、不安を感じたりしなければならなくなります。

医療の現場では、もともとは元気だった子どもが想像もしていないような事故や病気に遭い、介護が必要になったために親が献身的に支えている、という場面を目にします。私が関わってきた高齢者の中には、先に子どもを亡くすという、耐え難い苦痛を経験しながら懸命に生きてきた人も少なくありません。

障がいの有無に関わらず、これからの子どもに何が起こってもおかしくありませんし、どのようになっていくのかはわかりません。だから今この瞬間、目の前にいる子どもに愛情を注ぐことをおろそかにしてしまうと、後に後悔することになるかもしれません。

子どもが元気でいてくれて平常心で生活していても、思いもよらない不幸が訪れて頭を抱えて悩むことになっても、結局のところ親は「子どもが少しでも健康的に生活できるように支えていく」というスタンスに立ち返ることになります。それが、子どもの状況に左右されない、本質的な親の役割だからです。

子どもの成長は置かれた環境との関係性で決まる

子どもに対して「できるだけ高い能力を獲得してほしい」と考える親は少なくありません。それが安定した収入につながり、豊かな暮らしが営みやすくなるからです。一方で、障がいがある子どもの親にとっても、子どもが獲得するであろう能力は、その後の生活での自立度を左右するために、重要な関心事になります。

障がいの有無に関わらず、子どもの成長の仕方は「どのような環境に置かれたか」で変わります。

子どもの思考や行動の様式は、身の回りにある人や情報から行動が触発されたり、考え方の影響を受けたりすることで形成されていきます。置かれた環境とのやりとりで経験が蓄積されていくことを考えると、子どもの成長の方向性もまた、環境との相互作用で定まっていくと言えます。

このようなことを踏まえると、子どもの能力を高めるために親ができることは「生活環境を整えること」に集約されるようになるのではないかと考えます。

さまざまな体験ができる生活環境を整える

障がいの有無に関わらず、さまざまな体験ができる生活環境を準備することは、親の役割であり、重要なミッションでもあります。少し前の時代だと、体験とはあくまでも偶然性に価値があり、親が意図的に生活環境を整えようとすることは、過剰な関与だと捉えられたかもしれません。

しかし現代の生活環境には、子どもが見るだけ・触るだけで満足感が味わえる、動画コンテンツやゲームなどの「疑似体験」が溢れています。偶発的な体験を期待したままでいては、子どもが「疑似体験」で満足してしまい、自らの行動でしか得られない学びの機会を失ってしまう可能性があるのです。

また、障がいがある子どもの中には、自分で考えを整理することが難しい場合もあります。このとき親は、子どもが置かれた環境にある具体的な選択肢を提示し、どのような体験をするのかを、子ども自身が考えて選ぶ機会を作ることができます。

子どもの生活環境を整えることが親にもたらすもの

子どもの置かれた環境を整えることはその後、親の将来設計にも影響します。

現代の日本では、将来の社会保障に充てる財源を確保することが困難になりつつあり、それに伴い年金の受給開始も遅くなる傾向にあります。このことは、定年を節目としていた、これまでの一般的な人生設計の仕方が参考にならなくなることを意味します。

いつかは親にも「どのような環境に身を置いて生活することがよいのか」や「自身にはどのような選択肢があるのか」ということに向き合わなければならないときが来ます。子どもが置かれた環境について考えた経験は、今後の自身のあり方を考える上での貴重なサンプルになるはずです。

子育ての経験が、親の将来設計にも活きる。そのようなことが起こるのも、不思議ではない時代になっていくのではないかと思います。

記事執筆

クロカワナオキ

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。

著/作業療法士 クロカワナオキ WAVE出版 1,980円(税込)

障がいがある子どもの子育てはいつまで続くかわからない。
育児、教育、仕事、時間、お金、周囲との関係、親亡きあとの子どもの将来、そして自分の人生———  親であるあなたのことを後回しにしないために。
発達障がいの子を社会人になるまで育ててきた著者が試行錯誤してわかった、自分も子どもも優先する「こう考えればよかったんだ!」を全部詰め込んだ1冊
障がいのある子どもが不憫だし、そういう子どもを育てている自分も不幸なのでは

親の生き方は子どもにも伝わる。まずはあなたが軽やかに生きる。

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