親が子どもに「社交性」を望む理由
最近、職場の同僚から、子どもが内気なためにクラスに馴染めず、友達が増えないことが心配だという話を聞きます。
人間関係は、上手く築くことができれば日々を楽しくしてくれますが、築き方を失敗してしまうと、生きにくさの原因にもなります。このことを親は経験的に知っているために、子どもが孤独になるかもしれない状況に不安を感じやすくなるのです。
加えて、これからの社会では経済的な成長が期待しにくくなるために、周囲の人とのつながりが重要になると言われています。経済的なゆとりがなくなっていく中、相互に助け合える人がいることがセーフティネットとして働き、価値を持つようになると考えられているためです。
今、親が成長していく子どもに対して、他人と上手に関係性を結ぶことができる「社交性」を持ってほしいと願うのは自然なことなのです。
子どもの社交性を高めるためには、積極的に自分から人に関わりにいき、人間関係の広がりを楽しむ経験が大切になります。そのような行動は、自分にある程度の自信がなければとることができません。自信がないと「人からどう思われるか」という不安に囚われやすく、人との関わりで自分が傷つくことに怖さを感じるからです。
親が選んだ言葉が、子どもの自己イメージを作る

幼い子どもは、周囲の人からの意見を参考に「自分がどのような人であるのか」をイメージしていきます。子どもに最も多くのことを伝えるのは親なので、子どもにとって最初の自己イメージは、親子関係の中から生まれることになります。
ところが、親にとって幼い子どもは心を許す存在であり、だからこそ感情的に接してしまうことがあります。時には何かの拍子に「あなたはダメだ、間違っている」と口にしてしまうこともあるでしょう。
親を無条件に信頼している子どもは、その言葉を鵜呑みにしてしまうことがあります。「自分の子ども」という親近感から不用意に口にした言葉が、子どもの自信を無くしてしまうことがあります。
親が選んだ言葉は、子どもの存在や行動に意味を付け、子どもの自己イメージの一部分となります。ですから親は、子どもの存在を大切に考えていることや、前向きな行動をリスペクトしていることを言葉にして伝える必要があります。そうすることで、子どもは自身のことを肯定的に捉えやすくなり、自然に自信が持てるようになるからです。
子どもの集団内における立ち位置は、家族から始まる
子どもの自己イメージには、家族内における子どもの立ち位置も影響します。
親から頼れる存在として認められている子どもは、家族内で突発的なアクシデントが起こった際に、自分にできることを探すなどの行動を自発的に取りやすいように感じます。家族というコミュニティのために主体的に行動するマインドは、外部のコミュニティに所属したときにも発揮されやすくなるでしょう。
逆に「何もできない」存在として扱われてきた子どもは、外部のコミュニティ内においても、積極的に何かの役割を担うことへのハードルは高くなるでしょう。
作業療法(occupational therapy)では、障がいを持つ人が、心の充足した社会生活を送るとき、他者との関係性や社会的な役割が影響すると考えられています。所属するコミュニティで、自分なりの立ち位置や役割を見出せるかどうかは、働く上でも人とのつながりを維持するという意味でも大切になります。
子どもにとって生まれて初めて属するコミュニティは家族です。その中でどのような立ち位置を経験するのかは、その後の子どもの人間関係に対する考え方や、社会性のあり方を方向付ける可能性があるのです。
子どもの社会性は家族の中で育まれる

低成長社会では、周りの人との相互関係を模索するようになると言われていますが、家族はそのモデルにもなります。
お母さんの仕事が忙しいときにはお父さんが夕飯を作り、子どもが洗濯物を畳む。家族生活の中で、性別や年齢に関わらず、それぞれができることを活かして協力することは、人と協力してプロジェクトを進める経験になるだけでなく、フレキシブルに立ち回ることの大切さを伝えることになります。
また、子どもが学校での人間関係に傷ついてしまったとき、素のままの自分を受け入れてくれる、心理的安全性が確保された「家族」というコミュニティは、子どもの社会性を守る上で大切になります。自分の安定した居場所があることで、外での人間関係での失敗で傷つくことへの不安が少なくなり、「安定した人との関係性」とはどのようなものかを、家族とのつながりから経験することができるからです。
家族と過ごした時間の延長に、将来の子どもの社会性は育まれるのです。
記事執筆
医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。
障がいがある子どもの子育てはいつまで続くかわからない。
育児、教育、仕事、時間、お金、周囲との関係、親亡きあとの子どもの将来、そして自分の人生——— 親であるあなたのことを後回しにしないために。
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障がいのある子どもが不憫だし、そういう子どもを育てている自分も不幸なのでは———
親の生き方は子どもにも伝わる。まずはあなたが軽やかに生きる。
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