子どものことが許せないときは、親子の距離感を見直す【障がい児を育てた作業療法士の〝自分育て〟】

『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』の著者で作業療法士のクロカワナオキさんの連載記事シリーズ。
今回は、親が子どもに干渉してしまう心理の背景にあるものについて、クロカワさんに論じてもらいました。

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最近、結婚した人から「子どもを上手に育てる自信がないから、子どもは作らない」という話を聞くことがあります。理由を尋ねると、子どもの頃に親から受けた言動に傷つき、トラウマを抱えたまま大人になり、そんな自分が育てた子どもは不幸になるだろうから、というものでした。

その考えに違和感を感じたものの、はっきりと否定することはできませんでした。私自身にも身に覚えがあったからです。

子どもの言動が許せない意外な理由

私には、障がいがある息子の些細な言動に苛立ち、細かいことまで口を挟んでしまっていた時期があります。私の考えとは異なる行動を息子がとることに、不思議なほど苛立ち、許すことができませんでした。

日常的に些細なことまで指摘される中、息子はだんだんと情緒不安定になっていきました。それでも親として子どもの間違った行動を指摘するのは当然だと、疑問を持つことはありませんでした。

そのうち、息子が常に私の顔色をうかがうようになり、親子のコミュニケーションから穏やかさが失われ、ようやく自分の行動が間違っていると気がつきました。

なぜ、こんなにも息子の行動が許せないのだろうか」と悩んでいた矢先に、DVなどの親から受けた支配的な関わりは、自分の子どもにもしてしまうケースが多いことを知りました。

私は子ども時代、親の価値観と異なる行動が許されない環境で育ちました。自分で考えてとった行動を親に否定され続け、自信が持てなくなり、閉じこもりになった時期もあります。そして親になり、自分も親からされたことを息子にしてしまっていることに気がつきました。

自分の代で、この負の連鎖を終わらさなければならない

そう意識が持てたことで、息子の行動への苛立ちから解放され、ようやく親子の穏やかな時間を取り戻すことができました。

親身になりすぎると、子どもの心の自由を奪ってしまう

親は子どもを大切に思っているからこそ、アドバイスをしようとします。それは子どもが間違った行動をとり、不要な苦労や辛い思いをさせたくないという親心からです。

一方で子どもの方は、親にサポートを望むことはあるものの、積極的にアドバイスしてほしいとは思っていません。自分がやりたいようにしたい、と思っています。

ところが、親が子どもに対して親身になりすぎていると、たとえ自制を心がけていても、必要以上のアドバイスを子どもにしてしまいます。それは同時に、子どもが自身の価値観に基づいて考え、行動することを妨げることにもなります。

言い方を変えれば、親子の心理的な距離感を適度に保つことが、子どもが自身で考え行動するのを尊重することになるのです。

通常、親子の距離感を調整することは、親にしかできません。幼い子どもは、生活するために親を頼らなければならないし、他者との関係性についての経験や技量を持っていないからです。そういう意味で、今ある子どもとの関係性は、親の関わり方の結果であるとも言えます。

息子のように障がいがあると、親子が付かず離れず、程よい距離を保つことは難しくなります。自立することが難しいために、常に身の回りのことに支援が必要だからです。ところがある程度大きくなった私の息子たちは、障がいがある上の子も、障がいがない下の子も、同じように「親から離れてひとりで生活してみたい」と口にするようになりました。

障がいのあるなしに関わらず、子どもは本来、親から離れて自由になりたいと思うものではないでしょうか。

親が人間関係を見直すと、親子関係の風通しは良くなる

個人を中心として人間関係を見たとき、その中心が親であっても子であっても、親子は個がもつすべての関係性のうち、あくまで部分的なものになります。つまり、親子関係とは、個人の人間関係を持つ者同士が、家族という形で部分的に接続しているに過ぎません。

ほとんどの人には家族以外にも、友人や職場の同僚など、個人としての人間関係があります。ところが、親が個人の人間関係をうまく構築できず、自身の居場所を家族に求めすぎた場合、子どもとの関係性に依存しやすくなることがあります。

そうならないよう、親が自身を取り巻く人間関係の中で「個人としてどうありたいのか」について考えてみることが大切です。周囲との関係性を見直すことで、子どもとの関係性においても、執着しすぎないフラットな親子関係が築きやすくなるからです。

すると親子関係は、個人として生きていく前提でお互いを大切にするという、長期的に安定した関係性に変わっていくことになるでしょう。

そんな親の人間関係も、人生の終末には家族へと収束していきます。自分の力で生きていけなくなった人の近くに寄り添う人は、友人ではなく、家族だからです。医療の現場には、加齢や病気のために自身の力で生活を営むことができなくなった人がたくさんいます。その人の生活を家族以外の人が支えているケースを、私はほとんど見たことがありません。

もちろん、たまに友人が会いに来たり、電話で連絡をとったりすることはあります。ただ多くの場合、友人も年を取り、互いにやっと生活しているという状況で徐々に疎遠になり、個人の関係性も家族、とりわけ子どもだけが残っていくケースが多いのです。

親子関係は俯瞰すると、個人の人間関係の部分的なものに過ぎませんが、人生の終末には唯一無二のものになります。そう考えると、親子の関係性に気を配ることの意味は、また違ったものに見えるのではないでしょうか。

記事執筆

クロカワナオキ

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。

著/作業療法士 クロカワナオキ WAVE出版 1,980円(税込)

障がいがある子どもの子育てはいつまで続くかわからない。
育児、教育、仕事、時間、お金、周囲との関係、親亡きあとの子どもの将来、そして自分の人生———  親であるあなたのことを後回しにしないために。
発達障がいの子を社会人になるまで育ててきた著者が試行錯誤してわかった、自分も子どもも優先する「こう考えればよかったんだ!」を全部詰め込んだ1冊
障がいのある子どもが不憫だし、そういう子どもを育てている自分も不幸なのでは

親の生き方は子どもにも伝わる。まずはあなたが軽やかに生きる。

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