「子どもから信頼されない親」の人生に起こること。親子の信頼関係は誰を幸せにするのか【作業療法士が医療現場で見てきた真実】

『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』の著者で作業療法士のクロカワナオキさんは、知的障がいのある息子さんを社会人になるまで育てて現在にいたります。その親業と向き合うなかで、親子関係の普遍的なあり方について見えてきたものとは。今回は、親子の信頼関係について論じてもらいました。

親は子どもを無条件に信頼しなければいけない

私の上の子は知的障がいがありますが、下の子は普通の子です。下の子は幼い頃、ときどき嘘をつく子どもでした。

子どもを学童保育に迎えに行った帰り道。宿題が終わったかどうか尋ねると「もう終わったよ」と答えるので安心していたら、数日後に複数の宿題を故意にしてなかったことが判明するということが、たびたびありました。私は嘘をついたことを責めたい思いに駆られつつも、信頼できる人になってもらうためには嘘をつかれた人の心情を知ってもらったほうがよいと考えました。そこで、

「お父さんは大切に想っている君に嘘をつかれて、とても悲しくて悔しい気持ちです。君の言葉を信じていいのかわからなくなります」

と、繰り返し伝えるようにしました。そのせいかその後、嘘をつかれることは少しずつなくなっていきました。

たとえ子どもに嘘をつかれても、親は子どもを無条件に信頼することが必要になります。なぜなら、子どもは親からの信頼を自信に変えて、さまざまな物事にチャレンジして成長していくからです。

一方で、子どもが親のことを無条件に信頼するということはありません。親に対する子どもの心象は、成長に伴って変化していくからです。

子どもから親への信頼感は成長に伴い変わっていく

まだ身の回りのことがままならない幼い子どもは、親のことを絶対的に信頼します。そうしないと生きていけないからです。

特に知的障がいがある子どもは、身の回りのことができるようになるスピードが遅く、親への信頼はなおさら強くなります。親の支援を必要とする期間が長いために、その「信頼」は「依存」に変わるリスクをはらんでおり、子どもの自立を促す親の関わりは、より難しいものとなります。

一方で普通の子どもは、成長の過程でさまざまな人と関わることで人間関係の経験を積み、「人の見方」を身につけていきます。そして次第に「自分の親」と「他の大人」との違いが認識できるようになります。成長に伴い、親の人間性に対しても客観的な見方ができるようになるのです。

すると、親に対する信頼感は「他の大人と比べたとき、自分にとってどのくらい信頼できる相手なのか」という要素を含むようになります。

子どもから信頼される親の行動とは

親子関係において、子どもから信頼されるためには、親が子どもの信頼を得る行動がとれているのか、ということが大切になります。

一般的に「信頼できる人」というのは、ある種の誠実さを持っています。相手に対する誠実な態度が信頼を得ることにつながるように、子どもに対する誠実な態度は、子どもからの信頼感に影響します。

子どもに対する誠実さとは、家族として大切にすることと、ひとりの人間として尊重することのふたつの要素を伴います。

普段から子どもとの関係性を大切にし、子どもが危機に直面したときには何よりも優先させようとする態度。そして、子どもが自身で考え判断することを尊重する態度です。そのどちらかが欠けても、子どもからの信頼は目減りします。

成人した子どもから親は「ひとりの大人」として評価される

将来子どもが成人し、社会人として周りの大人と本格的にコミュニケーションを取り始めると、自身の親に対する印象はガラッと変わります。親のことを、ひとりの大人として客観的に見てどうなのか、という視点でとらえることができるようになるからです。

それまでに子どもに自分の価値観を押し付け、子どもの考えを尊重できていなかったり、マイペースに生活をしすぎて家族への配慮を怠っていたりすると、結果的には子どもからの信頼を失うことになります。

子どもが親のことを「信頼できない人」だと判断したとき、親子の関係性にはただの「血のつながり」だけが残ることになるのです。

子どもとの人間関係は、その後の親の人生に大きく影響する

なぜそれほどまでに、子どもから信頼を得ることが大切なのか。それは、子どもとの人間関係のよいほうが、親自身が幸せな人生を歩むことができるからです。

子どもと仲違いをしたまま人生の節目を迎え、年を取っていくことが寂しいということを、私は従事している医療の現場から学びました。そこでは心身の不調にあえぐご本人に、大人になった子どもが一切手を差し伸べようとしないという場面をたびたび目にします。

親が年をとり、それでも親子仲がよいというご家族は、大人になった子どもが親に心から感謝しているというケースがほとんどです。そのような親子は、子どもが成人した後も定期的に連絡を取り合ったり、一緒に旅行に出かけたりするなどの思い出を重ねています。

親子が大人同士になった後も、離れた場所からお互いを気にかけている。大人になった子どもと、そのような関係性が築けるだけで、子育てが終わった後の生活が空虚なものにならず、心は満たされていくのではないでしょうか。

親は子どものためだけではなく、自身が幸せになるためにも、子どもからの信頼をとりにいくのです。

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記事執筆

クロカワナオキ

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。

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