醤油の量まで干渉?「子どもへの口出しが止まらない症候群」の裏にあるもの【障がい児と普通の子の両方を育てて見えてきたこと】

『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』の著者で作業療法士のクロカワナオキさんは、知的障がいのある息子さんを社会人になるまで実際に育てて今にいたります。発達に個性のある子を「どう育てるか」ばかりがフォーカスされがちななか、親が自身の人生を「どう生きるか」を語るメッセージは、育児にかかわるすべての人から共感を得ています。
今回は、親が子どもに干渉してしまう心理の背景にあるものについて、クロカワさんに論じてもらいました。

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障がいがある子どもの子育ては、子どもから目が離せないことが多く、頻繁に声をかける必要があります。その結果、親が先回りしすぎて、子どもの学びの機会を失うことも少なくありません。

それは子どもの能力が把握しにくかったり、成長の予測が困難であるためなのですが、一方で普通の子どもであっても、親が口出しをしすぎて失敗してしまうケースもあります。

親の中にある子どもの失敗を見たくない心理

先日、子育てをしている同僚と話したとき、食事の際に子どもが豆腐にかける醤油の量まで親が口出しをしてしまうという話を聞きました。細かいことまで言い過ぎているという自覚があるにも関わらず、止めることができないそうです。

親には「子どもの失敗を見たくない」という心理があります。

なるべく回り道をせず、より良い将来に向かって最短のルートで成長してほしい。子どもを大切に思うばかりに、順調に成長してほしいという気持ちが強くなり、失敗を遠ざけたくなってしまうのです。

また子どもの成長は、親の子育てへの熱意やスキルが反映されたものと見なされることもあります。「子どもが順調に成長できていないのは親の育て方がまずいのではないか」という見方です。

子どもの失敗を見たくないのは、そのような親へのプレッシャーが影響しているかもしれません。

苦しいときには子どもに承認を求めてしまう

厄介なのは、親が自身の承認欲求を満たすために子どもに口出しをしてしまっている場合です。

たとえば、仕事などが上手くいかないときに、イライラを自宅に持ち帰ってしまい、そんなつもりはないのに、子どもに対していつもより多くの口出しをしてしまった経験はないでしょうか。

家事や仕事で疲れているとき、あるいは親自身が孤独を感じているとき、その努力や苦労を誰かに認めてもらいたいという承認欲求が生まれることがあります。

その承認欲求の矛先は、最も親しみを感じている子どもへと向かいやすく、子どもに自分の言うことを聞かせたり、思い通りに動くことを強要したりすることで、その欲求を満たそうとしてしまうことがあります。

親の口出しは、子どもを成長させない

親の多くは、子どもが自分で考えて行動できる大人になるために、親が口を出しすぎるのはよくないという認識を持っています。にも関わらず、なぜ口出しを止めることはできないのか。

それは、子どもの成長と親の関わりとの関係性が整理できていないからです。

子どもの成長とは何なのか。

ひと言で言うと「子どもの行動が洗練されていく」ことです。考えが深まり、心情や状況に合った合理的な行動が取れるようになる。子どもの成長とは、考えることも含めて、行動の変化だと捉えることができます。

そう考えると、親が言ったことを、そのまま行うことには意味がないということがわかります。つまり、ただの口出しには子どもを成長させる力がないということです。

親の口出しで子どもが学ぶことは何か

とはいえ、時には親が子どもに口出しをしないといけない場面もあります。

そのときに大切なのは「口を出すことで、子どもが何を学ぶか」を考えることです。

子どもが豆腐にかける醤油の量に対して親が口出しをしたとき、子どもが学ぶことは『自分で判断すると間違ってしまう』『親の前では言うとおりにしないと怒られる』ということが考えられます。

口出しをせず、子どものやりたいようにさせると、醤油をかけすぎてしまうかもしれません。その失敗は『醤油のかける量で、どのくらい味が変わるのか』という学びになります。

失敗は「行動と結果の因果関係」への学びになる

自分の行動と結果の因果関係を学ぶ上で、失敗は重要なピースです。まだ人生経験が少ない子どもは、失敗なしに行動を修正することができないからです。

特に知的障がいがある子どもは、抽象的な概念や推測が苦手な場合も少なくありません。自身が行動した結果、どのようなことが起こるのかを「体験」によって学びます。障がいがある子どもにとっても「失敗」は、行動と結果の因果関係を学ぶための貴重な機会になるのです。

障がいのあるなしに関わらず、失敗からの学びが子どもの行動を洗練させていきます。将来のキャリア形成についても子ども自身が判断し、失敗を重ねながら社会人として成長していくでしょう。

子どもの失敗を許容できる親になる

「子どもの成長」には、子どもの失敗を許容することができるようになる「親の成長」が必要になります。

そして「子どものすることに対してむやみに口出しをしない」ことは「子どもへ伝える内容を吟味する」ことでもあります。その内容は親によって異なりますが、想いのこもったものになるのは間違いないでしょう。

豆腐に醤油をかけすぎた子どもがバツが悪そうにしたときに、それを笑いに変えられるかどうか。そんな日常の些細なことが、子どもの将来を左右することになるのです。

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記事執筆

クロカワナオキ

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。

著/作業療法士 クロカワナオキ WAVE出版 1,980円(税込)

障がいがある子どもの子育てはいつまで続くかわからない。
育児、教育、仕事、時間、お金、周囲との関係、親亡きあとの子どもの将来、そして自分の人生———  親であるあなたのことを後回しにしないために。
発達障がいの子を社会人になるまで育ててきた著者が試行錯誤してわかった、自分も子どもも優先する「こう考えればよかったんだ!」を全部詰め込んだ1冊
障がいのある子どもが不憫だし、そういう子どもを育てている自分も不幸なのでは

親の生き方は子どもにも伝わる。まずはあなたが軽やかに生きる。

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